
エクストリームパンケーキ|パリッコの「つつまし酒」#208
パンケーキを作って早数年
娘がパンケーキ好きで、朝食やおやつに作ってあげることがよくあります。娘は今6歳で、確か2、3歳のころから食べているので、僕のパンケーキ作り歴も早数年。それだけやってると嫌でも上達してくるもんで、なかなかにきれいなパンケーキを焼きあげるスキルが、いつの間にか勝手に身についていました。つったって、市販のパンケーキミックスを袋の指示通りに混ぜ、フライパンで焼いてるだけなので、人様に自慢できるほどのことじゃないんですが。

で、そのパンケーキを、娘は甘い味が好きなので、基本、メープルシロップかチョコソースなんかで食べています。

対して典型的な酒飲みである僕は、甘いものにはあまり興味がない。これだけ作っているにも関わらず、作ったパンケーキを自分で食べることはない。
ただですね、作るたびに思いはするんですよ。「うまそうだな……」と。フライパンからふわりと立ち上る、甘く香ばしい香り。きっと誰もが想像できますよね? この焼きたてのパンケーキってものは、なんてうまそうな香りがするんだろうと。
そこで思いついたんです。しょっぱくして食べればいいじゃん! 海外のホテルの朝食シーンなんかで見たことがありますよね。この甘いパンケーキに、ベーコンエッグやサラダなんかが添えてあるパターン。そうだ、あれなら完全に、ビールのつまみになるじゃん!
最後の仕上げは……
そこである日、娘が保育園に行っている間にこそこそと、ランチパンケーキ飲みを実行することにしました。
せっかくだから小さめに焼いて、3種類くらいの味で食べたいな〜。どんなレシピがいいかな。まず、定番のベーコンエッグは作りたい。それからなんだろ、ベーコンも肉だけど、ガツンと肉系のおかずも合わせたいな。ハンバーグかな。ただ、定番だけじゃおもしろくないから、ちょっと変わり種も試してみたい。エクストリームなパンケーキ……よし、あれとあれとあれでいってみよう!
頭のなかで3種類のレシピが決まりました。さっそく作っていきましょう。まず1品目は、焼いたパンケーキにピザソースを塗って、カットしたソーセージ、玉ねぎ、ピーマンをのせて。

さらにピザ用チーズをたっぷりのせてグリルへ。土台が焼けているので、そんなに時間をかけず、のせた食材に火が通ればOKでしょう。
その間にベーコンエッグを作っておいて、さらにハンバーグは手を抜いてチルドのものを買ってきたので、湯せんで温めておきます。


10分ほどでピザがいい感じに焼けました。パンケーキのふちに焦げ目がついて、見た目はピザそのもの。同時にベーコンエッグもハンバーグも準備完了。我ながらいい手際だぞ。

そうしたらどんどん大皿に盛り付けていきましょう。フライパンからするりとパンケーキの上に落としたベーコンエッグが、形も位置もドンピシャで我ながらお見事。……なんだか今回、自画自賛が多いですね。
最後の1枚に温めたハンバーグをのせて、周囲にパセリを散らしたら、ほぼ完成。本日のエクストリームパンケーキプレート!

え? これで完成じゃないの? なんで「ほぼ」? とお思いでしょうか。実はですね、せっかくなのでもうひとひねり、いや、もうひとエクストリーム加えようと思って、さっきハンバーグと一緒に、レトルトカレーも温めておいたんです。これをハンバーグの上からダイナミックにかけてしまえば、ピザ、ベーコンエッグに続く、ハンバーグカレーパンケーキ! これでいよいよ、エクストリームパンケーキプレートが完成しました。

カレーとの相性が意外にも

いや〜壮観。ぱっと見頭が混乱しそうになりますが、これ、土台は全部パンケーキですからね。さっそく冷蔵庫から冷えたビールを持ってきてグラスに注ぎ、いただきま〜す!

