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理系が苦手な文系人間でも理解できた光文社新書 7選

こんにちは、光文社新書の藤です。今日は光文社新書の中から、文系に優しい理系新書を紹介したい思います。
(※セレクト基準は私の独断と偏見です。私がどれくらい理系が苦手か…は、冒頭の小話に書いてみました。書籍情報は目次2段目以降へGO!)

人生で1度だけ物理で平均点を取った人間が新書編集部に異動した話。

理系科目、私は高校入学早々に挫折した人なのですが、皆さんはどうでしょうか?? 私は、ログとかサインコサインとか、概念がよく分かりませんでした。理系の科目って、一度授業の流れから離脱すると、追いつけなくありませんか?(私だけ? ウチの高校だけ??) どうあがいてもさっぱり分からずで、定期テストは基本赤点でございました。

が、一度だけ、物理で平均点を取ったことがありました!
解答用紙を「0」か「1」で埋めたときです。

定期試験、白紙の解答用紙を眺めながら
「物理って長々と式は展開していくのに、最後はすごーくシンプルな数字に着地するよなぁ」と、授業中の黒板・板書を思い出したんですね。

膨大な数式(当時の私にはそう見えたのです)がスッと、1か0に着地するあの感じが面白く、試しに解答欄を0か1で埋めて提出したら、人生初、物理で赤点を免れました。

今思えば、数式や数の美しさを愛する先生が作成されたテストだったのでしょう。

そして今思えば…、なんて大味な解き方よ…!
もっとさぁ、繊細に、制作者の意図を汲んで、数の世界の機微とかを味わいながらやってみようよ、昔の私……とも。
ちなみに物理の先生は私の当時の担任でして、テスト返却時『…もう、やんないでね』と穏やかに言われました。バレてました。そりゃそうですね。

私の高校生活3年間の、理系におけるハイライトはコレだけ。
後にも先にも、この一回以外は、すべての理数系科目で常に赤点を取り続けて卒業しました。

さて、時は流れて2019年。
理系ワールドへの憧れと理解しあえぬ寂しさを抱え生きてきた私が、新書編集部に異動となりました。
(前の部署では文庫や女性向け書籍を作っていました)

「おっと、こりゃやばいぞ」とかなり焦り、改めて光文社新書の既刊本を読んだところ…。『あれ、これは分かりやすい。面白い』という理系の本がたくさんありました。
※以下、自社自賛ですがご容赦ください。新書で理系と和解できたのです。

例えば…。

1.『土 地球最後のナゾ』藤井一至・著/土って、地球にしかないって知ってました?

本書、「NASA、火星再現”土”で農業に成功」というニュースに嫉妬と被害妄想を抱いた著者さんが「地球の土も頑張っている」と対抗するのが目的の一冊、です。
嘘じゃないんです、本当に、冒頭にそう書かれているのです! 読み進めると分かるのですが、世界の人口を支える肥沃な「土(土壌)」って、地球にしかないそうなのです。ちなみに、地球全体では12種類の土が確認されているとのこと。
「土は地味だ」と本書の冒頭1ページ目でおっしゃる藤井先生ですが、身近にありすぎて気づけなかった「土」の実力・魅力・有難みがこの一冊に目いっぱい詰まっています。

 NASAの活動を否定する勇気はないが、土は地球上にしか存在せず、月や火星にはない。100億人を養えるのは地球の土だけだ。
 そもそも地球の土ですらよく分かっていないところに、月や火星の「土」まで登場すると頭が混乱したかもしれない。まずは、土とは何か? (中略) 専門家の集う学会の定義する「土壌」とは、岩の分解したものと死んだ動植物が混ざったものを指す。この意味では、動植物の存在を確認できない月や火星に、土壌はないことになる。あるのは岩や砂だけだ。
                 ――『土 地球最後のナゾ』より抜粋


2.『宇宙に外側はあるか』松原隆彦・著/平行世界も、あり得ない話じゃない!

