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ザ・ロイヤル・アフターヌーン|パリッコの「つつまし酒」#150

マリリン・モンローも食べたオニオングラタンスープ

「ファミレスで一杯」が、当たり前の時代になりました。
 王者はやはり「サイゼリヤ」でしょうか。あの脅威のお手頃さと酒飲みのツボをおさえまくったメニュー構成は、そんじょそこらの居酒屋では対抗できないほど。他にも「ジョナサン」ならばミニボトル焼酎「麦楽」とドリンクバーのセットがクリエイティビティを刺激されますし、中華料理に紹興酒なら「バーミヤン」、ガッツリ肉系料理をつまみにぐいぐい飲みたければ「ガスト」のハッピーアワーなど、それぞれの持ち味を生かした楽しみかたが魅力。 ところがこれまで、僕にとってはあんまり縁がなかったファミレスがあります。それは「ロイヤルホスト」。
 なぜ縁が薄かったかって、そりゃあ“少々お高そうだから”につきるわけですが、先日、ロイヤルホストの歴史を紹介するTV番組を見ていて、がぜん興味が湧いてきました。
 ロイヤルホストが誕生したのは1971年。場所は福岡県北九州市で、戦後の洋食文化をいち早く取り入れ、庶民でも気軽に訪れられて、ちょっとしたスペシャル感も味わえるレストランとしてオープンしたんだそう。その後全国的に店舗を増やしてゆく快進撃はみなさんご存知のとおりだと思うんですが、なかでも特に気になったのが「オニオングラタンスープ」の存在。
 なんでも、ロイヤルホストの原点となったお店は、1958年に福岡に開店した本格フランス料理店「ロイヤル中洲本店」(現「レストラン花の木」)。そのオープンから3か月後、かの名女優マリリン・モンロー&ジョー・ディマジオ夫妻が、新婚旅行を兼ねて福岡の米空軍基地を慰問した際に食事をし、ロイヤルのオニオングラタンスープを「お気に召した」んだとか。そのへんの事情にあまり詳しいほうではないんですが、とにかくモンローさんがお気に召されたんなら間違いないし、食べてみたいでしょう。
 で、その後の1986年、ロイヤル伝統のレシピを受け継ぎ、ロイヤルホストでもオニオングラタンスープの提供を開始。つまりその“モンローグラタンスープ”が、いつでも気軽に味わえてしまうというわけで、こりゃあ行ってみるしかないべさ。

昼飲み向きのセットを発見

 ある晴れた昼下がり。最寄りのロイヤルホストへとやってきました。
 さっそく通してもらった窓際の席から眺めると、開放感のある店内は、老若男女幅広いお客さんで大盛況。そうか、僕があんまり来なかっただけで、大人気なんだなぁ、ロイホ。
 BGMになんだかよくわかんないけど古き良きアメリカを感じさせるようなインスト曲が流れ、店内のどこか昭和的なテイストも相まって、伝統を感じるというかなんというか、すでにけっこうグッときてます。僕。
 いざ重厚なメニュー表に目をやると、ぐお、やっぱりなかなか高級な価格帯だ。ふと「アンガスサーロインステーキ(450g)&天然海老フライと紅ずわい蟹のクリームコロッケ」なんていう夢のように美味しそうなメニューの値段に目をやると、税込みで……ご、ご、5148円!? もちろん、1000円台で食べられる比較的お手頃なランチや、もっとリーズナブルな単品料理もいろいろあるけれど、やっぱりここは、僕にとってはまだちょっと背伸びが必要なレストランだな。
 とにかくあれだ。オニグラ。それが第一目標。単品で495円か。たぶん倍量と思われる「ダブルオニオングラタンスープ」が、968円。でもな、う〜ん。そりゃあオニグラを目指してやってきたわけだけど、単品のそれをひたすらズルズルすするというのも、ちょっとわびしい気がする。
 なんつってさらに検討していると、なんとおあつらえ向きのメニューを発見しましたよ。大皿に数え切れない種類の野菜がのり、さらにガーリックトーストとオニグラがセットになった、「食いしんぼうのシェフサラダ ブランチセット オニオングラタンスープ」1408円! これこそロイヤルな昼飲みにぴったりそうなメニューじゃないですか。そこに、どうせ飲むから最終的にお得だろうと、グラス4杯ぶんあるという「デキャンタワイン(白)」1188円をプラスして、合計2596円。ランチ飲みとしてはつつましくもないけれど、たまの贅沢としてはありな値段でしょうかね。
 よし、あとは楽しむばかりなり。ザ・ロイヤル・アフターヌーン!