まずはピザ風から。見た目からして、いつものピザ生地のさくりとした食感がしそうに思えますが、実際にかぶりついてみるとふんわりとしています。パンケーキだからそりゃあそうなんだけど、これが新鮮。
ピザの味が強いからでしょう。最初は甘酸っぱい具材たちにチーズが絡みつくおなじみのピザ味がして、もぐもぐ食べているとだんだん、ほわりと甘いパンケーキの味わいがやってきます。これはいいな。めちゃくちゃありだ。すかさずビールをぐいっとやると、はい、間違いないっす。
続いてはベーコンエッグ。玉子部分になにをかけたらいいのかよくわからないので、いつもどおり醤油をかけて。海外のホテルの朝食に醤油があるとは思えないけど、まぁいいでしょう。もぐもぐもぐ。わわ〜、これはさすがに定番なだけある。なんの違和感もないし、甘じょっぱさの絶妙なハーモニーが至福すぎますね。

最後にハンバーグカレー。まずはカレーのかかったパンケーキのみを食べてみると、これが意外にも、抜群!
これまでも共通してそうだったのですが、ピザ生地やごはんやパンなどの慣れ親しんだ食材と比べ、今日は土台が違うためか、合わせた食材の味の輪郭が、いつもよりくっきり強く感じられるんです。カレー大好きっ子の僕としては、そこが嬉しい。肉と野菜の旨味たっぷりの濃厚な味わいが、ぐぐぐっと迫ってくる。スパイス感やほんのりとした苦味などの細部もクリアに感じる。やっぱりカレーっておいしいなぁ……っていうか、あれ? めちゃくちゃうまいなこのカレー! スーパーでてきとうに選んできたレトルトだけど、そもそも!

ハンバーグも、もちろん美味しいは美味しいんです。けど、このゾーンに関しては、ハンバーグは過剰だったかな〜。カレーのみで、ほのかに甘いパンケーキとの相性をストイックに堪能するほうが個人的には好きかもです。それにしても、いや〜楽しいな、パンケーキ飲み。
とはいえ、想像はできていたことですが、胃にどすんときますね。パンケーキ。とてもじゃないけど、いい歳した大人が、こんなあれこれのせたのを3枚も、一食で食べ切れるもんじゃない。全ての味をきっちり半分ずつ楽しんだら、大満腹。今日は夕飯もパンケーキかな……。
おっと最後に肝心なことをお伝えし忘れるところでしたね。あれ、ですよね? 気になりますよね? そう、僕がさっき褒め称えていたレトルトカレーの銘柄。OKです。一度しか言わないので、聞き逃さないようにしてくださいね。S&B「濃厚好きのごちそう 120時間熟成デミグラスの牛ほぐし肉カレー 中辛」です! いいですか? S&B「濃厚好きのごちそう 120時間熟成デミグラスの牛ほぐし肉カレー 中辛」ですよ? 価格はひとつ、約200円。
それでは、また。

お知らせ
連載「つつまし酒」をまとめた書籍が来週の8月23日より発売となります! 今回は2年以上にわたり更新してきた記事の中から、選りすぐりのお話を厳選。さらには、パリッコさんの「仕事場作り」の紆余曲折を描いた、書き下ろしあったりします! 何もなかった六畳一間がパリッコさん色に染め上げられていく様子は、まさに”秘密基地”を作っているようでワクワクします!

あらためて、発売日は来週の8月23日です。タイトルは『酒・つまみ日和』。ぜひ書店さんで見かけたら、気にかけていただけると嬉しいです!

パリッコ(ぱりっこ)
1978年、東京生まれ。酒場ライター、DJ/トラックメイカー、漫画家/イラストレーター。2000年代後半より、お酒、飲酒、酒場関係の執筆活動をスタートし、雑誌、ウェブなどさまざまな媒体で活躍している。フリーライターのスズキナオとともに飲酒ユニット「酒の穴」を結成し、「チェアリング」という概念を提唱。2021年8月には、新刊『つつまし酒 あのころ、父と食べた「銀将」のラーメン』を上梓! また、『ノスタルジーはスーパーマーケットの2階にある』(スタンド・ブックス)『晩酌わくわく! アイデアレシピ』 (ele-king books)、『天国酒場』(柏書房)、『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』(光文社新書)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)、『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、漫画『ほろ酔い! 物産館ツアーズ』(少年画報社)、など多数の著書がある。
Twitter @paricco