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光合成、はじめます……?|辛酸なめ子

体調と人間関係のトレードオフ

 肉をほとんど食べない生活になってから3年半。子どもの頃は肉至上主義の家で育ったため、料理に肉がたくさん入っていると嬉しい、という思考回路でした。30代前後、肉の中でも牛肉を食べるともやもやしたり集中力が落ちることに気付き、まずは牛肉をやめました。そして2020年の2月頃、マイクロブタカフェでブタと友だちになれると思ったのがきっかけとなり、豚肉と鶏肉も含めて肉全般をできるだけ避けることにしました。また、以前から食肉は環境負荷が高いと聞いていたので、いつかは肉をやめた方がいいのでは? と思っていたのもあります。たった1人の行動によってはあまり変化がないかもしれませんが……。

 変化というと、心身が軽くなった、というのが一番大きい体感です。怒りがあまりわかなくなった、生理痛が軽くなった、肌荒れの頻度が減った、といった良い変化も。肉を食べないと言うと飲み会や会食に誘われる頻度はさらに減少。人間関係もすっきりしましたが、コロナ禍でもあったのであまり気になりませんでした。もちろん肉を控えるのは個人的な選択なので、同席している人がどんなに肉を食べても気にしません。

 ただ「肉食べないんです」と言うと場が微妙な空気になってしまうことが多く、次第に誘われなくなりました。仕事のあとバーベキューになって、地方出張だったので流れで参加したのですが、「このテーブル肉がなかなか減らないですね」などと言われて気まずくなったこともありました。自分の肉を食べたい欲求はほとんどないのですが、空気に負けそうになることがあります。

食べられるものがない!

 また、大変なのは日々の食事や惣菜選びです。街のレストランやデパ地下などを見ていると、日本は肉で回っていると思えてくるほど、なんでも肉が入っています。魚介までやめると本当に食べるものを探すのが大変なので、一応分類的には魚介と卵は食べる「ペスカタリアン」になるのですが、それでもなかなか食べられるものがありません。

 あるデパ地下では、たまに行くイートインのカレー屋があって、そこには期間限定でエビカレーやサバカレーが出ていたのですが、久しぶりに行ったら違う店になっていました。メニューを見ると、松坂牛スパイシー、バターマサラチキンなど全て肉入りメニューでした。お店の人に「肉以外はありませんか?」と聞いたら「ないです」とのこと。また、ある時は駅ビルのデリで惣菜を買おうとしたら、ラザニア、トマトソースのハンバーグ、ミートソースパスタなど肉メニューがほとんどでマッシュポテトくらいしか食べるものがありません。別の日も、駅前のビルでカフェに入ろうとしたら、メニューが、ルーローハン、アジアンチキンライス、豆乳坦々ヌードル、台湾まぜそば、というラインナップで全滅でした。食べられるものを探して街をさまよう日々です。

ぺスカ? オボ?? ラクト???

 肉はないと思って頼んだものに肉が入っているパターンも。先日も、豆腐の店でがんもどきを買ったらなぜか細かいベーコンが入っていました。ベーコンはみんな大好き、という固定観念があるようで、サラダにもときどきベーコンパウダーがかかっています。カレールーを選べるお店で「野菜のルーでお願いします」と言ったのになぜかビーフのルーで来て、知らずに途中まで食べたら明らかに肉の繊維が。ハメられた感でちょっと悲しくなりました。久しぶりの牛肉で、しばらくしてもやもや感とともに胸が熱くなってきました。この体が熱くなる感じで一瞬やる気が高まるのが、人を肉に駆り立てる理由かもしれません。

 肉を食べないとはいえ、魚介や卵を食べる「ペスカタリアン」なので比較的ユルい食事スタイルです。動物の肉だけを食べない場合、「ノンミートイーター」という言い方もあるようです。一番厳格なのは完全菜食主義の「ヴィーガン」。動物性のもの全てを、成分を含めて排除します。動物から搾取しない生き方を貫き、レザーやファーも身に付けません。「ベジタリアン」は、肉も魚も動物性食品をとらず、野菜中心の食生活です。その中にも、卵は食べないけれど乳製品は摂取する「ラクト・ベジタリアン」、乳製品はとらないけれど卵は食べる「オボ・ベジタリアン」、赤身の肉は食べずに淡泊な鶏肉や魚を食べる「ホワイトベジタリアン」など、いろいろ細かい分類があるようです。

 主義というよりもはや食べ物の好き嫌いでは? という分類も。それなら私も、シイタケと肉を食べない「ノンシイタケ ペスカタリアン」などを名乗りたいです。多様な食事スタイルの中、最も道徳的な優位に立てるのはヴィーガンでしょうか。

光を食べる

 フルーツが主食の「フルータリアン」(果実食主義者)もベジタリアンの一種。りんごや桃、ぶどうにバナナなどフルーツを食べているのは富裕層のようで優雅なイメージです。ちょっと前にオンラインでフルータリアンの女性のセミナーがあったので受けてみました。

「フルータリアン栄養学」を提唱する福田さんは50代と聞いて驚く美肌の持ち主。全身写真も映し出されましたがスタイルもかなり良いです。約15年間フルーツが主食で体調もとても良いとか。「体は軽くて寝起きが良い。頭がすっきりします」と、おっしゃっていました。人類はアゴと歯の形を見ると、チンパンジーなどと同じ「果食動物」だという説があるそうです。たんぱく質はフルーツにも野菜にも含まれているとのこと。南国のフルーツを食べると冷え性になるのでは? という質問もありましたが、「服を着込んで適度な温度に整える」のが良いそうです。「身体を維持するために必要なエネルギーの90%は食べ物以外」という細胞生物学のブルース・リプトン博士の説も紹介していました。

