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「子どもたちは、窓際が好き」米国人のカラー撮り鉄が記録した60年前の日本

光文社新書で1年ぶりに続編が登場した、昭和30年代のカラー写真を集めた『続・秘蔵カラー写真で味わう60年前の東京・日本』。著者のJ・ウォーリー・ヒギンズさんは、米国出身で、日本と日本の鉄道を愛するあまり、日本に移住してしまった、現在92歳の老紳士。鉄道ファンの間では「撮り鉄」として名前が知られています。ウォーリーさんの撮った写真は、いま、鉄道写真としてだけでなく、当時の日本各地や人々の様子をカラーで記録した貴重な資料として、注目を集めています。
続編となる第2弾では、544枚の写真が掲載されていますが、それでも収録できない写真がありました。今回は、未収録写真の特別公開、第2回をお届けします。出版にあたり取材、翻訳、写真整理に携わったライター・翻訳家の佐光紀子さんによるコラムでのご紹介です。ぜひ、お楽しみください!

文/佐光紀子
写真/J・ウォーリー・ヒギンズ

「窓際は、子どもたちの特等席」

こんにちは、ライターの佐光紀子です。前回ご紹介した、ウォーリー・ヒギンズさん撮影の「どこまでも続く線路」の写真は、いかがでしたか? 私の周囲では、鉄ちゃんにも、そうでない人にも、大好評でした。

他にも、私がウォーリーさんの写真を整理しながら、つい、注目してしまった写真があります。それは、電車の窓を大胆に開けて、中から顔をのぞかせる人たちの写真。

「今は、昔のように窓を開けられる電車が少なくなったからね」とウォーリーさん。「電車が走っている間、窓を閉め切ってエアコンで室内を冷やすというのは、環境を考えるとあまりよいことでもないだろうけれど」と言います。たしかに、その通り。

それにしても、彼の撮ってきた写真には、窓から顔をのぞかせたり、外に乗り出したりしている子どもたちの生き生きとした姿が、たくさん写り込んでいます。かわいいね、と指摘すると、「外の景色を直接見たければ、窓を開けた方がいいにきまっているよね」という返事が返ってきました。「窓を開けるだけじゃなく、頭を外に突き出した方が、もっとよく見えるだろう」。そういってウォーリーは笑います。

写真①+

新四日市(三重県)1957年4月18日 菜の花畑を走る列車。奥の車両からは、子どもたちが頭を出しているのが見える。

そうは言っても、窓を開けなければ起こらない問題が、窓を開けて頭や手を突き出すことで往々にして起こることも、また事実です。

「いい景色を楽しんで、新鮮な空気を味わいたいと思ったら、窓は開けた方がいいよね。それが正しいやり方だろう。でも、それが安全かというと、残念ながらそうはいかない」

だから、万が一を考えて、はめ殺しの窓が増えたのでしょう。電車の窓が昔は開いたものだと聞いて、驚く人の方が多くなるのも、時間の問題かもしれません。

「過剰に安全にして走ると、頭や手を窓の外に出すことはなくなる。それが本当にいいことかどうかは、わからないけれど」

外の見られる窓際は、昔も、そして窓の開かなくなった今も、子どもたちの特等席です。そして何より、これから行く先の線路が見える正面の席は、さらに特別席。席が空いていれば、そこに子どもたちの姿があります。彼がかつて写した写真には、特等席に陣取り、窓を開けて外の風と流れていく風景を楽しむ、子どもたちの様子が、しっかりと写り込んでいます。(小さいですので、ぜひ、拡大してご覧ください…!)

※撮影地などは記録されたデータに基づいて記載をしています。万が一間違いがあった場合は、お許しいただけたらと思います。


写真②

鶴来駅付近(石川県)1957年6月1日 窓から身を乗り出して外の景色を眺める子ども。


写真③

金谷(静岡県)1957年7月19日 千頭行きの大井川鐵道。「東京もそうだが、7月の静岡は暑い。暑くてベタベタするんだ。夏だからね。暑い時はどうするかというと、電車のドアを開けてその脇に立てば涼しいわけだ。当時の電車には、手動でドアの開閉ができるものも多かった。写真の子どもたちも、おそらくは涼を取るべく自力で開けたものと思われる」(ウォーリーさん)


写真④+

西広島(広島県)1957年04月26日 制服姿の女子学生が、正面の窓から外を眺めている。


写真⑤

長岡市悠久山駅付近(新潟県)1960年7月24日 先頭付近には子どもたちが押し合いへしあい、ラッシュアワー並みの混雑具合なのは、電車に乗っての遠足かなにかだろうか。


写真⑥+

高尾山口駅(東京都)1961年7月9日 兄と妹だろうか。似たような黄色い帽子をかぶった子どもたちが、混んだケーブルカー(「もみじ号」)の車内の特等席から顔をのぞかせている。


写真⑦

笠上黒生駅(千葉県)1963年12月28日 銚子電鉄。座席はそれなりに埋まっているようだが、窓から外をのぞく大人の姿はない。扉付近に立ってこちらを見ている少女は、車内で唯一の子どもだったのかもしれない。

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ウォーリーさんの写真に写り込んだ、窓際の子どもたちと鉄道の周囲の風景、お楽しみいただけましたでしょうか?
前作よりさらにパワーアップして発売された光文社新書『続・秘蔵カラー写真で味わう60年前の東京・日本』当時を知る人も、知らない人も、たっぷり楽しめます。またご家族やご友人へのプレゼントにも、ぜひお買い求めください…! 
未読の方は、第1弾もおすすめです。​



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