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レンチン蒸し器奮闘記|パリッコの「つつまし酒」#228

レンチン一発じゃがバター

 先日、大好きな雑貨店「3COINS」で見つけて一目惚れし、衝動買いしてしまったアイテムがあります。それが「レンジ調理蒸しメーカー(Microwave Cooking Steamer)」。

「レンジ調理蒸しメーカー」

 300円均一商品が基本のお店で、ちょっと高級な500円なのですが、見本写真のとおり、一般的な大きさの肉まんが4つも入ってしまう大きなサイズのもの。電子レンジでお気軽に蒸し料理ができ、内部にざるがあるのでムラなく食材に火が通る構造になっているんだとか。

3パーツからできていて
でかいけど、多少は薄く重ねてしまえる

 そもそも僕、蒸し料理が大好きで、肉でも野菜でも、日々なんでも蒸して食べたいと思っているくらいなんです。当然、専用の木製2段せいろも持っています。けれども一度、家で蒸し料理を作ってみたところ、娘がせいろ特有の香りがいやだと言って(それがいいのに!)食べてくれなかったんですよね。というわけで、娘がもう少し成長するまで、せいろは僕の趣味の晩酌道具というポジションに落ち着くことになりました。
 そんななかで見つけたレンチン蒸し器! これならば食材に香りがつくこともないし、もしもレンジでお手軽に蒸し料理ができるならば、かなり画期的じゃないですか。それにこの、プラスチック製品でありながら一生懸命蒸し器を模した形自体がかわいすぎて。

これはじゃがいもです

 ところで僕、最近なぜか突然「じゃがバター」の魅力に目覚め、ちょくちょく家で作って食べているんです。作りかたはネットで見つけた、「よく洗って芽をとったじゃがいもを濡れたままラップでくるみ、電子レンジ600Wで5分チン」というもの。じゃがバターってひとりで何個も食べられるものではないので、そのためにわざわざゆでたり蒸したりするのは、ちょっとめんどう。そこでレンジ式を採用しているのですが、この作りかただと、若干いもの皮がしわっとしてしまうんですよね。いや、それでもぜんぜん美味しいんだけど、もしこの蒸し器を使って、よりクオリティー高いじゃがバターができたら、とても幸せなことでしょう。
 つーわけで、よく洗ったじゃがいもを蒸し器にのせ、レンチンしていってみようと思います。
 その前に大前提として、この蒸し器の基本使用方法を簡単に。

【蒸し野菜】
水で洗っててきとうな大きさに切った野菜をざるに並べ、600Wでレンチンする。目安は、じゃがいも150gなら4分半、にんじん150gなら4分など。底皿に水を入れなくても、野菜に含まれる水分できちんと蒸しあがる。

【点心】
底皿に大さじ3の水を入れ、点心を並べて600Wでレンチンする。目安は、中華まん4個なら、冷蔵で3分、冷凍で4分半。

 当然、電子レンジの個体差などによっても差が出るでしょうから、あくまで目安ですが、だいたいこんな感じ。また、食洗機非対応なのが個人的に少し不便なポイントではあるんですが、見た目から想像するほど手洗いしづらくもありませんでした。

さてレンチン

 このじゃがいもは100g程度で、カットはしていないので、なんとなく、4分半でやってみようかな。そのあたりの感覚は、使いながら探っていくしかないでしょう。

蒸しあがり

 見たところ蒸す前とそんなに変わったところはないですが、はたしてちゃんとできているんでしょうか。ドキドキ。いざ取り出して包丁で十字に切れ目を入れてみると……おおっ! すっと気持ちよく刃が入る。できてる! ちゃんとできてるぞ!

