結婚は「恋愛」ではなく「仕事」として考えたほうがうまくいく?|牛窪恵
結婚は、必ずしも恋愛の延長線上にはない
「恋愛と結婚って『別モノ』ですよね」
本書『恋愛結婚の終焉』(光文社新書)を書いた8年前、すなわち2015年に書いた『恋愛しない若者たち――コンビニ化する性とコスパ化する結婚』(ディスカヴァー携書)の取材段階で、冒頭のような声が、20代男女から相次ぎました。
本には書きませんでしたが、既にこのころ、韓国ドラマでは“グンさま(チャン・グンソク)”主演の『メリは外泊中』(10年)をはじめ、『総理と私』(13年)、『百年の花嫁』(14年)、『運命のように君を愛してる』(14年)など、恋愛をきっかけとしない「クールな結婚(契約結婚ほか)」を扱ったドラマが、次々と登場していました。
タイトルがそのものズバリの『結婚契約』(16年)も、最終回に20%超えの高視聴率を記録。他の作品と同様、主人公は経済的に窮しており(ここではシングルマザー)、生活や娘を守るため、年上の裕福な男性と結婚契約を結ぶ、という内容です。
一方、日本で16年に放送された、大ヒットドラマ『逃げ恥』(『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系))は、就職難のうえ派遣切りに遭った主人公が、ある日家事代行サービスを始め、サービス利用者の男性に「就職としての結婚」を持ちかける、という流れから始まります。
このとき二人が選択したのも、契約結婚、すなわち「戸籍はそのまま、ベッドも別だが、被雇用者(妻)が行なう炊事や洗濯などの家事に対しては、雇用主(夫)が仕事として相応の対価を支払う」という同居スタイルです。
原作者で漫画家の海野つなみさんは、「なぜ、契約結婚を扱う漫画を描いたのか」と問われ、「結婚は恋愛として考えるより、仕事として考えたほうがうまくいくのではないかと思った」、そして「(描いてみると)こういう結婚ならしたい、という声が多かった」と答えています(『nippon.com』(ニッポンドットコム)[18年11月2日掲載])。
海野さんと同様、令和の若者の多くも、「結婚は必ずしも、恋愛の延長線上にはない」と分かっているのでしょう。
だからこそ、博報堂生活総合研究所の調査(22年)で、「恋愛と結婚は別なものだと思う」と考える人の割合を見ても、「YES」と考える男性が最も多いのは20代(52・2%)で、最も少ない50代より1割以上も多いのではないでしょうか。女性でも、この割合は20代で最も多く(59・5%)、一番少ない40代を2割弱も上回っています(「生活定点」)。
ちなみに、同調査の対象(約3000人)は未婚者に限らないため、40代やその上の年代では、若い20代より既婚割合が高いはずです。
結婚後、恋愛感情がすっかり冷めた夫婦が、「理想と現実は違う」と痛感し、「恋愛と結婚は別」と答える気持ちは重々理解できます(苦笑)。これに対し、未婚が多いと思われる20代の男女が、「(結婚前から)恋愛と結婚は別」と割り切るのは、まったく別の意味があるように思えませんか?
彼らの多くは、若いうちから「結婚は生活だ」「恋愛とは別だ」と気づいているからこそ、恋愛と結婚に求める条件を、あらかじめ分けて考えているのだと思うのです。
前回ご紹介した「結婚相手に求める条件」も同様で、いまや女性に「経済力」を望む男性が5割弱いて、この割合は、15年より6・3%、10年より9・5%も増えています(21年 国立社会保障・人口問題研究所調べ)。
一方、男性に「家事・育児の能力や姿勢」を望む女性(同)は、およそ97%もいて、この割合も、やはり増加傾向にあるのです。
情熱的なカップルは、別れが早い傾向に
このように、結婚に求める要素が時代と共に変わってきた半面、「恋愛」に求める要素はさほど変わっていません。
相変わらず、男性はナチュラルメイクで上目遣いに「料理が趣味です」と話したり、合コンでてきぱきとサラダを取り分けたりしてくれる女性を好み、女性は壁ドンやエスコート、奢ってくれる、あるいはオシャレな店で愛を呟くような男性に憧れます。
こうしたこと自体は、当然のことなのです。本書にも書きましたが、恋愛と「性(セックス)」は、脳科学的にも進化人類学的にもかなり近い関係にあり、性やその先の出産をイメージするうえで、相変わらず男性に昭和の「男らしさ」を、女性に昭和の「女らしさ」を求めてしまうのは、半ば仕方がないことでしょう。
しかしながら、「結婚」は違います。とくに共働き家庭が7割に及び、男性が女性に「経済力」を、女性が男性に「家事・育児力」を求めるようになったいま、昭和の概念、すなわち「恋愛力」の延長線上で結婚相手を探そうとしても、なかなかふさわしい相手に出会えないのではないでしょうか?
また、情熱的な恋愛と「結婚」を結び付けて考えることは、サステナビリティ(持続可能性)の面からも問題があることが分かってきました。
これも詳細は本書に記しましたが、近年、イギリス在住の男女1万6000人以上を対象にした調査研究では、恋の情熱の値が大きいほど、異性との関係が早く終結する(別れる)可能性が示されている(負の相関関係)のです。
このように、本書では恋愛と結婚が「混ぜるなキケン」であることを、脳科学や進化人類学、あるいは歴史学や行動経済学などから検証しています。ぜひ一人でも多くの皆さんにお読み頂ければ、との思いで一杯です。
ちなみに、今年4月から放送されたドラマ『王様に捧ぐ薬指』(TBS系)は、主人公の二人が、それぞれ実家の家計や経営が傾いた会社を助けるために、結婚契約を交わすというストーリーでした。また、7月から放送が始まった『ウソ婚』(フジテレビ系)は、やはり家庭の事情を抱えた女性に、男性がウソの結婚相手(偽装結婚)を演じるバイトを持ちかける、という話からスタートします。
そして間もなく、10月から始まる『18歳、新妻、不倫します。』(テレビ朝日系)は、『ウソ婚』と男女の立場が逆で、名家のお嬢様が、周囲の束縛からの解放を求めて、ボディーガードの男性と偽装結婚する、という内容です。
これらの根底にあるのは、若者を取り巻く「経済苦」や「経済格差」を、結婚という合理的なシステム(海野さんいわく「仕事」)がどう埋めていくのか、という命題でしょう。恋愛に似た感情は、共に時間や生活を共有して初めて、後から付いてくるニュアンスです。
さて若者たちは、これらのドラマをどう評するでしょうか?