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ノグリとチャパゲティ|パリッコの「つつまし酒」#212


韓国食品館

 東京有楽町の駅前に「東京交通会館」というビルがあり、そのなかに、全国各地の物産館がたくさん入っていて、物産館好きの僕としては、近くへ行った際は寄らずにはいられません。
 先日もそんな機会があり、1階と地下1階を中心とした物産館フロアを徘徊していると、以前はなかった「韓国食品館」というお店ができているのに気がつきました。当然、韓国食材をあれこれ売っているのですが、注目すべきは店内奥。簡易的なカウンター席があって、そこでお店で買った食品を飲み食いしていいらしいのです。

「韓国食品館」

 しかも個人的に特筆すべきは、「袋麺用 アルミ鍋」の存在。なんと、空のアルミ鍋が税込み100円で販売されていて、それに好きな袋麺を入れ、熱湯の出る専用調理器にセットすれば、その場でできたての韓国袋麺を食べられるという。これは楽しすぎるでしょう。当然、チャレンジしてみることにしました。

そもそもアルミ鍋が大好き

 韓国袋麺で知名度がダントツなのは、やっぱり「辛ラーメン」ということになりますよね。ところが最近、スーパーなどでそれ以外の商品もあれこれ目にするようになりました。ただ、どれがどういう味だかわからなくて買ったことはなかった。このお店にも当然、選びきれないくらいの袋麺が並んでいます。ただありがたいのは、それぞれに丁寧な解説があったり、売り上げランキングがあったりして、商品の概要が初心者の僕でも理解しやすいこと。それによるとどうやら韓国では、辛ラーメンと同じ「農心(NONGSHIM)」が作る、「ノグリ」と「チャパゲティ」という袋麺が大定番らしいです。じゃあそのふたつを買ってみよう。それから、そのふたつが合体したらしい「チャパグリ」というのもあるから、それも買ってみよう。

「ノグリ」

ノグリってそういう意味だったんだ

 さて実食。説明を見ると、チャパゲティとチャパグリは汁なし系らしいので、アルミ鍋にお湯を注いで作るこのお店のシステム上、食べられるのはノグリ一択ですかね。こちら、貝やいかなどからとった海鮮エキスに唐辛子やにんにくを合わせた、海鮮うどん風のラーメンだそう。ちなみに「ノグリ」とは、韓国語で「たぬき」を意味する言葉なんだそうで、丸くて太い麺がたぬきを連想させることからついたネーミングだとか。そうだったんだ! いつも自画像のかわりにたぬきのイラストを描いている僕にぴったりのラーメンじゃないですか!

ノグリ完成

 なるほど、確かにこれは、日本の袋麺の感覚でとらえるとむしろ、うどんに近いくらいの太麺だ。しっかりとコシがあって食べごたえ満点。海鮮だしと韓国唐辛子の旨味を感じさせつつも、きりりとしたスープも美味しいですね。
 おっとそうそう、店内の冷蔵ケースにはお酒コーナーもあり、「チャミスルトクトク」のマスカット味も買っておいたんだった。チャミスルはおなじみの韓国焼酎で、「トクトク」とは韓国語で「しゅわしゅわ」のことだそう。度数5%の、スパークリング系のかわいいお酒という感じですね。買った時に念のため、店員さんに「店内でラーメンと一緒に飲んでもいいですか?」と聞いたところOKだったので、遠慮なく一緒にやらさせてもらいます。
 あ〜、この、飲み食いしているものと周囲の環境があいまって、今自分がどこにいるかわからない感じ。最高に楽しいな〜。
 あ、そうそう。これは純粋にお酒のつまみに良さそうだと思って、惣菜コーナーで自社製らしき「小松菜キムチ」を買っておいたんだった。なんかもう、ここで開けちゃおうかな。

「小松菜キムチ」

 おぉ、これまた、本格的なキムチの風味に小松菜のしゃきしゃきがめちゃくちゃいいですね。これ、ちょっとあっさりめの味わいのノグリに具として足してしまうというのもありかもしれない。

えいやっ

 すると、スープに旨味と深みがぐっと出て、美味しい麺と合わさり、これはもう、インスタントの域を超えた、普通に美味しい「料理」ですね。いや〜すごいぞ、韓国袋麺の世界。

