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焼鳥屋の鶏白湯ラーメンにはずれなし|パリッコの「つつまし酒」#217
何気ない飲み屋の隠れた逸品
先日ですね、西荻窪でしばし時間が空いて、何気な〜い飲み屋でひとり、飲んでいたんですよ。
何気ないなんて言うとちょっとお店に対して失礼なんですけれども。サワー系のドリンクがなんでも税込み1杯319円で、ホッピーセットもなんと同じ値段。おつまみも、100円台や200円台の割合がいちばん多い、とにかく気軽に飲める大好きなお店で。ちなみに「田中屋」っていうんですけども。
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そこでまぁ、「チーズアスパラ」やら「ハムステーキ」なんぞをつまみに、ぼーっと飲んでいたんですよね。完全に無心で。ビールケースが椅子代わりで、そこに巻きつけられたクッションがやたらとモコモコしていて、テーブルには常に「チンチロリン」用のサイコロが、欠けた茶碗に入って用意されている。そんな店ですよ。さっきからどうもなにか引っかかるような言いかたをしてしまってますが、とにかく本当に好きなお店なんです。
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でね、メニューを眺めていて気がついたんです。シメのごはんものコーナーに「鳥白湯そば」がある。そういえばここ、ついついすぐ出てくる一品メニューで飲んでしまいがちだけども、大山鶏を使った焼鳥にこだわりのある店でもあったんだよな。となれば、鶏だし系のラーメンはうまいに違いない。と、頼んでみたラーメンが、やっぱり絶品すぎたんです。
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うまい、お手頃、適量
はい。ここからが、僕が今回強く訴えたいポイント。焼鳥屋、および、焼鳥に力を入れている酒場において、まれに提供されていることがあるメニューであるところの「鶏白湯ラーメン」は、基本的に例外なくうまいということ!
なぜかってそれは、すでにみなさまも想像がついていることでしょう。焼鳥屋さんはその業態の特性上、幅広い部位の鶏の端肉が発生する。それらを捨ててしまう店も当然多いはずですが、そうせず、その鶏肉たちでだしをとってスープを作り、それをラーメンとして提供する。その一連の行動から読み取れる、お客重視の姿勢。そして、そもそもだしとなる肉が潤沢だからこその、どう転んでもうまいに決まってるスープのありがたさ。そういった部分を考えるに僕は、「焼鳥屋の鶏白湯ラーメンにはずれなし」説を力強く唱えることに、一切の躊躇を感じないわけであります。
だってそもそも、さっきの田中屋さんのラーメンがね、もうね、え? 余裕で専門店に並んでない? ってレベルで美味しかったんですもん。特濃の鶏だしスープがひと口飲むごとに幸せで、シンプルな中華麺とのハーモニーも素晴らしく、ふわりと柔らかい、むね肉と思われる鶏チャーシューが5枚も乗っている。しかもですよ! ここがラーメン専門店と比べたときのアドバンテージだと思うわけですが、そもそもこのスープ、言いかたは悪いけど、「再利用」なんですよね。さらに、居酒屋でどかんとボリュームのあるラーメンを出してしまったら、その他のつまみが食べられなくなるじゃないですか。ゆえに、焼鳥屋の鶏白湯ラーメンは、「うまい」「お手頃」「適量」という、酒飲みにとってはこの上なく好ましい傾向になりがちというわけなんです。
大好きな焼鳥屋にて
ちょっと話がさかのぼってしまいますが、焼鳥屋さんでは、ラーメンとまではいかずとも「鶏スープ」を出している店が珍しくありません。出自はラーメン同様ですが、より手間がかかりませんからね。しかもこれは、100円とかのサービス価格で出されていたり、なんなら本当に無料サービスでもらえるお店すらある。で、その鶏スープが、絶品でなかったことなどないんですよ。
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つまり、焼鳥屋に鶏スープがあったら頼むべし。鶏白湯ラーメンがあったらなおさら! という方程式が成り立つわけで。
考えてみれば、人気の焼鳥チェーンである「鳥貴族」にもその方程式が当てはまりますよね。だってあの店なんて、全品360円均一であるからして、定番メニューである「とり白湯めん」も、当然その値段。
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これが、食べたことのある方ならごぞんじかと思いますが、攻撃的なまでに濃い鶏スープの本格派で、めちゃくちゃうまいうえに、量も絶妙。この世でもっともメジャーな、焼鳥屋の鶏白湯ラーメンと言えるかもしれない逸品なわけです。
もうひとつ、僕がこれまでに食べて感動した焼鳥屋の鶏白湯ラーメンを紹介させてもらえるならば、上石神井という街にあり、大好きな焼鳥屋「月木乃」で出会った1杯かな〜。
そこ、若い店主さんと店員さんでやられている、比較的新しめの店なんですが、なにを頼んでも本当に仕事がていねいで、シンプルに料理が美味しいから通い続けているという、僕にしたら珍しいお店なんです(なるべく変わった店に入ってみたい欲望が強いので)。
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で、ですね、必ずあるわけではない。んだけれども、ある日、魅力的な品々が並ぶメニュー表のいっちばん下に、見つけたんですよ。鶏白湯ラーメンを。こんなに焼鳥がうまい店の鶏白湯ラーメンって、一体どんなもんなんだろ? と興味がわきまくり、頼んでみたところですね……これがもう、「専門店と並ぶ」とかってレベルじゃない。「専門店やってくれ! 頼む!」レベルの、すさまじいラーメンだったんです。
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一見澄んだスープなのに鶏の味わいが極濃で、ぷりんぷりんの麺との相性も素晴らしく、ぶ厚い鶏チャーシューの食べごたえも最高。いや、本当に専門店になってもらったら困るんですよ。だって、月木乃の魅惑的なおつまみや焼鳥で今後も末長く飲みたいし。ただ、はっきりと言えるのは、こんなにレベルの高い鶏白湯ラーメン、専門店を食べ歩いたって見つけるのは難しいんじゃないの? っていうこと。
というわけで、焼鳥屋でメニューに鶏白湯ラーメンを見つけたら、ぜひ積極的に注文してみることを、個人的におすすめします。で、もしよかったらそのお店の情報、教えてください〜。
では、今年も1年、「つつまし酒」におつきあいいただきありがとうございました。みなさま、良いお年&良いお酒(飲めない方はソフトドリンク)を〜!
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パリッコ(ぱりっこ)
1978年、東京生まれ。酒場ライター、DJ/トラックメイカー、漫画家/イラストレーター。2000年代後半より、お酒、飲酒、酒場関係の執筆活動をスタートし、雑誌、ウェブなどさまざまな媒体で活躍している。フリーライターのスズキナオとともに飲酒ユニット「酒の穴」を結成し、「チェアリング」という概念を提唱。2021年8月には、新刊『つつまし酒 あのころ、父と食べた「銀将」のラーメン』を上梓! また、『ノスタルジーはスーパーマーケットの2階にある』(スタンド・ブックス)『晩酌わくわく! アイデアレシピ』 (ele-king books)、『天国酒場』(柏書房)、『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』(光文社新書)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)、『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、漫画『ほろ酔い! 物産館ツアーズ』(少年画報社)、など多数の著書がある。
Twitter @paricco