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限りなく透明に近い晩酌|パリッコの「つつまし酒」#171

透明な醤油!?

「お醤油」という調味料がありましてね。ってまぁ、今この文章を読んでいて「知らない」という方もいないと思うんですけども、主に大豆や塩を原料とした、なににかけても美味しい、真っ黒な液体。
 ところがその常識を覆す「透明な醤油」というものがあるということを最近知りました。その名もずばり「透明醤油」。九州は熊本にある、創業明治2年の老舗醤油メーカー「フンドーダイ」が、自社製法により開発したというシロモノらしい。
 なんですかね。古くは透明コーラの「タブクリア」(誰も覚えてないか)しかり、数年前の「清涼飲料水をなんでも透明にしちゃうブーム」(透明なノンアルコールビールなんてのまであった)しかり、門外漢の僕にはわからないんですが、色のついた液体から色を抜くって、そんなに簡単にできることなんですか? いや、そんなはずはないよな。きっとそれぞれの商品に、並々ならぬ企業努力が注ぎこまれてきたんだろうな。
 とにもかくにも、透明醤油。そんなおもしろそうな調味料、一度は味見してみないと気が済まない! と、すぐさま通販で購入し、家に届いたのが先日のこと。

フンドーダイ「透明醤油」

 いや〜、いいですね。まずその、ラグジュアリーな佇まいがいい。ボトルにはっきりと「醤油」と書いてあるのに、中身は透明な液体であるという違和感もいい。両手でなでまわしつつ、上下左右から、時に光を透かせながら、ず〜っと眺め続けていたいような、そんな存在感です。
 ただもちろん、醤油であるのだからして、味も気になる。じゃあこの醤油でどんなものを食べようか? なにがもっとも、透明醤油に対して失礼がないか?
 考え抜いて買い集めてきたおつまみたちを、ある日の仕事終わりにそそくさとテーブルに並べて、今日は「限りなく透明に近い晩酌」をしていってみようと思います!

透明醤油に敬意を表し

 買ってきたのは、透明な醤油に敬意を表して、「醤油で食べる定番のなかでも、なるべく色素の薄い食品」たち。

こちら!

 まずはやっぱり刺身でしょう。「なるべく白い」という点だけを重視し、たこ、いか、鯛の3種類。それから、点心系も定番だよなと、しゅうまい。ただ、しゅうまいってこうやって見ると、記憶よりもずっと色素がありますね。茶色と言っていい。ここは、ゆで餃子のほうがよかったかな? まぁ、今日のテーマの「限りなく」の部分は、「できる限り」と言い換えても良し、という勝手なルールを後づけして、このまま進めていきましょうか。いえ、決して買い直してくるのが面倒だったわけじゃないんですよ。それから最後に、冷奴。こいつも定番ですね。薬味に刻んだ白ねぎを添えて、さて準備完了。

本当に透明な透明醤油

 と、その前に、まずはいったん透明醤油そのままの味を確認してみたいところ。小皿にとって、ほんの少〜しを、ぺろりとなめてみます。……うん? え〜と? 見た目が透明ってだけで理解が追いつかないな。ちょっと失礼、もうひとなめ。うんうんうん……確かにこれは、醤油と同等レベルにしっかりとしょっぱい調味料だ。ただし、関東風のシンプルな醤油よりも甘みや旨味がしっかりとあって、アルコールっぽさや、どこか樽香(?)のような香りも漂う複雑な味。言ってみれば「こだわりのだし醤油」って感じかな?
「透明な見た目」というフィルターが思った以上に強烈で、まだ正確に判断できているかどうかはわからないのですが、現時点ではそんな印象。さて、食材と合わせてどうなるか。

無限に広がる純白料理の可能性

 おっとその前に、肝心のお酒お酒。ここはもちろん、“キング・オブ・透明酒”こと「チューハイ」の出番でしょう。というわけで冷蔵庫から、タカラの純粋プレーン缶チューハイ、「タンチュー」さんにご足労いただきましょう。

