「洋画=オムライス!?」 おもしろくてわかりやすい洋画の解説書が発売!
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「洋画=オムライス!?」 おもしろくてわかりやすい洋画の解説書が発売!

担当編集の田頭です。光文社新書1月刊として、ナカムラクニオさんの『洋画家の美術史』が発売になりました。日本各地の美術館で、あるいは切手で見たことはあっても、実はよくは知らない洋画の世界。本書は洋画家という「人」に光を当てることで、洋画の美術史的な知識がわかりやすく身につく構成になっています。以下に、「はじめに」と「目次」を公開します。ナカムラさんがあふれる洋画愛をこめたオール描き下ろしのイラストも絶品です。ぜひお手にとってみていただければと思います! 

はじめに  ― ― 洋画は「鑑賞できるオムライス」だ

 日本の近代洋画は、オムライスと似ている。

 外側は、西洋のオムレツ風。中身は日本的なケチャップご飯だ。

 油絵として描かれていても、モチーフは極めて日本風味なのだ。

 明治、大正期に西洋から日本に輸入され、独自に進化した「和製洋画」は、料理でいうと、カツレツ、カレーライス、コロッケ、エビフライ、あるいはビフテキとも似た「洋食」のような存在だろう。

 「洋画」は、技法的には油絵のことを指すことが多い。遠近法、陰影法など、西洋から伝わった様式を使って日本的なモチーフを描くのが特徴だ。明治の文明開化以来、日本人の生活はしだいに洋風化し、それと並行して絵画も、着物美人が写実的に表現されたり、日本の田舎の風景が、まるでフランス郊外の美しい景色のごとく繊細な線と光にあふれるように描かれたりした。

 日本の「西洋画」は、こうして日本人向けにアレンジが加えられることで、万人に親しまれ、あっという間に市民権を得た。洋画家たちは、まるでフランス料理をお箸でつまむように軽々と日本独自の西洋絵画を確立したわけだが、これらの作品は実に魅力的で、多彩で、まだ十分に研究の進んでいないジャンルでもある。

 それでは日本で最初に「洋画」を描いたのは、いったい誰なのだろうか?

 日本のダ・ヴィンチとも呼ばれる発明家の平賀源内は、18世紀の終わり頃、オランダ人より伝わった西洋画の技法で油絵「西洋婦人図」を描いたので、日本における「洋画家」の源流のひとりと言っていいかもしれない。さらに平賀源内から洋画を学んだ小田野直武は、オランダ風絵画の「秋田蘭画」と呼ばれる和洋折衷画を日本の画材を使って描き、西洋風の風景画や静物画を確立した。直武は、前野良沢、杉田玄白らの『解体新書』の扉絵や解剖図を描いたことでも知られているが、これらの陰影法や透視遠近法などの洋画法の知識は、後に司馬江漢などにも影響を与えたことが知られている。

 江戸時代後期に活躍した京都の絵師、円山応挙も20代の頃に、オランダ渡来の西洋画で遠近法を応用した「眼鏡絵」を描いている。これは長崎のオランダ貿易で入ってきた、絵を立体的に見せるおもちゃのようなレンズのことで、風景などの西洋画の遠近法を楽しむものだった。現代でいうとVRヘッドマウントディスプレイのようなもので、眼鏡のレンズ越しに覗き込むことで立体視が可能となったのだ。応挙がこの「眼鏡絵」を描いたのは1759年頃であり、かなり古い記録のひとつと言える。

 江戸時代中期に活躍した浮世絵画家、奥村政信は「芝居狂言舞台顔見世大浮絵」などで、驚くほど大胆な遠近法を使って作品を描いている。一定の視点からの対象までの距離感を見た通りに平面上に表現する透視図法は、葛飾北斎、歌川広重なども描いているので、江戸時代にも何らかの形で西洋画を目にした絵師たちが、少しずつ「洋画」のエッセンスを日本画や浮世絵に取り込んできたとも言えるだろう。

 それでは最初に西洋で「洋画」を観たのは誰だろうか?

 江戸末期に幕府の遣欧使としてパリを訪れた原鵬雲は、ルーヴル美術館を訪れ、西洋美術の作品群を目の当たりにした最初の日本人画家とされている。日本で最も早い時期の美術留学生である井上辨次郎は、1873(明治6)年から1876(明治9)年にかけてイギリスに留学したという記録がある。

 住吉派の日本画家の息子、守住勇魚は、早くから洋画を描き、1876年に開設された工部美術学校で、お雇い外国人教師のイタリアの画家アントニオ・フォンタネージの指導を受けている。そう考えると、知られざる日本の洋画家がまだたくさん存在するし、これから発掘される作家も多いはずだ。

 日本における洋画の歴史は、幕末、明治くらいからはじまり、昭和に活躍した有元利夫くらいまでが「洋画」という感じがする。海外に渡ってアメリカで評価されたオノ・ヨーコ、草間彌生などはもはや洋画とは呼ばないし、戦後の前衛美術運動である「具体」などのグループも洋画とは呼ばない。さらに、洋画風に描かれた現代美術作家も「洋画」という言葉で語られることはなく、明らかにコンセプトが違っている。

 とすると、やはり「洋画」とは、明治時代以降「独自の進化を遂げたガラパゴス的西洋風絵画たち」を指すと考えていいのだろう。ちなみに、日本の小中学校で使用している美術の教科書の中で、洋画といえば、高橋由一、黒田清輝からはじまり、岡本太郎くらいまでが紹介されている。

2黒田清輝

黒田清輝と「湖畔」のイラスト。ナカムラさんのタッチが素敵すぎます!

本書は、有名なのによく知られていない日本の洋画家たちの作品と歴史について、個人的な好みから主観的に紹介した「洋画家図鑑」となっている。

 第一章は、西洋を見よう見まねで吸収していた黎明期の「舶来絵画」を描いた初々しい画家たちについて書いた。第二章は、西洋に学び、さらに「和製洋画」を成熟させていった画家たち。第三章は、西洋と日本の個性がぶつかり合って爆発した「昭和モダン」を体現する画家たち。第四章は、独自の進化を遂げた「日本的フォーヴィスム」の画家たちを紹介している。もう一度、明治から昭和にかけての美術史を考え直し、オムライスを食べるように、楽しみながら読んでいただけるとうれしい。


目次(取り上げている画家は全部で16人!)

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限定販売のお知らせ!

1月23日12:00から、noteストアで『洋画家の美術史』ナカムラクニオさんサイン本+ポストカードのセットを販売します! 本書に収録されているイラストをあしらった特製のポストカードです。ここでしか手に入らない限定品ですので、お見逃しなく!

光文社新書 noteストア

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著者プロフィール

プロフ

ナカムラクニオ
1971年東京都目黒区生まれ。荻窪「6次元」主宰、アートディレクター。日比谷高校在学中から絵画の発表をはじめ、17歳で初個展。現代美術の作家としても活動し、山形ビエンナーレ等に参加。著書は『人が集まる「つなぎ場」のつくり方』(CCCメディアハウス)、『金継ぎ手帖』『古美術手帖』『チャートで読み解く美術史入門』『モチーフで読み解く美術史入門』『描
いてわかる西洋絵画の教科書』(以上、玄光社)など多数。金継ぎ作家としても活動し、アメリカ在住の日本画家マコトフジムラと共同で金継ぎの学校「キンツギアカデミー」をロサンゼルスに設立。

Twitter:@6jigen


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