指導する側も知っておきたい!「研究の心得」とは――よい探究活動には支援が必要:『「探究学習」入門』|中田亨
◆よい探究活動をするには支援が必要
私が大学院生だった時、学科の教官たちが持ち回り形式で担当をする講義がありました。その中に、人工心臓研究の権威である井街宏(いまち・こう)
教授の当番回も含まれていました。
先生は、人工心臓の話もされたのですが、「人工心臓の研究に関わりのない学生さんが大半だろうから」とおっしゃって、受講者全員に役立つ話題として、研究の心得を講義されました。そのいくつかをここに掲載したいと思います。
「下手でも気にするな」とは、怖気(おじけ)づくなということです。研究は前人未踏の領域を行くのですから、誰でも下手で当たり前であり、上手な人や熟練した人はまだ存在していないのです。
「良いものは真似をせよ」は、先人の真似をすれば済むことは、謙虚に真似をしようということです。すでに成功することが分かっている手段は、そのまま受け継ぎましょう。
これは当然の理に見えて、意外と守る人は少ないものです。他人の真似をするなど研究者としてのプライドが許さないということがあります。
企業にも「わが社が発明したものじゃないなら使わない」という対抗心があります。これを「Not Invented Here(NIH)シンドローム」といいます。
研究のテーマの核心についてなら「真似をするぐらいなら、それを上回るものを発明してやろう」と対抗心を持つことは研究者として大事です。しかし、部品についてまで、買えば事足りるものを一から自前で作り直すのは無駄です。
「道具をそろえろ」は、「弘法は筆を選ばず」とは真逆の発想です。ただでさえ素人が探究をするのですから、道具がベストでなければ、まず失敗します。
たとえば、材木を切るのに安いのこぎりを使うと、切り口が歪(ゆが)みがちです。その上、疲れますし、下手をすればケガをします。一方、電動工具を使えば、楽に速く正確に切れます。
実験を、正確に、精密に、短期間で、低事故率かつ、低故障率でやろうと思ったら、プロ向けの道具を使わないといけません。「成功は道具で勝ち取るもの」という一面が、探究の世界には色濃くあります。有り合わせの道具を安直に使うのではなく、専門の道具を探してみることが大事です。
「専門家の言うことを鵜呑みにするな」とは、専門家であっても自分の体験したこと以外については、間違った推測を言いがちであるということです。
本書で前述した、人工知能による一般画像認識も、今では当たり前に使われている技術ですが、専門家は実現するのはもっと先の未来になるだろうと思っていました。「灯台下暗し」といいますが、なまじ詳しい専門家ほど、推測は当たらないものなのです。
未知のことは、実際にやってみなければ分かりません。サントリーの創業者である鳥井信治郎のモットー、「やってみなはれ。やらな、わからしまへんで」の通りなのです。
では、専門家をあなどってもいいのかというと、それもいけません。「良いものは真似をせよ」の原則があります。専門家の推測は疑うべきですが、専門家自身が実地で成功してきた方法は洗練されていて優秀です。それは素直に学ぶべきでしょう。
これら探究のコツは、生徒に対してだけでなく、生徒を支援し指導する先生や学校にとっても指針となります。
支援のスタイルには次の3種類があります。
先生の役割として、一般的には伴走型支援がイメージされますが、それだけではありません。支援は多角的に充実させたいものです。
(以上、『中高生のための「探究学習」入門』より本文を抜粋してご紹介いたしました。)
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著者プロフィール
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