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秋のおだんご飲み|パリッコの「つつまし酒」#240

屋台飲みの制約

 自分でも知らず知らずのうちに心のなかに蓄積されていって、あるとき一気にそれがあふれ出してしまう現象、人生においてたまにありますよね。
 いや、別にそんなに深い話をしたいわけではなくてですね、今まさに僕に起こっているそんなあふれが、ずばり“おだんごへの愛”なんです。
 これまでの人生において、ほぼ興味を持ったことがなかった。そりゃあ、食べたことがないわけではない。子供のころなんか特に、親が買ってきてくれたみたらしだんごなんかを食べて「うん、美味なるものである」というような評価を下していた気がする。けれども、大好物とまではならなかった。成長して酒好きになるとなおさらで、そもそも甘いものにほぼ興味がなくなってしまいました。
 けれども、じわりじわりと転機が訪れだしたのは、ここ1、2年。主にお祭りの屋台においてなんですけれども。

こういう

 夏や秋、また、年末が近づくと酉の市などで、屋台が多く出店している場を訪れる機会が増えますよね。となれば、そりゃあかたわらにお酒があってほしい。屋台で買った生ビールでも、コンビニで買った缶チューハイでもいいんですけれども。
 で、いろとりどりの屋台のなかから、なにかそれに合うつまみも選びたい。ただその場合、ひとつの問題が発生します。というのは、まずもって、お酒で右手がふさがっている。ということは、持てるつまみは左手にもうひとつのみ。しかも、極力食べやすいものが望ましい。定番のたこ焼き、お好み焼き、焼きそばなんかは意外と難易度が高いわけです。あくまで、僕のような酒飲み限定の話ですよ。
 そんなとき!

ん?

 今までの人生であまり興味を持ったことがなかったおだんごの屋台から、ふわ〜っと漂ってくるじゃあないですか。うるち米やもち米をこねて丸め、そこに醤油をまとわせて焼いた、あまりにも魅惑的な香りが。
 酒飲みって、なるべくちびちび長く飲んでいたいから、炭水化物を避ける傾向があります。しかし、このかわいらしいサイズのだんご1、2本なら、そう腹にもたまらないだろう。戯れに食べてみるか。なんつって買ってしまったら最後、記憶よりずいぶん上なその美味しさにやられてしまうというわけで。

だんごってこんなに安いの!?

 そんな経験を何度かくり返した結果、最近になってやっとはっきり自覚したことがあります。それは、自分にとっておだんごは、“大好物”であると。
 するとほんの少しだけ世界の見えかたが変わってくる。そうです。街の商店街にはけっこう、「おだんご屋さん」があるんですよね。それが見えてくる。そしてまた、おだんご屋さんが見えてくると、徐々に解像度が上がって、さらに見えてくるものがある。それは、おだんご屋さんには、だんごと関係ない、おこわとか海苔巻きとかの、酒のつまみになりそうなしょっぱい系の商品が、けっこういろいろあるということ。
 今までの人生において、自分からは一度もすすんで行ったことのないおだんご屋さんに、今こそ行くべきなんじゃないだろうか。そんなタイミングが、ついにきてしまったわけですよね。

「だんごの三好 大泉学園店」

 やってきました。開店の9時半と同時に。地元エリア、大泉学園のおだんご屋さん「だんごの三好 大泉学園店」さんへ。
 今までなんとなく、あるなーあるなーくらいにしか認識していなかったので、近づいてその値段を確認してみて驚愕しましたよ。オーソドックスな醤油味の「焼きだんご」が、3本で190円(税込)。なんと1本63.33333……円。5本だと310円だから、1本62円。たっぷりと餡ののった「ずんだだんご」や「あんだんご」でも、3本230円です。いくらなんでも安すぎないか? おだんごよ。
 そしてまた、あります。海苔巻き類。「五宝巻」(290円)、「スパム寿司」(300円)、「しいたけ巻」(270円)、「山菜おこわ」(420円)、「いなり寿司」(80円)。どれも魅力的だけど、どれも炭水化物だ。そんなにたくさんは食べられなさそう。ここはバリエーションを意識し、おこわといなりをいっておきましょうか。
 それからだんご。こちらは究極とも思えるお買い得パック。あんこ、みたらし、ずんだ、海苔、焼きの5本が入って380円の「五色だんご」を買ってみることにしましょう。
 で、これを、家じゃあなんとなく雰囲気が出ないので公園に持って行きつつ、途中でそれに合わせたいお酒を買いつつ、さぁ、秋のおだんご屋さん飲みの準備完了!

