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福音派の人びとは、なぜトランプに惹かれるのか?|橋爪大三郎

光文社新書の新刊『アメリカの教会』(橋爪大三郎著)。移民の国であるがゆえに、アメリカには多くの宗派が存在し、分裂や統合を繰り返してきた。いまでもキリスト教が「元気な」国アメリカの、政治・経済・社会を動かす「血液」への理解なくして、この国の真実を読み解くことはできない。


初めは泡沫候補だった


トランプ大統領が誕生して、世界は驚いた。

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初めは泡沫候補の扱いだった。

だがトランプは、演説が面白い。怪しげな不動産会社のオーナーで、金はあるらしい。専用機を乗り回し、ほかの候補が言わない(言えない)ような「本音」の放言で、キャンペーン集会は大盛り上がりだ。

共和党も、人寄せパンダにちょうどよい、と様子をみることにした。

ところが、予備選を重ねるごとに弾みがつき、気がつけばもう誰にも止められなくなっていた。

共和党大会では大統領候補の指名を獲得し、本選挙では本命のヒラリー候補を破って当選した。


トランプ当選の、おまけの発見――「福音派」という存在


トランプを支持して当選に押し上げたのが、福音派(Evangelicals)だということも、話題になった。

福音派!? そんなものがあったんだ! 知らないものは好奇心をそそる。

5000万人とも1億人とも言われる福音派(ないし宗教保守)が、アメリカに隠然たる影響力を及ぼしている。

トランプ当選の、おまけのような発見だった。

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福音派は、元をたどると敬虔主義である。信仰を重視し、回心の体験を重視する。

大学の神学教育や、知的な権威や、教会の組織や、牧師の決まりきった説教など、どうでもよいと思う。村から村、町から町を説教して回る、巡回説教師の説教こそ、ほんものだと思う。

トランプは、この巡回説教師のにおいがプンプンしている。素性が怪しく、いかがわしく、人間的な弱さと悪さが透けてみえる。

アリゾナ州の支持者集会で演説するトランプ(2016年)
Photo by Gage Skidmore from Peoria, AZ, United States of America ‒ Donald Trump(2016)/ CC BY-SA 2.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=52646996


でも、憎み切れない人なつこさも併せ持っている。

田舎の敬虔主義の人びとがかつて巡回説教師に惹かれたように、福音派の人びとがトランプに惹かれるのは、だから、アメリカの伝統と古い記憶をなぞっている。

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いちばん新しいもののなかに、古い記憶が潜り込んでいる。

アメリカのキリスト教の逆説だ。

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以上、光文社新書『アメリカの教会』(橋爪大三郎著)より一部を抜粋して公開しました。

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著者プロフィール


橋爪大三郎(はしづめ・だいざぶろう)
社会学者。大学院大学至善館教授。東京工業大学名誉教授。1948年神奈川県生まれ。1977年、東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。執筆活動を経て、1995年~2013年、東京工業大学教授。『教養としての聖書』『戦争の社会学』(以上、光文社新書)、『世界は宗教で動いてる』(光文社未来ライブラリー)、『ふしぎなキリスト教』(共著)(講談社現代新書)、『いまさら聞けないキリスト教のおバカ質問』(文春新書)、『世界がわかる宗教社会学入門』(ちくま文庫)、『はじめての聖書』(河出文庫)、『アメリカ』(共著)(河出新書)、『これから読む聖書 創世記』『これから読む聖書 出エジプト記』(以上、春秋社)、『世界は四大文明でできている』(NHK出版新書)、『フリーメイソン』(小学館新書)など著書多数。


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