レンチン一発じゃがバター

 いやこれには参っちゃいましたよ。完璧にほくほくのじゃがバターができているのは大前提として、例の皮が、しわひとつなくぱつぱつ。これはもう、家庭用じゃがバター製造機として買っても損ないレベルだわ。
 ただ、蒸し器というとどうしても、もくもくの蒸気で景気よく蒸したい気持ちも湧いてきますよね。そこで、説明書にはそんなこと書いてなかったんですが、一度、底皿に5mmくらいの水を張り、同様にじゃがバターを作ってみたんです。すると、同じサイズで4分半チンしたじゃがいもは、完全に半生。そりゃあそうか、水のせいで温度が上がるのに時間かかるよな……。よけいなことをして失敗するという、完全なるうつけ者エピソードとなりました。

試行錯誤の日々

 前置きが長くなりました。本来ならこの記事、ここまででもじゅうぶんなのかもしれません。けれども、僕的にはここからが本題。せっかくだから、野菜以外にもいろいろと蒸してみたいじゃないですか。説明書には野菜と点心の蒸しかたしか書いていないので、ここからは僕の勝手な行動。自己責任の世界。
 けれども、どうしても蒸してみたい! そう、肉を!

鶏むね肉

 だって、この蒸し器を使ってレンチン一発で気軽に蒸し肉なんかが作れてしまったら、夢のようじゃないですか? そこで今回、検証をしてゆくための基本素材として選んだのが、鶏むね肉。むね肉って、ヘルシーでリーズナブルな優秀食材である一方で、うまく調理しないとパサついてしまうという弱点もありますよね。そこを克服できるか? レンチン蒸し器!
 そこでまず、全体に塩をふっただけのむね肉を蒸し器の中央に置き、なんとなく感覚で、600Wで6分ほどチンしてみることにします。

さてどうなる

 途中、数度の破裂音がしてドキッとしましたが、フタがあるのでレンジが汚れるということもなく、6分後。

こんな状態

 あれ? なんか、周囲に肉汁が焦げた汚れのようなものが広がってしまってますね。身もだいぶ縮んでしまったような……。
 この肉を包丁でカットしてみると、感触から言って、あきらかに硬い。食感は……あぁ、パサっとしている。きちんと火が通っていて食べられるけれども、大成功とは言えないなぁ。

蒸し鶏第1弾
新玉ねぎのポン酢漬けをかけて美味しくいただきましたが

 そこで鶏むね肉検証その2。
 まず、蒸し器の汚れ対策として、肉の下にお皿を敷いてみましょう。すべての穴をふさいでいるわけではないから、まぁ問題ないでしょう。
 また、蒸し時間をもうちょっと攻めてみます。前回の6分から、4分まで縮めてみましょうか。

こいつを
600Wで4分

 お、なんか前回よりも身の縮みが少ない気がする。どれどれ、火の通り具合はどうかな? と、まんなかを切ってみると……あ、ダメですね。まだ中心部がレアだ。

危ない危ない

 そこで追加で2分レンチンし、しっかりと火を通していただきましたが、やっぱりちょっと身が硬め。う〜ん、もうちょっと他にやりようがある気がするぞ。
 よし、ここらでいったん比較検証というか、一度、むねよりも扱いに気を使わなくていい「鶏もも肉」を蒸してみようかなと思います。
 塩をふったもも肉をお皿にのせ、600W5分でどうだ!?

もも肉を
600W5分

 すると、むねよりも厚みが薄かったせいもあるのかもしれません。しっかりと火は通ったのですが、やはり若干水分が抜け、ジューシーさに欠ける仕上がりに。いや、これはこれでまったく問題なく美味しいんですけどね。

特に文句はないけれど

 続いてもうひとつ脱線。
 そもそも蒸し器の良さって、いろいろな食材を一気に調理できる点にもあると思うんです。そこで、カットした鶏もも肉と、じゃがいも、にんじん。全体に軽く塩をふり、一気に蒸してみようと思います。食材の量が多いので、なんとなく600Wで9分。どうかな〜。肉、硬くなっちゃうかな〜。ただ、これがうまくいけば、レンチン一発でその日の晩ごはんのおかずができてしまうことになりますからね。

頼む!
9分後

 すると驚いたことに! 前回よりも大幅に時間をかけたにもかかわらず、鶏もも肉がふわふわなんです! じゃがいもはほっくほく。にんじんはほんのりと歯ごたえが残るくらいの仕上がりですが、甘みがものすごく引き立っていて美味しい。これは大成功だ。
 大成功の要因はなんだろうと考えると、やっぱり野菜の存在でしょう。野菜の水分が全体に回り、本来の蒸し器的な効果で肉が柔らかく仕上がったと想像されます。
 また、この調理法には嬉しいおまけもありました。当然このまま食べても美味しいんですが、すでに全体にしっかりと火の通ったこれらを鍋にあけ、さらに、底皿にたまったお宝である「旨味凝縮エキス」も鍋に入れてしまい、だし醤油を適量回しかけてさっと炒め合わせる。

