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かつて女性の40%ほどが狩猟に関わっていた?―僕という心理実験Ⅻ 妹尾武治

トップの写真:ビッグバン直後に誕生した最初の分子「水素化ヘリウムイオン」が発見された惑星状星雲NCG 7027 © Hubble/NASA/ESA/Judy Schmid

妹尾武治
作家。
1979年生まれ。千葉県出身、現在は福岡市在住。
2002年、東京大学文学部卒業。
こころについての作品に従事。
2021年3月『未来は決まっており、自分の意志など存在しない。~心理学的決定論〜』を刊行。
他の著書に『おどろきの心理学』『売れる広告7つの法則』『漫画 人間とは何か? What is Man』(コラム執筆)など。

過去の連載こちら。

第2章 日本社会と決定論④

スカイラブハリケーンと棒が見る瞬間――心理学的な脇道


 “狩猟採集社会“というと、面白い論文が2020年の11月4日に、最高峰の学術誌であるサイエンスに掲載された。

狩猟採集時代の人類の遺跡では、埋葬された骨が見つかることがある。この骨と共に、石器が見つかるケースがままある。狩猟に用いたやじりなどである。現代の人でも「おじいちゃんが大事に使っていた帽子を一緒に棺に入れましょう。」なんてことはあり、おそらく生前使っていた道具をその人物とともに埋葬したのだろう。(ただし、この前提が大昔の人類において覆る可能性は0ではない。)
 
ここで論文の著者たちは面白いことに気がついた。狩猟のための石器が添えられた骨のDNAを鑑定したところ、必ずしも男性だけではなかったのだ。そこで、北米中米南米の広い地域で見つかった骨をグループ分けしてみた。

男性の骨と(狩猟用)石器のセット、女性の骨と石器のセット、男性の骨のみ、女性の骨のみ、性別不明の骨と石器のセット、性別不明の骨のみ。この生起頻度と地理的な距離の情報を全て考慮に入れて、数学的なモデルを立てた。

女性の骨と石器のセットを、女性の狩猟者だという想定を置いた場合、その割合、つまり女性がハンターを仕事としてやっていた割合はどの程度だったと見積もられるか?を複雑な計算式によって求めたのである。

地理的条件(距離)が数学的に考慮されたのは、遠隔地における骨の性別と石器の埋葬パタンの一致率は、それが局所的な文化に過ぎないのか、それとも人類全体の傾向だったのかの議論に役立ったからだ。

その結果、女性の40%ほどが狩猟に関わっていたと考えると最も妥当な数値となると論文は報告している。
 
「男性が狩りをして、女性はその間家を守っている。せいぜい、貝や木の実を拾っているだけ。」

この考え方が覆ろうとしている。
 
考えてみて欲しい。毎日家で本しか読んでいない私のようなおじさんを、男だからと狩りに出すだろうか? 澤穂希や、丸山香里奈のような俊敏な動作と瞬時の判断にとても長けた人を「女性だから」という理由で狩りから締め出すだろうか? 小学生時代、体育の時間のサッカーで、彼女たちはバリバリ役立って、パスがバンバン来ていただろう。

僕はコートの隅っこで、M君とスカイラブハリケーンごっこにいそしみ、真顔でかつ無音でそれを崩れさせていた。

誰も見たことがなく、確かめようがないからと言って、大人からの伝聞を無批判に受け入れることが「次の大人への成長」として称賛されて良いのか。自分自身の頭で”教科書”を疑って欲しい。自分の世界のことを、自分の頭でしっかり考えたと自負できるなら、どんなトンデモな説であっても、科学的エビデンスがなくても、それがあなたの世界の真理であり、他者には触れえぬものなのだ。堂々としていて欲しい。

「物事が変わるのは一瞬だ!」

 常識は、一旦疑われればもろく崩れる。崩れてしまえば、むしろ「なんであんなこと信じていたのだろう?」と不思議に思うくらいになってしまう。
 
新日本プロレスのYOSHI-HASHI選手は、デビューから12年間も無冠だった。圧倒的なプロレスセンスを持ちながらも、優しい人柄(と棒)がタイトルから彼を遠ざけていた。2020年の8月9日の東京の後楽園ホール。NEVER無差別級6人タッグ王座の新王者に輝いた彼は、リング上でこう叫んだ。
 
「物事が変わるのは一瞬だ!」

私は、YOSHI-HASHI選手が大好きだ。

YOSHI-HASHI選手(筆者撮影)

ある日を境に、決定論の方が正しかったと世間は思い始めるだろう。地球が世界の中心ではなかったことが常識になったのと同じように。その瞬間を共に体感したい。(続く)

 
 


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