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オリジナル「酒つま釜めし」|パリッコの「つつまし酒」#190

チゲ鍋という真っ黒なキャンバス

 趣味の「でかめの100均パトロール」で、今日も気になる商品を見つけ、思わず衝動買いして買って帰ってきました。

ダイソーの「チゲ鍋」

「チゲ鍋」。韓国料理で使われる、土鍋ですね。大小ふたつのサイズがあり、それぞれ税込み、550円と330円。買ってきたのは大のほうで、直径は約16cm。もちろん直火にかけられるから、いろいろな料理に使えそう。しかも、手頃なサイズ感としっかりした作りで、料理を作ったらそのまま食器として使えそうなところも素敵じゃないですか。
 それからこの形、なにかに似てるよな〜と見つめていて、気がつきました。群馬県の駅弁、おぎのやの「峠の釜めし」の器だ! 駅弁でありながら、ひとつひとつが立派な益子焼のお釜に入っていて、たいてい実家にひとつふたつ空き容器がとってあり、眼鏡や印鑑なんかの小物入れになっていたりする。
 残念ながら今、我が家にはないのですが、あのお釜って、再利用方法として、ごはんを炊いたりもできるらしいんですよね。以前、友達のライター、玉置標本さんが、参加者がそれぞれあのお釜を使ってオリジナル釜めしを作る、なんて記事を書いてたよな。すごく楽しそうで、かねてから僕も一度、オリジナル釜めしを作ってみたいと思ってたんすよね〜。
 よし、今日はこの真っ黒なチゲ鍋をキャンバスに、オリジナル釜めしを作ってみよう!

テーマは「酒のつまみ」

 初めて使用する際には、米のとぎ汁か小麦粉を溶いた汁をしばらく煮込み、乾いてから水洗いして乾燥させる「目止め」という作業が必要なようで、まずはそれをしっかりと。
 そうしたら、米1合をといで、いつもどおりに水かげんをし、鍋のなかへ。ほんのりと麺つゆも加えておきましょうか。

このまま炊いても絶対うまい

 肝心なのは、釜めしのテーマ。入れる食材たち。これをどうするか。それこそ可能性は無限大ですが、大前提として僕は、できた釜めしをビールのつまみにしたい。あっちをつつき、こっちをつつきしながら楽しみたい。ならばもう、ストレートにその方向性でいくのはどうだろう?
 つまり、定番のお酒のつまみをあれこれのせてそのまま炊く、「酒つま釜めし」。これでいってみよう!
 そこで、スーパーのお惣菜コーナーへ。いればいるほど、あれもこれもと釜めしに入れたくなってしまうんですが、なるべく酒のつまみらしいものを厳選し、かつ、あのサイズの鍋に収まる量を意識して。

それらをとにかく
ごはんの上へ
並べていく

 買ってきたのは、「焼餃子」「たらこ」「ポテトサラダ」「煮物」「ホテイの焼鳥缶詰」「くじらベーコン」「みそかつおにんにく」「いかの塩辛」の8種類。それらを隙間なく、全体のバランスも考えつつ、お隣さんどうしの味のなじみ具合にも配慮して、ごはんの上に並べていきます。

よし、こんなもんか

 そしたらあとは炊いていくだけ。フタは、別の鍋のガラス製のものがすっぽりとかぶせられそうだったので、それを使いました。本当は峠の釜めしみたいに、かっこいい専用のフタがあるといいんだけどな〜。

まぁじゅうぶんでしょう

 幸い、鍋やらフライパンやら飯ごうやらでお米を炊くことには慣れています。というかお米なんて、なんだかんだぐつぐつと煮てやれば炊けるもの。上にのせたおつまみたちも、どれも生でも食べられるものなので、神経質になることはないでしょう。
 まずは中火くらいで、ぐつぐつと音がたちはじめるまで待ち、沸騰したら弱火にして、十数分。このとき、しっかりと時間を計測しながらではなく、音で判断するほうがうまく炊ける気がします。鍋から聞こえる音が、「ぐつぐつ」から、徐々に「ぱちぱち」になってきたら、そろそろ炊けるという合図。そこから1分くらい待って火を止め、あとはそのまま十数分蒸らす。あくまで僕の経験上ですが、これで失敗は少ないかと思います。

さてどうだ?