旨味凝縮エキス
全体を炒め合わせれば

 すると、ものの2、3分で、鶏と野菜の煮もの風というか、照り煮風というか、そんな料理ができてしまうのでした。これが、ものすごく手間暇かけた料理かのように絶品!
 この蒸し器、料理の下ごしらえにも、ものすごく活躍してくれそうですね。

ついに到達点へ

 検証を重ねることにより、少しずつ扱いかたが把握できてきたレンチン蒸し器くん。その過程がそもそも楽しい。たぶん鶏むね肉も、先ほど同様カットして野菜と一緒に蒸せば、ふっくら柔らかく仕上がってくれることでしょう。めでたしめでたし。
 けれども、どうしても最後に試してみたいことがもうひとつだけあります。それは、序盤でよけいなことをして失敗した「底皿に水を張って蒸す」手法。これまでの経験から、それでもレンチン時間を長くすれば、肉が硬くならずに蒸しあがる気がするんですよね。あ、そうだ! どうせならその水、酒にしてみるっていうのはどうだろう? つまり「レンチン酒蒸し」。これが成功したらすごいぞ。
 というわけで、全体に塩をふり、そして表面にまんべんなくフォークで穴を開けた(だんだん下処理の手間が増えていってますが、まぁ許容範囲でしょう)鶏むね肉を用意しました。お皿にのせて蒸し器に入れ、そうさな、600Wで……10分いってみるか!

これが最後だ

 すると、次第にもくもくと湯気が充満しだす蒸し器内。さらに後半、加熱された肉とお酒の良い香りが漂いだし、だいぶいい予感がしてきます。
 そしていよいよ10分後。

さてどうだ?

 おぉ! まず、見た感じ肉がぜんぜん縮まっていない! 序盤とは大違い。さらに包丁を入れてみると、感触がふわりと柔らかい。断面も見るからにしっとりしていて、肉汁をたっぷり保っているのが伝わってきます。これはいいんじゃないでしょうか!?

ね?
このしっとり感

 カットしてそのまま食べてみると、あ〜、これはうまい。肉はしっとりふわりと柔らかく、見た目のとおりジューシーで、さらに酒の旨味が加わっているから、これだけで一品料理。そりゃあ、数時間もかけて低温調理した肉ほどの柔らかさにはかなわないけれど、レンチン10分ですからね? これ以上に望むことなんてないですよ。
 と、ひとまず現状のベストと思える段階までたどり着いた、レンチン鶏むね蒸し。ただ、食材や方法を変えればまだまだいろんな可能性がありそうですし、そもそもそんな試行錯誤が楽しい調理器具との出会いでした。
 あ、ところで、先日100均の「セリア」と、「ニトリ」に行ったら、似たコンセプトの商品がそれぞれ100円、300円程度で売られていて、つい買ってしまったんですよね。

下左がセリア、右がニトリ

 で、試しにこれらでじゃがいもを蒸してみると、見事にきちんと蒸しあがってしまった。やばい、果てしないぞ……レンチン蒸し器の世界……。


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パリッコ(ぱりっこ)
1978年、東京生まれ。酒場ライター、DJ/トラックメイカー、漫画家/イラストレーター。2000年代後半より、お酒、飲酒、酒場関係の執筆活動をスタートし、雑誌、ウェブなどさまざまな媒体で活躍している。フリーライターのスズキナオとともに飲酒ユニット「酒の穴」を結成し、「チェアリング」という概念を提唱。2021年8月には、新刊『つつまし酒 あのころ、父と食べた「銀将」のラーメン』を上梓! また、『ノスタルジーはスーパーマーケットの2階にある』(スタンド・ブックス)『晩酌わくわく! アイデアレシピ』 (ele-king books)、『天国酒場』(柏書房)、『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』(光文社新書)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)、『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、漫画『ほろ酔い! 物産館ツアーズ』(少年画報社)、など多数の著書がある。
Twitter @paricco

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