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書き込み専用・改ざん困難――『Web3とは何か』by岡嶋裕史 第1章 ブロックチェーン④

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第1章 ブロックチェーン④

書き込み専用・改ざん困難

3の説明につないでいこう。

「書き込み専用・改ざん困難であること」だ。

前提として、ブロックチェーンのデータは参加しているすべてのコンピュータに配布されていた。これだけで、割と自分勝手な改ざんが困難になる。

子どもの頃に読んだルパン三世の劇画版の思い出が強烈だったので、私はそのエピソードでこれを説明するのが好きだ。

ルパンにあんまりお宝を盗まれてしまうので、あるとき銭形警部がぶち切れてしまったのである。彼はあろうことか、犯行予告のあったお宝を風船に入れて空に浮かべてしまった。前例主義に浸かりセクショナリズムに満ちた日本の官僚としては思い切った決断である。

それまで彼は秘密の地下金庫など、しかるべき場所にお宝を隠した。そして、屈強な警官で周囲を警護する。セキュリティの常道である。しかし、ルパンのようにセキュリティシステムにアクセスする手段を豊富に持った攻撃者が相手だと、秘密の場所は単にルパンの隠れ蓑として機能してしまう。警官に化けるのも、金庫の管理者に化けるのも、そこに出入りする清掃業者に成りすますのも、自由自在だ。

秘匿していることでその素行は衆目から隠蔽されており、警官や管理者の権限は大きい。これに化けられてしまうとその瞬間にゲームは詰む。

そう思うと、空中に浮かべた風船は非常に合理的なのである。衆人環視の状態になるので、ルパンですら下手に手は出せない。いくら警官に変装しても、風船の制作者に扮装しても、空中の風船にアクセスしたらおかしいと誰もが気づく。「公開しているからこそ安全」なのである。
 
さらに、ブロックチェーンのデータの構造を思い出してみる。すべてのデータが数珠つなぎになっているのだった。ビットコインの場合はトランザクションがその対象である。お金が発生するのはトランザクションの検証に成功してブロックを追加した瞬間に限られるから、発生時点からお金の流れをたどっていけば必ず現時点でどこにいくらあるかがわかる。

仮に誰かが10ビットコインしか持っていないのに、100ビットコインを送金すれば、ビットコインの総量とのつじつまが合わなくなる。トランザクションが堆積した地層のようなものなのだ。一箇所だけ改ざんしようとしても、前後との矛盾が生じバレてしまう。

ただ、それだけだと上手く改ざんする者が出てくるかもしれない。以前に自分で作った化石を地層に埋めて、しばらくの間、新しい発見だと偽るのに成功した人もいた。

それに、いま検討しているのはビットコインで、お金の流れだから追跡することで矛盾を発見できるけれど、ブロックチェーンに格納するデータはお金だけではない。一箇所だけすっぽり書き換えられたときに、気づきにくいタイプのデータもあるだろう。

図(再掲) ブロックチェーン

このチェーンの真ん中にある「すてきなポエム」が「中二病ポエム」に差し替えられたとして、前後の「はずかしい写真」や「へそくり家計簿」とのつながりからその事実を見つけることは困難だ。

もっと、前後のデータを鎖でがんじがらめにしてあげないといけない。そこで使われるのが、「前ブロックのデータの一部を、次のブロックに埋め込む」やり方だ。上の例でいうと、はずかしい写真の最後のデータ1ビット(情報量の単位)をすてきなポエムの先頭に埋め込む。

すると、はずかしい写真を改ざんしたとき、最後のデータ1ビットも違う値になるだろうから、予め埋め込んであったすてきなポエムの先頭データと食い違いが生じる。前のブロックと次のブロックのつながりに意味を持たせ、鎖で締め上げたのである。

「すてきなポエムも改ざんしてしまえ」はいいアイデアだが、すでにすてきなポエムはへそくり家計簿ともつながっているので、すてきなポエムを改ざんすると、へそくり家計簿も改ざんしないといけなくなる。ビットコインのようにすでに70万以上のブロックが存在するチェーンなら、すべてを書き換えるのは容易ではない。

ハッシュ関数

でも、ここまでやっても、うまいこと改ざんする人は出てくる。全部のつじつまが合うようなデータを作ってしまえばいいのだ。容易ではないはずなのだが、現代のコンピュータの計算速度があれば実行可能である。

だから、もう一ひねりする必要がある。前後のデータの絡まりあいをもっと密接にするのだ。付き合い始めのカップルくらい、組んずほぐれつになっていないといけない。容易なことで引っぺがされたら困るのだ。

そこで使われるのがハッシュ関数である。その中でも暗号学的ハッシュ関数と呼ばれる特殊なものだ。(続く)

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