楽しい

 ごらんください、この写真からあふれだすわくわく感。まだおつまみを食べていない段階から、すでに缶チューハイを開けてしまっている僕の先走り行為からも、その空気感が伝わるんじゃないでしょうか。

ありがとうおだんご

 ではでは、まずはおこわといなりからいきましょうかね。それを、大好きなタカラ「焼酎ハイボール」のレモンで。

いただきます

 ねっちりとむっちりと密度の高い山菜おこわ。ぐぐっと箸で持ち上げて口へ運び、もぐもぐもぐと食べてみると、これが想像以上にうまい。しいたけや昆布の旨みをふんだんに感じるおだしと、おだやかな醤油味。そこに、山菜のしゃきしゃきと爽やかな風味が加わってたまりません。肉や魚がどーんと入っているわけではないのにこの満足感。あぁ、歳を重ねるって、悪いことばっかりじゃないな……と思わせてくれる、しみじみとした美味しさだ。

無意識に「ありがとう」と言ってしまう

 おいなりさんもまたいいですね。見た目はなんの変哲もないのに、じゅわっとしたおあげの甘さとコク深さ、これまたみっしりとした米のうまさが融合し、さすが、こういうものを長年作り続けてきた専門店の味だなと感動します。

そしてだんごタイムへ

 以上2品のごはんものは、流石に一度には食べきれないので、おこわの残りは夜に食べようと半分くらいにしておき、いよいよおだんごタイム。缶チューハイに続いては、ふらりと入った酒屋に売っていた奥多摩の地酒「澤乃井」のカップ酒を合わせてみることにしましょう。
 酒のつまみになるに決まっているのは、シンプルな焼きだんごと海苔だんご、中間がみたらし、そして未知のゾーンが、ずんだとあんこ。
 当然まず醤油から行ってみると、あ〜、うまいな……。1年のうち、なぜか正月にしか食べないおもちって、食べるとやたらと美味しく感じるものですが、それと同ベクトルの美味しさだ。もちむちっとして、きちんとしょっぱくて香ばしい。そこにワン食感とワンフレイバーが加わる海苔だんごも、ちょっと驚くほどに美味しい。日本酒に合う。合いすぎる。
 続いて気になるみたらしですが、これがまたいいんですよね。“甘じょっぱい”という言葉がありますが、まさにそれ。というか、じっくりと味わってみるとむしろしょっぱい寄りかもしれない。そこに、きちんと焼いただんごの香ばしさが加わって、あまりにも絶品です。うまいなー! みたらしだんご。
日本酒との相性も抜群で、不思議とお酒がするする、まるで水のように飲めてしまいます。これはちょっと危険かもしれないぞ。

だんご飲み、最高!

 残り2本に関しては、まず、ずんだはぜんぜん酒のつまみになりました。甘いながらも豆豆しい風味と香りが、日本酒と合う。あんこはさすがに、好みによるかなー。僕にとっては甘すぎましたが、デザートと考えればまったく問題ないというか、むしろ好ましい。というか、こんなバラエティーに富んだ味の、きちんと手作りされただんごが5本で380円って、ちょっと異常事態に感じるんですけど……。もはや、この世のなかで380円を出して買えるもののなかで、いちばんいいものなんじゃないの? とすら。
 というわけで今後、街のおだんご屋さんには、どう考えても頻繁に通ってしまうことになるでしょう。今回、世界を広げてくれたおだんごに、多大なる感謝を。


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パリッコ(ぱりっこ)
1978年、東京生まれ。酒場ライター、DJ/トラックメイカー、漫画家/イラストレーター。2000年代後半より、お酒、飲酒、酒場関係の執筆活動をスタートし、雑誌、ウェブなどさまざまな媒体で活躍している。フリーライターのスズキナオとともに飲酒ユニット「酒の穴」を結成し、「チェアリング」という概念を提唱。2021年8月には、新刊『つつまし酒 あのころ、父と食べた「銀将」のラーメン』を上梓! また、『ノスタルジーはスーパーマーケットの2階にある』(スタンド・ブックス)『晩酌わくわく! アイデアレシピ』 (ele-king books)、『天国酒場』(柏書房)、『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』(光文社新書)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)、『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、漫画『ほろ酔い! 物産館ツアーズ』(少年画報社)、など多数の著書がある。
Twitter @paricco

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