「宇宙に外側はあるのか?」「宇宙の終わりはどうなっているのか?」って、誰もが一度は考え込んで、「……果てしない」と諦めた問題ではないでしょうか?(私はそうでした)
本書は、そういった「宇宙へのナゾ」(宇宙の始まり・ブラックホール・タイムマシン等々)に触れながら、できるだけ分かりやすく宇宙の仕組みに触れています。個人的に面白かったのは平行世界について。著者の松原先生は「あり得ない話ではないのです」と本書で書かれています!
(平行世界…ある選択を分岐点に、枝分かれしたもう1つの世界。よくマンガ等で「好きなキャラが死んでしまった」ときに、”if”の話として「生きている場合のその後の世界」を妄想する、アレです、…多分)

「宇宙はどうして始まったのか」
「宇宙が始まる前は何だったのか、宇宙が始まる前の宇宙は宇宙ではないのか」
「宇宙に終わりがあるとすると、宇宙の終わりの後には何があるのか。次の宇宙が始まるのか」
(中略)
 このように、疑問が尽きることはありません。
 もちろん、今のところはまだこれらの疑問に確実な答えはありません。しかし現代宇宙論の目覚ましい進展を見ると、こうした疑問にも答えの見つかる日が遠からず来るのではないか、とも思えてきます。
 なにしろ、「この宇宙に始まりはあるのか」という、一見途方もない問いにさえ、科学的な答えが見つかりました。
                 ――『宇宙に外側はあるか』より抜粋


3.『昆虫はすごい』丸山宗利・著/昆虫の世界にも奴隷制があるって知ってました?

とにかく衝撃的事実が詰まった一冊。昆虫たちの間に”奴隷制”って…! 著者の丸山先生は本書で「私たちのやっていることのほとんどは、昆虫に先にやられてしまっている」と説きます。例を挙げると狩猟採集・農業・建築・恋愛・嫉妬・戦争…そして、奴隷制まで。本書ではそのさまざまを、写真付きで解説しています。納得と感心の連続で、これまで以上に、昆虫への尊敬の念が高まりました。

 昆虫の世界にも歴(れっき)とした奴隷制度がある。一見のんびりとした自然界にも血も涙もない生物間の関係があるのである。
 といいたいところだが、そもそも自然界をのんびりとしたものとしてみるのが大いなる誤解で、静寂の中に血も涙もない死闘が繰り広げられている。昆虫の奴隷制度は、その実態をわれわれに「正直に」見せてくれる自然の姿である。(中略)
 夏になると草むらで黒いアリが別の黒いアリの巣に入り込んで、蛹(さなぎ)を運び出す光景を目にすることがある。それは、サムライアリによるクロヤマアリの奴隷狩りである。
                    ――『昆虫はすごい』より抜粋


4.『バッタを倒しにアフリカへ』前野 ウルド 浩太郎・著/冒頭から情報量がスゴイと話題の一冊

以前にこちらの記事でも書きましたが、スピード感、情熱、知的好奇心をくすぐるストーリー展開、すべてのバランスが絶妙な一冊です。著者の前野先生の青春記としても、バッタとアフリカの関係性を知る意味でも、面白く読めて、読んだ後に元気が出ます。冒頭1ページ目から素晴らしいです(下記、引用部分です)。

 100万人の群衆の中から、この本の著者を簡単に見つけ出す方法がある。まずは、空が真っ黒になるほどのバッタの大群を、人々に向けて飛ばしていただきい。人々はさぞかし血相を変えて逃げ出すことだろう。その狂乱の中、逃げ惑う人々の反対方向へと一人駆けていく、やけに興奮している全身緑色の男が著者である。
 私はバッタアレルギーのため、バッタに触れられるとじんましんが出てひどい痒みに襲われる。そんなの普段の生活には支障はなさそうだが、あろうことかバッタを研究しているため、死活問題となっている。こんな奇病を患ったのも、14年間にわたりひたすらバッタを触り続けたのが原因だろう。
              ――『バッタを倒しにアフリカへ』より抜粋


5.『雲を愛する技術』荒木健太郎・著/映画『天気の子』も監修した著者さんによる、雲へのラブレター

綺麗な空と雲のことがもっと分かる一冊です。本書の出版は2017年12月でして、その後に公開された映画『天気の子』(2019年夏公開)では、著者の荒木先生が気象監修をされています。※下記では新海監督との対談も!