名店の油そばのような麺

「チャパゲティ」と「チャパグリ」

 後日、買ってきたチャパゲティとチャパグリも、自宅で味わってみました。
 まずはチャパゲティから。こちらは、オリーブオイルを使用した韓国風のジャージャン麺で、1984年の発売以後、ずっと韓国即席麺市場のトップ10に入るほどの国民的人気を得ている商品なんだそう。
 味の想像がつかないので、なにはともあれ作ってみましょう。パッケージによると、作りかたは2通り。350mlの水でゆでてスープの素と調味油を絡める方法、もしくは、500mlのお湯でゆでて大さじ3杯のお湯を残して湯切りし、スープの元と調味油を絡める方法。より手間が少なそうなので、前者を採用します。

フライパンひとつで完成

 するとですね、これが、今までに出会ったことのない衝撃の美味しさ! まず、麺がすごい。つるつる、むちむち、もちもちで、とても数分ゆでただけのインスタント麺とは思えない質感、食感なんです。
 で、そこに絡むソースの味がまた未体験。最大の特徴は、どっかでなにか焦げてる? ってくらいの焦げ風味。ところがこれが、口に入れてみると香ばしくてたまらないんですね。味はなんだろう? ソースではない。醤油とかオイスターソース的な、どちらかといえばシンプルで、あっさりとした味わい。だからこそ麺の美味しさが引き立ち、とにかくクセになります。

目玉焼きをのせてビールとともに

 こういう麺、日本にはないよなぁ。いやぁうまい。チャパゲティ、国民的人気なのもうなずけます。

とにかく麺がずっとうまい

 続いてまた後日。チャパグリいきます。せっかくだから韓国のお酒をと、スーパーでチャミスルを買ってきたら、タイミング良くおまけのショットグラスつきで売られていました。現地の酒飲みは、これに13度あるチャミスルを注いではかぱかぱと飲みながら食事するらしいですよね。

グラスかわいい〜

 ところでそもそも、チャパグリとはなにかと言うと、大ヒット映画『パラサイト 半地下の家族』の作中に登場した、チャパゲティとノグリのかけ合わせアレンジだそう。それが人気となり、本家が商品化したものがこちらというわけですね(たぶん)。ちなみに作中では、そこに牛肉も合わせていたとのことで、スーパーの精肉売り場で見つけたプルコギ肉、さらにキムチも買ってきました。

ちょい足し用食材

 では今回も、チャパゲティ同様に作っていきましょう。

たぬきのかまぼこがかわいすぎ!
あっという間に完成

 今日は豪華に、ここに焼いたプルコギ肉、キムチ、刻みねぎをトッピングして、かたわらにチャミスルを用意すれば、よし、韓国風チャパグリ晩酌の準備完了!

絶対うまいよね
麺はチャパゲティベース

 チャパゲティと同じものと思われる麺をずずずとすすると、やっぱり麺うまい。うますぎる。そして、チャパグリにはなかった辛味と海鮮系の旨味。これはノグリ由来か。確かにこれは合う! というか、今回食べた3種のなかでいちばん好き! さすが話題の一品だ。
 豪華に加えたプルコギ肉もキムチも、当然チャパグリとの相性ばっちりです。何度も言うけど、こういうのは日本の袋麺にはない味わいだな〜。それにしても、美味しさがちょっと度を超えているような気がする。

名店の油そばのような麺

 知らずにいたからこそ、これまでの人生で、ずっと見て見ぬふりをしてきてしまっていた、ノグリとチャパゲティ。どっちもこんなに美味しいものだと知っていたら、もっと前から買っていたのに!
 韓国食品館にはまだまだ未知の麺が無数にありました。また近くに寄った際には、あれこれ買ってきてみよう〜っと。


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パリッコ(ぱりっこ)
1978年、東京生まれ。酒場ライター、DJ/トラックメイカー、漫画家/イラストレーター。2000年代後半より、お酒、飲酒、酒場関係の執筆活動をスタートし、雑誌、ウェブなどさまざまな媒体で活躍している。フリーライターのスズキナオとともに飲酒ユニット「酒の穴」を結成し、「チェアリング」という概念を提唱。2021年8月には、新刊『つつまし酒 あのころ、父と食べた「銀将」のラーメン』を上梓! また、『ノスタルジーはスーパーマーケットの2階にある』(スタンド・ブックス)『晩酌わくわく! アイデアレシピ』 (ele-king books)、『天国酒場』(柏書房)、『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』(光文社新書)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)、『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、漫画『ほろ酔い! 物産館ツアーズ』(少年画報社)、など多数の著書がある。
Twitter @paricco

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