見出し画像

カリカリ梅、セサミクラッカー、アーモンドフィッシュ|パリッコの「つつまし酒」#144

光文社新書

最近、乾きものの意味がわかってきた気がする

 40代を過ぎ、もっともわかりやすく僕の体に訪れた変化とはいえば「日に日に食が細くなっていく」で間違いないでしょう。
 そりゃ〜も〜笑っちゃうくらい「日に日に」。僕は基本、朝食はとらず、朝はお茶を飲むのみ。やがてお昼になって、さて、今日はなにを食べようかな〜? と考えるのが、その日最初にワクワクする時間。で、家で食べる場合は別として、蕎麦屋でも町中華でも定食屋でもいいんですが、出かけていって、なにか食べたいものを注文するとしますよね。すると、ほぼ確実に、自分にとっては多すぎるんです。一般的な飲食店の一食の量、たいてい持てあますんです。だけど残すのは嫌なので、ごはんもののときなんかは必ず「ごはん半分でお願いします」と注文するようにしています。
 ところが、初めて入ったお店の料理というのは、味もさることながら、量も読めないことが多い。うっかり頼んだ塩焼きそばが、「これ、マルちゃん換算で3玉ぶんくらい麺入ってない……?」なんてのもよくあること。そうすると終わってしまうんですよね。その日1日の胃袋のキャパシティが。
 夜は家族で食卓を囲みつつ、僕はお米は食べず、おかずだけをつまみにして晩酌することが多いんですが、例の「3玉事件」みたいなことがあると、それすらもあまり入らないなんてことも珍しくない。だけど1日の終わり、やっぱり酒は飲みたい。
 長くなりましたが、そういう生活を送るなかで、近年ゆっくりと、気づきはじめたんですよね。「乾きものの意味」に。

湿っていてほしかったあのころ

 20代のころには、乾きものなんてそもそも眼中になかった。すべての食べものは、なるべく湿っていてほしかった。肉汁なり、脂なりが、とにかくしたたっていてほしかった。
 30代に入ると、「あるなー」と思いはじめた。そう、あるんですよね。コンビニでもスーパーでも、お酒売り場の近くには乾きもののコーナーが。100%必ず。それでもまだ、さして興味は抱いていなかった。「自分には理解できないけど、ああいう需要ってのもあるんだな〜」くらいに思っていた。
 ところが40代となった今、コンビニで乾きものコーナーを発見したときの僕の顔と言ったら、遊びに来た初孫が庭で遊んでいるのを眺めているときのおじいちゃんですよ。「いや〜この愛らしさ、目に入れても痛くないなぁ」なんつって。
 たとえば「いかそうめん」の、決して食べた人の胃を圧迫しないぞという強い意志。極限まで湿り気を削ぎ落としてもなお肉料理であろうとする「ミニカルパス」の、想像を絶する努力の日々。コリコリ食感と酸味にステータスを全振りした「茎わかめ」の、子供からの人気などはなから求めておりませんので、という高潔さ。そんなことに思いを馳せてしまうともうダメ。すべての乾きものが、愛しくて愛しくてしょうがなくなっちゃうんですよね……え? 病院? 行ってこいって? まぁ、考えておきます。

頼もしき三銃士

 そんな乾きものコーナーにある無数のアイテムのなかで、近年、僕のなかで、そりゃあもうぐいぐいと地位を上げているのがつまり、タイトルに列挙した、3品というわけ。

画像1

パリッコ的トップ3!

