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ニラそばの季節|パリッコの「つつまし酒」#243

年の瀬を告げるあのメニュー

 今年もついに、「福しん」のニラそばの季節がやってきました。
 関東地方をメインに店舗展開するローカルチェーンで、なにしろリーズナブル、かつ、ほっとする味わいの中華料理たちが魅力の、大好きなお店。その店頭に「ニラそば」のポスターが貼られだすと、あぁ、もう年末なんだなと感慨深くなります。

今年もそんな季節か……

 といっても、僕がそのニラそばを初めて食べたのは一昨年。それ以前も、飲み友達がよくSNSなんかで、「今年もニラそば始まった!」なんてざわめきだし、へー、そういうものがあるんだ、なんて思いつつ、なんとなくスルーしてしまってたんですよね。ところが、ついに気になる気持ちが限界を突破して食べてみたところ、これがもう、シンプルに、びっくりするくらいうまかったんです。

人生初、福しんのニラそば

 しゃきしゃきのニラと刻まれたチャーシューが丼上を覆い、スープのベースはみそで、ごまもたっぷり入っているから、ちょっと坦々麺っぽくもある。れんげですくってもすくってもずぞぞと口に入ってくるニラとチャーシューの嬉しさ。素直な味わいの中華ちぢれ麺。それらが奇跡のバランスで、なぜこれを通年出してくれないんだと。いやでもだけどしかし、通年じゃないからこそこんなにありがたいのかもしれないぞと。とにかく大興奮しつつ、すすりつくしたのでした。

潤沢なニラ&チャーシューの嬉しさ
素直な麺がまたいい
エメラルドブルーな「福しんサワー」

 ちなみに、辛いもの好きの僕は初年度から「5辛」をいってしまい、ハードな刺激に悶絶しつつも、美味しくいただきました。そのことをニラそば好きの友人に話すと「え? 5辛? 福しんのニラそばって、普通でもじゅうぶん辛いのに」との返答。そうだったのかと。翌年、つまり昨シーズンは、あえて「普通」を食べてみました。

ニラそばの普通

 すると確かにほんのりとピリ辛で美味しいんだけれども、個人的には若干刺激が足りない。今年は、3辛あたりを攻めてみようかな〜、なんて思っている昨今なんですが、すみません、そんな個人的なこと、どうでもいいですよね。

ニラそば沼にハマる

 ところでですね、先日のお昼、妻と外食するタイミングがありまして、そういえば近年オープンしたらしいけれども行ったことのないラーメン屋さんがあったなと。そこへ行ってみようという話になったんですね。それが地元石神井公園の「とら」というお店。

「とら」

 無科調のつけめんとラーメンが看板メニューらしく、まぁ初めてだし、そのどちらかかな、なんて思っていたのですが、券売機の前で気持ちが変わってしまいました。だって、限定メニューに「青唐ニラそば」なんてのがあるんだもん。ニラそばも青唐辛子も大好物の僕としては、もはやそれ一択。それと、リーズナブルさが嬉しいレモンサワー、お願いします!

「缶レモンサワー」(税込350円)
「青唐ニラそば」(1100円)

 目に鮮やかな緑色のニラでうめつくされたどんぶりの中央に、白髪ねぎの山。それをどかすと角切りの炙りチャーシューがごろごろ。麺はこのメニュー専用の平打ち。どこまでも優しく、無化調とは思えないほどにふくよかで旨味あふれるスープ。そこにフレッシュ感のあるニラの香りと食感が広がるわけですが、加えて重要なのが「自家製青唐油」の風味。そこまで辛すぎるわけではなく、しかしピリ辛さと爽やかな青っぽさが重なり、いや本当に、もはや僕の理解できる範疇をはるかに超えてうまいです。

具だくさん
麺もうまい
永遠に飲んでいたいスープ

そのパターンもあったのか!

 その経験から今年の僕、完全に“ニラそばモード”に突入してしまいまして。仕事の関係でどこかに出かけたりすると、近くにニラそばを食べられる店はないかな? なんて検索をするようになってしまいました。そうして見つけたのが、神保町にある「三幸園」という老舗の町中華。

「三幸園」

 近寄ってメニューサンプルを見てみたところ、なんとここのニラそば、カップ麺にもなっているほどの名物らしいですね。

知らなかった

 着席し、さっそく「にらそば」(930円)と、「レモンサワー」(500円)を注文。それから、外の看板に「中華料理・餃子の店」とあったので、そりゃあ食べておきたい「餃子」(580円)も合わせてお願いします。

「レモンサワー」
「にらそば」

 しばし後、やってきたニラそばは、潔いまでのニラっぷり! 中央の卵黄以外は緑一色。また、そのニラを包み込むように薄く油の層があり、顔を近づけてみると香ばしいごま油の香りが。なるほど、ひと言にニラそばと言っても、お店ごとに個性があるもんですね〜。

スープというか、ニラ
つやつやの麺もいい

 で、このスープをれんげですくい、ひと口飲んでみて驚いたんですが、ここのニラそばのニラ、食感がとろとろふわふわなんですよ。恥ずかしながら僕、今までのとぼしい経験から、ニラそばのニラはしゃきしゃき食感であるべきと思っていてしまったんですが、そんな単純な話ではなかった。もちろん、ニラらしい食感はちゃんとあるけれども、熱々の油に包まれ、芳醇なつゆと渾然一体となったニラは、まるでそういうスープ料理のよう。香り高いそれを、麺にからめつけながら食べる快感。正直、むちゃくちゃうまいっす……。

餃子も超うまかった

 後半、当然中央の卵黄を崩して味変を試みてみたんですが、これまたすごい。ただでさえとろりとしたスープにまろやかさが加わって、なんだかもう、頭がぼーっとしてくるくらいの癒され度です。

うまいー

 唯一後悔が残ったのは、最初にレモンサワーとともにやってきた一味唐辛子。僕は当然のように餃子のたれに使ってしまったんですね。ところがこの記事を書くにあたり、念のためお店の情報を検索してみたところ、あれ、ニラそばを頼むとついてくる調味料らしいんですよね。
 つまり僕は今回、三幸園のニラそばの第二形態までしか味わえなかったということ。あのまろやかなスープに唐辛子を加えた第三形態はどんな味だったんだろうか。
 再度の調査が必要そうです。


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パリッコ(ぱりっこ)
1978年、東京生まれ。酒場ライター、DJ/トラックメイカー、漫画家/イラストレーター。2000年代後半より、お酒、飲酒、酒場関係の執筆活動をスタートし、雑誌、ウェブなどさまざまな媒体で活躍している。フリーライターのスズキナオとともに飲酒ユニット「酒の穴」を結成し、「チェアリング」という概念を提唱。2021年8月には、新刊『つつまし酒 あのころ、父と食べた「銀将」のラーメン』を上梓! また、『ノスタルジーはスーパーマーケットの2階にある』(スタンド・ブックス)『晩酌わくわく! アイデアレシピ』 (ele-king books)、『天国酒場』(柏書房)、『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』(光文社新書)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)、『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、漫画『ほろ酔い! 物産館ツアーズ』(少年画報社)、など多数の著書がある。
Twitter @paricco

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