本書はカラー写真がふんだんに使われており、それだけで美しいのですが…。やはり本書も冒頭から世界観が全開。美しさ全開で引き込まれます。

 私は「雲研究者」と名乗って雲の研究をしていますが、昔から雲が大好きだったわけではありませんでした。前著『雲の中では何が起こっているのか』(ペレ出版)を執筆しているとき、初めて雲の心をどう表現できるかを考え、雲と真正面からから向き合ったのです。すると、これまで研究対象でしかなかった雲たちが活き活きと語りかけてくれるようになり、世界が大きく変わりました。彼らのことを知り、声を聞いてその心を読めれば、雲と意思疎通をして雲を愛でられるということを体感しました。知れば知るほどすきになるのです。雲を愛してやまない雲友(くもとも)のみなさんと共有し、雲愛(くもあい)を深め、そして広げていきたいと思って筆を執りました。
                   ――『雲を愛する技術』より抜粋


6.『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』山田真哉・著/数字を多用してないのに数字が読めるようになる本

理系の括りからはずれるかもしれませんが、光文社新書の代表作にしてベストセラー。数字を多用していないのに数字が読めるようになる一冊です。この本は徹頭徹尾、やさしく書かれています。2005年の出版でいまだに売れ続けており、もし未読の方がいらっしゃったら、ちょっとだけでも、立ち読みしてほしいです。下記、プロローグの抜粋になりますが、さらっとそこだけでも、ぜひに!

 会計の入門書をお読みになったことはありますか?
『やさしい会計』『よくわかる会計』『会計は簡単だ』といったタイトルの本が、本屋さんに行けばたくさんあります。そして、それらの本はそこそこ売れ、また似たような本が毎年出されています。しかし、実際に「会計はやさしかったです」という話を聞いたことはあまりありません。
 なぜでしょうか? (中略)
 私の経験からいっても、会計はやはりむずかしいと思います。これほど敷居の高い学問はないと思っています。わかってしまうと簡単なのですが、わかるまでにかなりの労力を要します。(中略)
 しかし、会計の本質はそれほど難しくないというのも私の実感です。それも、会計の本質的な話になればなるほど、私たちの身近な生活の話にもつながってきます。
 それもそのはず、会計の考え方は、もともと私たちの生活をより便利にするために生まれてきたのですから。
           ――『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』より抜粋


7.『中学の知識でオイラーの公式がわかる』鈴木貫太郎・著/中学算数から”山頂”までの道を教えてくれる本

こちらの記事にその内容は詳しいのですが、ざっくり申し上げますと、大人気ユーチューバーの著者さんによる「最も美しい数式」の解説書です。
もしまだお手に取ったことのない方のために、ちょっと中身をお見せしますと…。

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こんな感じで、通常の新書よりもかなり大きな文字で、ゆったりと組んであります。文章もとても分かりやすいです。…これだけで、数学の苦手意識が強い私なぞは、「優しい…!」と感動いたしました。

前掲の記事では、著者の先生の動画サイトに飛ぶようになっており、そちらを見ていただくのが一番早いかもしれません。が、本書の「はじめに」も素敵でしたので、以下、抜粋してご紹介を…。

 同じ太陽でも、普通に晴れた日に見上げるよりも富士山頂から雲海に浮かぶ姿を眺めるほうが圧倒的に美しく感じるはずです。(中略)それは、自分の足で標高3776mの頂(いただき)まで登るという過程を経て、かつ視界を遮るものが一切ない日本一高いところに立って眺めるということが大きな要因でしょう。(中略)
 オイラーの公式を富士山頂から眺めるご来光とするならば、ほんの数分間の感動的な日の出を眺めるための約8時間の登山という労力に相当するのが、中学・高校で習う数学の基本定義・公式・定理を自分の頭で「理解」することです。ここで重要なのはあくまで「理解する」ことであって、公式を「覚える」ことではありません。
         ――『中学の知識でオイラーの公式がわかる』より抜粋

以上、苦手意識があっても読了出来て感動した光文社新書、7冊でした。

理系世界に憧れつつ遠目で見てるしかできなかった人間なので、こうしてわかりやすく語ってくださる方(または本、コンテンツ)に出会えると、それだけで「や、優しい…!」と素直に感動します。ファンになります。
もし身近に「文系に優しい理系コンテンツ」がありましたら、ぜひ教えてほしいです。

あと、いつか私も「わかりやすくて面白い理系世界の本」を手掛けられたらなぁ、と思っておりますので、実現した際にはぜひ皆様、よろしくお願いいたします。




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