全員優勝!

 といった工程を経て、きっと完成しているであろうオリジナル釜めしのフタをぱかっと開ける。するとぶわっと立ち上る湯気とともに、美味しそう〜な、なんだかいろんな美味しそうな香りが! あぁ、これは楽しい飲みになること間違いないぞ。
 ではでは、こいつをほじくりほじくり、食べていきましょう〜。

パリッコ作「酒つま釜めし」
炊き具合もばっちり

 まずはそうだな、無難に焼鳥のあたりを食べてみるか。おわんによそってもぐもぐもぐ……あ〜、うめ〜……。もう、具材は焼鳥だけでよかったんじゃないの? ってくらいうめ〜。なにより、いろんな美味しい料理の味を吸ったごはんがうめ〜。あわててグラスに注いだビールをぐびぐび。はい、言うことなし!

立派な鶏めしだ

 続いて、味の予想がいまいちできない、餃子部分はどうだ? あら、もはや形は崩れてしまって、餃子混ぜごはんといった趣ですが、これまたいいじゃないですか。とろんと柔らかくなった皮も美味しいし、餃子の炊き込みごはん、これまたありだな。

うまいうまい

 ところでこの釜めし、ひと口食べるごとにほんのりと、海方面の味わいを感じる気がするんですよね。たらこかくじらベーコンから出た風味? いや、もっと旨味が強くて、具体的には「いか」っぽいんだよな〜。いかなんて入れたっけ? としばらく食べていて、はたと気がつきました。入れたじゃん! いか。そう、塩辛を!
 炊く前の原形からもっとも見た目や食感が変化していたので、しばらく忘れてたんですが、よく見るとところどころに、ぷりぷりのゆでいかになった“元塩辛”たちの姿がある。そんでまた、これが美味しい! いかの塩辛の炊き込みごはん、これまたありだな。そこにバターなんかを加えてしまってもいいかもしれない。
 具沢山の釜めしをひとつ作るだけで、炊き込みごはんのアイデアまで次々生まれるというのは、嬉しいおまけでしたね〜。
 たらこやくじらベーコンも良かったし、煮物なんかもう間違いなかった。唯一、みそかつおにんにくはほぼ食感が変わってなかったけど、お漬物がわりにいい働きをしてくれました。
 最大の興味は、ごはんと一緒に炊いたポテサラの味だったのですが、これまたうまかった。ポテサラを温めると、がぜん「コロッケ」に近寄りますね。衣のないコロッケ。そりゃあ、ごはんに合わないはずがなかったわ。

海のゾーン
ポテサラもありでした

「つつまし酒」からのお知らせ

この連載「つつまし酒」は2022年12月23日(金)の更新から隔週連載となります。23日の次の更新は来年1月6日(金)の予定です。今後もパリッコさんの晩酌ライフを覗きにきていただけますと幸いです。


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パリッコ(ぱりっこ)
1978年、東京生まれ。酒場ライター、DJ/トラックメイカー、漫画家/イラストレーター。2000年代後半より、お酒、飲酒、酒場関係の執筆活動をスタートし、雑誌、ウェブなどさまざまな媒体で活躍している。フリーライターのスズキナオとともに飲酒ユニット「酒の穴」を結成し、「チェアリング」という概念を提唱。2021年8月には、新刊『つつまし酒 あのころ、父と食べた「銀将」のラーメン』を上梓! また、『ノスタルジーはスーパーマーケットの2階にある』(スタンド・ブックス)『晩酌わくわく! アイデアレシピ』 (ele-king books)、『天国酒場』(柏書房)、『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』(光文社新書)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)、『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、漫画『ほろ酔い! 物産館ツアーズ』(少年画報社)、など多数の著書がある。
Twitter @paricco

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