福音派の人びとは、なぜトランプに惹かれるのか?|橋爪大三郎
初めは泡沫候補だった
トランプ大統領が誕生して、世界は驚いた。
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初めは泡沫候補の扱いだった。
だがトランプは、演説が面白い。怪しげな不動産会社のオーナーで、金はあるらしい。専用機を乗り回し、ほかの候補が言わない(言えない)ような「本音」の放言で、キャンペーン集会は大盛り上がりだ。
共和党も、人寄せパンダにちょうどよい、と様子をみることにした。
ところが、予備選を重ねるごとに弾みがつき、気がつけばもう誰にも止められなくなっていた。
共和党大会では大統領候補の指名を獲得し、本選挙では本命のヒラリー候補を破って当選した。
トランプ当選の、おまけの発見――「福音派」という存在
トランプを支持して当選に押し上げたのが、福音派(Evangelicals)だということも、話題になった。
福音派!? そんなものがあったんだ! 知らないものは好奇心をそそる。
5000万人とも1億人とも言われる福音派(ないし宗教保守)が、アメリカに隠然たる影響力を及ぼしている。
トランプ当選の、おまけのような発見だった。
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福音派は、元をたどると敬虔主義である。信仰を重視し、回心の体験を重視する。
大学の神学教育や、知的な権威や、教会の組織や、牧師の決まりきった説教など、どうでもよいと思う。村から村、町から町を説教して回る、巡回説教師の説教こそ、ほんものだと思う。
トランプは、この巡回説教師のにおいがプンプンしている。素性が怪しく、いかがわしく、人間的な弱さと悪さが透けてみえる。
でも、憎み切れない人なつこさも併せ持っている。
田舎の敬虔主義の人びとがかつて巡回説教師に惹かれたように、福音派の人びとがトランプに惹かれるのは、だから、アメリカの伝統と古い記憶をなぞっている。
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いちばん新しいもののなかに、古い記憶が潜り込んでいる。
アメリカのキリスト教の逆説だ。
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以上、光文社新書『アメリカの教会』(橋爪大三郎著)より一部を抜粋して公開しました。
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