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【24位】ザ・ビートルズの1曲―「抱きしめたい」気持ちを胸に秘めながら

「アイ・ウォント・トゥ・ホールド・ユア・ハンド」ザ・ビートルズ
(1963年11月/Parlophone/英)

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※こちらはアメリカ盤シングルのジャケットです

Genre: Pop Rock
I Want to Hold Your Hand - The Beatles (Nov. 63) Parlophone, UK
(Lennon–McCartney) Produced by George Martin
(RS 16 / NME 156) 485 + 345 = 830

彼ら4曲目のランクインで、ついにこれが出た。英盤5枚目のシングル曲にして、米キャピトルからのデビュー曲。ボブ・ディラン、ブライアン・ウィルソンといった名ソングライターたちが口々に「当曲を聴いたときの衝撃」についてのちに語るほどの、1曲だ。

とはいえ複雑な技法や構造などは、とくにない。逆だ。「あまりにも簡単で、あり得ないほど斬新」だったからこそ、受けた。まず歌詞が「簡単」だ。主人公の恋心を平明に、一人称的に描写する。愛の告白をするときには「きみ」の手を握りたいんだ、といった内容などが、童謡みたいに素朴に繰り返される。しかしこれが「斬新」の土台となる。

キーとなったのは、彼らの得意技「ユニゾンとハーモニーの素早い切り替え」だ。当曲はのっけから、ジョン・レノンとポール・マッカートニーによるユニゾン・ヴォーカルで進む。まずはヴァース1の最後でメロディが急上昇するのだが、ここで突如、2人のヴォーカル・ラインが分離する! 「I wanna hold your hand」のところだ。「Your」までは2人とも同じなのだが、「Hand」でマッカートニーが上に、レノンが下に回り、瞬間的に四度のハーモニーを成す。マッカートニーに至っては、YourからHandのあいだに、1オクターヴをひとっ飛びだ! そしてこのときに背後で鳴るB7コードと、スリルに満ちた関係性が取り結ばれる。さらにハーモニーが本領を発揮するのはブリッジ部。ご存知「I can't hide」の、力一杯の三連発だ!――これはもう、金切り声を上げるしかない。

当曲が成功した最大の原因は、レノンとマッカートニーが「ほぼ五分」の立場で、完全なる共作体制で詞と曲を仕上げたからだ、と言われている。あの2人が、ピアノを前に「これどう?」なんてキャッチボールしながら、まるでスポーツのようにして、仕上げていった。こうした過程で「磨き抜かれた」平易さのなかに、熱狂への経路が生じた。

当曲はイギリスにて「同じアーティストが全英1位をリプレイスした」初の例となった。前作シングルだった「シー・ラヴズ・ユー」(63位)を、当曲が打ち破ったからだ。アメリカでは64年の2月、当曲がHOT100の1位に。そのまま7週連続首位を独占。この座を奪ったのが当初鳴かず飛ばずだった米スワン盤の「シー・ラヴズ・ユー」で、前年9月のリリースからおよそ半年後の64年3月21日、1位に到達する。ここから英米両国で(米ではキャピトル盤を中心に)未曾有の「出す曲とにかく1位」騒動が勃発していく。ブリティッシュ・インヴェイジョンを先導する「ビートルマニア」の大旋風だ。

(次回は23位、お楽しみに! 毎週火曜・金曜更新予定です)

※凡例:
●タイトル表記は、曲名、アーティスト名の順。括弧内は、オリジナル・シングル盤の発表年月、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●ソングライター名を英文の括弧内に、そのあとにプロデューサー名を記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
川崎大助(かわさきだいすけ)
1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌「ロッキング・オン」にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌「米国音楽」を創刊。執筆のほか、編集やデザイン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌「インザシティ」に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)、『教養としてのロック名盤ベスト100』(光文社新書)、訳書に『フレディ・マーキュリー 写真のなかの人生 ~The Great Pretender』(光文社)がある。
Twitterは@dsk_kawasaki



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