 フルータリアンからさらに食事量を減らしていき、光を吸収して体内のクロロフィルでエネルギーを作れるようになる、いわば光合成人になるのが理想だそうです。光を吸収して生きていければ食料問題も環境問題も解決です。クロロフィルを活性化するにはコールドプレスジュースがおすすめだとか。コールドプレスジュースは一杯1000円くらいするし、そもそもフルーツも高い上、このところ値上がりしています。なかなかフルータリアンや不食の人には近付けません。経済格差が霊的進化の差になっていきそうですが、とりあえず保留で将来の参考にさせていただきます。

コッペパン・カルマ

 先日、肉を食べない先輩である女友達と久しぶりに会いました。そのYさんは、生まれてこのかた肉を食べていないそうで徹底しています。肌がきれいで痩せていておしゃれで、波動も高い印象のYさん。物心ついたときから、動物由来のものが口に入ると強烈な違和感があって、いっさい食べなくなったとか。

 給食の時はどうしていたのか聞いたら、「クラスに何でも食べる男子がいて、その子に食べてもらってました」とYさん。コッペパンに肉を挟んで、離れた席の男子まで回してもらう、というテクを編み出したそうです。育ち盛りの男子にとっては嬉しい習慣なのかもしれませんが、肉食のカルマをかわりに引き受けてくれた、という見方も。

「毎回クラス替えでは、肉を食べてくれる男子と一緒になれるかどうか、ということだけに怯えていました。でも、万一違うクラスになっても、別の大食いの男子を見つけることができました」

 クラス替えの懸案事項が、好きな男子と一緒になれるか、とかではなく、肉を食べてくれる男子と一緒になれるか、というのが常人と違います。私も偏食で、小学校の給食は掃除の時間も食べ続けて辛かったですが、かわりに食べてくれる人はいませんでした……。

 Yさんは、十代の頃から動物倫理について真剣に考え、アニマルライツセンターにお年玉を寄付していたそうで筋金入りです。常日頃、動物たちの思いを真剣に受け止めていて、「スーパーの肉の売り場に近寄るたびに苦しんでる鳴き声が聞こえて、肉コーナーは顔を背けて足早に通り過ぎます」だそうです。魚コーナーは? と聞いたら「特に大丈夫」とのこと。魚も声なき声は発していそうですが……。野菜も実は何か訴えているかもしれません。

「でも、調理済みの肉にはそこまで負の念は感じません。切り立ての肉が一番感じます。肉食がなくならないなら、せめて痛みのない方法で……と思います」

 肉も調理されたら観念して、あとはおいしく食べてもらうことで成仏するのかもしれません。

マイクロブタカフェ格差

 Yさんは「牛由来のゼラチンが入っているゼリーやマシュマロも違和感があって食べられない」とのことでかなり感覚が鋭いです。ちなみに最近の大豆ミートは以前よりおいしくなっている気がしますが、「今まで唐揚げも餃子も食べたことないから、大豆ミートの食感が不思議でびっくりする。あれは肉を食べたことがある人向け」という言葉に、なるほどと思いました。

 そもそも肉の味や食感を知らない人にとっては、正体不明の不自然な塊なのでしょう。大豆ミートなどの代用肉は、肉をやめたけれど、まだ少し肉への未練や記憶がある人向けの食材なのです。肉食の煩悩から完全に脱したら、大豆ミートも食べたいと思わなくなるのでしょう。

 そのYさんと一緒に、マイクロブタカフェに行きました。私はこの系列店に行くたび、かわいいブタたちがスタッフに愛情深くケアされているのを見て安心していたのですが、「もし品種改良されていたり、不自然な種付けが行なわれているのならかわいそう。バックステージまでは見えないので、調べてみないと」と、Yさんはさらに深く掘り下げて考えていました。

▲ 友だちになれます

 そんなYさんの動物愛護精神を察したのか、店に入ったとたん、ブタたちが次々彼女の元へ。ふと見たら、なんと4匹ものブタがYさんの膝に乗っていました。さらにこのカフェで一番体が大きいボスみたいなブタまで挨拶に来ていました。マイクロブタたちはいつしか眠りに落ちてリラックスしています。私はせいぜい2匹しか乗ってこなくて、さすが動物は、人間を見極める力が。いつかYさんの身に困ったことが起きたら、動物が恩返ししてくれそうです。猫の譲渡のイベントや動物愛護がテーマのイベントを開催しているとのことなので、さらに動物たちや地球から愛される人に……。

 食生活を変えるだけでなく、精神性も高められるのが真のベジタリアンなのかもしれません。自分よりもストイックな食生活の人と会うとついマウントだと感じてしまう自分はまだまだです。逆に、肉好きな人に無意識のマウントをとっていたかもしれないことを反省。

 もっと平和な波動を出せるようになって、会食に行かなくなって友人知人と疎遠になったぶん、動物に好かれる体になりたいです。 


今月の言葉

肉を食べないことに優越感を覚えるのは、まだ肉の残留エネルギーが残っている証拠。肉食の人とも平和に共生するのが理想です。


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