お熱いのがお好き

 しばし後、まずやってきたのは「やば、これ、飲みきれる……?」ってくらい頼もしい量のデキャンタワインと、オニオングラタンスープ。時間がかかりそうなイメージがあって、サラダが先とばかり思ってたんで意外でしたが、ではこの組み合わせで始めていきましょうか。

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ワインが1杯300円弱と考えるとむしろ安い

 小ぶりながら威厳を感じる器に、ちょうどぴったり収まった輪切りパン。その上にはチーズとパセリ。下にはひたひたにコンソメスープという構成でしょうか。

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「オニオングラタンスープ」

 まずは表面にスプーンを当て、スープをすくって飲んでみます。うわ〜これは、濃いな〜! 味がじゃなくて、情報量が濃い。さまざまな食材の旨味が凝縮されたコンソメスープに、チーズのコク、ぎりぎり液状の手前を保っている玉ねぎの甘さ、ほんのりと心地いい酸味はなに由来だろうか? そんな、いわば「うますぎ汁」をたっぷりと吸い込んだパン。お次はこれをスプーンでちぎって食べてみます。あつっ! こんなに熱いものがこの世に存在するのかってくらいあっつ! あ、でもうま! うまいうまいこれ! そりゃあそうだよ。だってあんなにうまい液体を、ただでさえうまいパンが限界まで吸い込んでるんだもん。

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とろんとろん

 ……あれ? お恥ずかしいことに未見なので間違ってたら面目ないんですが、モンローさんの映画『お熱いのがお好き』って、もしかしてそういうこと?
 すかさず喉に流しこむキリッと冷えた白ワイン。この組み合わせはやばい。

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テーブルの上がお祭り騒ぎに

 やがてサラダも到着。これまた豪華っすね〜。見たことないくらい立派なアボカドを中心に、種類豊富な野菜。おつまみ力の高いゆでたまごとフライドポテトの存在も嬉しい。さらには、からあげやら、ベーコンやら、グリルした海老やらまでも「私たち? 野菜ですけどなにか?」みたいな顔でしれっと混ざりこんでいます。で、さらにガーリック&バジル風味のトーストがふた切れ。すごいな〜、これがロイヤル魂か。今僕、その真髄に確かに触れている気がしますよ。

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野菜の質があきらかにすごい

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いつもならメインゾーンにいる人たち

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オリジナルドレッシングをかけて

 玉ねぎの甘みと酸味のバランスが素晴らしすぎるドレッシングを全体に回しかけ、あっちをつっつき、こっちをつっつき。白ワインごくり。どの野菜もびっくりするくらい味が濃い。トーストはそのままでもつまみになるけれど、ベーコン&ゆでたまごなんかをのせちゃうともはや一品料理だ。白ワインごくり。おっと、まだオニグラも残ってたんだった。何度口に運んでもびっくりするな〜、この濃厚さ。白ワインごくり。え〜と、白ワインごくり……白ワインごくり……白ワインごくり……いやそれにしても頼もしいな! 白ワインの量。

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組み合わせ自由

 あ〜優雅だった。大満足だった。ロイホ昼飲み。そもそも僕、生活にロイヤル分が不足しがちな男なので、そんなときはまた成分を補給に伺おうと思います。


パリッコ(ぱりっこ)
1978年、東京生まれ。酒場ライター、DJ/トラックメイカー、漫画家/イラストレーター。2000年代後半より、お酒、飲酒、酒場関係の執筆活動をスタートし、雑誌、ウェブなどさまざまな媒体で活躍している。フリーライターのスズキナオとともに飲酒ユニット「酒の穴」を結成し、「チェアリング」という概念を提唱。2021年8月には、新刊『つつまし酒 あのころ、父と食べた「銀将」のラーメン』を上梓! また、『ノスタルジーはスーパーマーケットの2階にある』(スタンド・ブックス)『晩酌わくわく! アイデアレシピ』 (ele-king books)、『天国酒場』(柏書房)、『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』(光文社新書)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)、『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、漫画『ほろ酔い! 物産館ツアーズ』(少年画報社)、など多数の著書がある。
Twitter @paricco

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