 まずはカリカリ梅。そもそも僕はかつて、「酸味」ってものにまったく興味がなかったんです。だってほら、「酢の物」なんてさ、どう考えたって子供がテンションの上がるメニューじゃないじゃないですか。だけど人間の体ってのはわかりやすくできてますね。疲労回復効果などのおかげでしょう。歳を重ねるごとにどんどん、酸っぱいものが好きになっていく。
 そんなある日、ふと乾きものコーナー(カリカリ梅は厳密に言うと湿ってますが)で手にしたカリカリ梅の、バシッとハマったあの感じ! あ、そうか。こういうものをつまみに飲むという手があったのか。と、突然世界が開けたあの感じ! 忘れようにも忘れられません。
 ちなみに「ファミリーマート」には、通常の赤い「すっきりとした酸味 ひとくちカリカ梅」の他に「まろやかな酸味 ひとくちカリカリ梅」というのがあって、はちみつが入っていてほんのり甘いんです。梅干しははちみつ入りが好きな僕としては、こいつがいちおし。
 続いて「セサミクラッカー」。何気なく生きていて、あまり強く意識する機会ってなくないですか? 切手みたいな形をした、小さなあのクラッカー。最近、あいつが妙に好きだってことに気づいてしまったんですよ。塩気も甘さも控えめの、素朴な味わい。カリぽりとした小気味良い食感。噛みしめてゆくと徐々に広がりだす、ごまと青海苔の風味。その他のナッツ類と混ざった「セサミミックス」なんてのが定番ですが、通常のミックスナッツに比べ、なんだかちょっとスペシャルな感じがするんですよね。
 そしてアーモンドフィッシュ。ご存知ですか? この、定番ながらよく考えると謎な組み合わせの一品。1980年代に、東京の学校給食業者が、広島の水産会社に、「子供たちのカルシウム不足を補えるようなメニューが開発できないか?」と依頼して、それに応えて考えられたのが起源だそう。いやいや、子供たち、こんな渋いメニュー好きそうじゃないって! と思いきや、久しく食べてないって方は、ぜひ買ってきて食べてみてください。奇跡の組み合わせじゃん! と、ちょっと感動してしまうくらい美味しいんで。学校給食の世界を飛び出し、お酒のつまみとして、今や全国どこでも気軽に手に入れられることが、それを証明していますね。
 まずはアーモンドと小魚を適量口に入れる。ここでいきなりバリバリと噛み砕こうとすると、想像以上に硬い小魚により口中が大惨事になりますから、慌てずゆっくり、まずは上あごと舌を使って、アーモンドと小魚を平らに慣らしてください。余裕があればこのとき、唾液で少し湿らせるように意識するといいでしょう。
 そうしたらやっと噛みはじめる。ぽりぽりとサクサク、2種の食感の共演が楽しい。そして感じるのは、アーモンドのまろやかな香ばしさ。続いて、小魚表面にコーティングされた調味料の甘み、魚の旨味、ほんのりとした苦味。よくよく味わうと、かなり段階的な広がりのあるおつまみなんですよ。アーモンドフィッシュって。

画像2

こんな夜もいい

 日中の「3玉事件」により、胃に空き容量がなくなってしまった夜。それでも頼もしき乾きものたちが、僕の晩酌の相手をしてくれる。
 こんなときに飲みたいのは、やっぱりウイスキーの水割りということになるでしょうね。

パリッコ(ぱりっこ)
1978年、東京生まれ。酒場ライター、DJ/トラックメイカー、漫画家/イラストレーター。2000年代後半より、お酒、飲酒、酒場関係の執筆活動をスタートし、雑誌、ウェブなどさまざまな媒体で活躍している。フリーライターのスズキナオとともに飲酒ユニット「酒の穴」を結成し、「チェアリング」という概念を提唱。2021年8月には、新刊『つつまし酒 あのころ、父と食べた「銀将」のラーメン』を上梓! また、『ノスタルジーはスーパーマーケットの2階にある』(スタンド・ブックス)『晩酌わくわく! アイデアレシピ』 (ele-king books)、『天国酒場』(柏書房)、『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』(光文社新書)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)、『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、漫画『ほろ酔い! 物産館ツアーズ』(少年画報社)、など多数の著書がある。
Twitter @paricco

バックナンバーはこちらから!


みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!
この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?
気軽にクリエイターの支援と、記事のオススメができます!
光文社新書

よろしければサポートをお願いいたします。もっと読んでいただけるコンテンツを発信できるように、取材費として大切に使わせていただきます!

光文社新書
光文社新書の公式noteです。2021年10月17日に創刊20周年を迎えました。光文社新書の新刊、イベント情報ほか、既刊本のご紹介や連載をアップしていきます。お気に入りの一冊について書いていただいたnoteを収録するマガジン「#私の光文社新書」では、随時投稿をお待ちしています!