限りなく透明!
いただきま〜す

 まずはシュワっとチューハイで喉を潤し、さてどれからいくか。ここはやっぱり、ラインナップのなかでも群を抜いて白い、いか刺しかな。

カメラのピントが合いづらいくらいに白い

 そうめん状のいか刺しを数本箸でとり、いよいよ透明醤油にちょんとつけてみます。ぐっと持ち上げると、見た目、まったく変化なし。ほんのりと湿っただけ。ところが口に運ぶと、透明醤油のはっきりと主張のある旨味と塩気、いかの甘みが相まって、おお、ちゃんと美味しいですよ。僕は刺身を食べるときは、わさびや大葉などの薬味をたっぷり使う派なので、それがないのが寂しいけれど、あいつら、色素たっぷりだからなぁ。

鯛、たこ

 続いて白身の鯛、たこと食べてみますが、これらももちろん同じく。自分がいつもやっていることに対して表現が悪い気もしますが、“醤油で汚れた”という感覚が一切ない清廉潔白な存在感に、お酒を飲んでいるのにキリッと身が引き締まるようで、なんだかそこも楽しいですね。
 ではどんどんいってみましょう。お次はしゅうまい。透明醤油を直接、全体にほんのりとかけてみたんですが、今回も少ししっとりとした以外の見た目の変化はなし。

透明醤油をまとったしゅうまい

 はいはい、これまたいいな。しゅうまいってそもそも、けっこうきっちりと味がついている料理だから、もちろんそのまま食べてもいいわけです。が、そこに醤油を1、2滴たらしてあげると、ぐっと酒のつまみ度が上がって好きなんですよね。見た目は変わっていないのに、その良さはちゃんと出ていて、おもしろい。

冷奴はどうだ

 最後は冷奴。ぱくっと食べてみると、あ、これはもう、ぜんぜん違和感がない。豆腐の味に加え、薬味のねぎにもしっかりと主張があるから、全体が調和していちばんいつもの冷奴っぽい。ただし、お皿をのぞきこんでみると、まるで醤油をかけ忘れたかのような純白の世界。おもしろいな〜!
 って、さっきからそればっかり言ってますね。だけど、食べれば食べるほどにおもしろいんだからしかたない。こんなおもしろい調味料があったとはね。これ、たとえばそう、肉豆腐! 僕が家で肉豆腐を作るときに使う食材が、豚ばら、豆腐、ねぎ、酒、みりん、そして醤油なんですが、その醤油を透明醤油に置き換えることで、理論上「純白の肉豆腐」が生み出せてしまうということですよね? どう考えたって楽しいじゃないかそれは! よし、明日は純白肉豆腐で晩酌だ〜!
 あ、最後に余談なのですが、今回お刺身たちを買ってくるにあたり、たこは単品、そして、いかと鯛は、まぐろもセットになった3種盛りを買ってきていたんですよね。そこで戯れに、限りなく透明に近い刺し盛りに、残っていたまぐろひと切れと、パックに添えられていた菊の花をのせてみたところ……いや〜、「色」ってすごいなと、素直に思いました。

色のパワー!


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パリッコ(ぱりっこ)
1978年、東京生まれ。酒場ライター、DJ/トラックメイカー、漫画家/イラストレーター。2000年代後半より、お酒、飲酒、酒場関係の執筆活動をスタートし、雑誌、ウェブなどさまざまな媒体で活躍している。フリーライターのスズキナオとともに飲酒ユニット「酒の穴」を結成し、「チェアリング」という概念を提唱。2021年8月には、新刊『つつまし酒 あのころ、父と食べた「銀将」のラーメン』を上梓! また、『ノスタルジーはスーパーマーケットの2階にある』(スタンド・ブックス)『晩酌わくわく! アイデアレシピ』 (ele-king books)、『天国酒場』(柏書房)、『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』(光文社新書)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)、『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、漫画『ほろ酔い! 物産館ツアーズ』(少年画報社)、など多数の著書がある。
Twitter @paricco

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