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結婚は「恋愛」ではなく「仕事」として考えたほうがうまくいく?|牛窪恵

2023 年、岸田文雄首相は「異次元の少子化対策」の検討を表明しました。しかし、「現代の未婚化・少子化には、大きな死角がある」と世代・トレンド評論家の牛窪恵さんは語ります。詳しい内容は同氏の新刊『恋愛結婚の終焉』に譲りますが、本書では、「結婚には恋愛が必要だ」という呪縛から人びとを解放する必要性を説き、若者の「恋愛離れ」を受け入れたうえで、「結婚に恋愛は要らない」とする「共創結婚」の重要性を多方面から検証、提案するものです。発売を前に特別にご寄稿くださいました。

結婚は、必ずしも恋愛の延長線上にはない

「恋愛と結婚って『別モノ』ですよね」

本書『恋愛結婚の終焉』(光文社新書)を書いた8年前、すなわち2015年に書いた『恋愛しない若者たち――コンビニ化する性とコスパ化する結婚』(ディスカヴァー携書)の取材段階で、冒頭のような声が、20代男女から相次ぎました。
 
本には書きませんでしたが、既にこのころ、韓国ドラマでは“グンさま(チャン・グンソク)”主演の『メリは外泊中』(10年)をはじめ、『総理と私』(13年)、『百年の花嫁』(14年)、『運命のように君を愛してる』(14年)など、恋愛をきっかけとしない「クールな結婚(契約結婚ほか)」を扱ったドラマが、次々と登場していました。
 
タイトルがそのものズバリの『結婚契約』(16年)も、最終回に20%超えの高視聴率を記録。他の作品と同様、主人公は経済的に窮しており(ここではシングルマザー)、生活や娘を守るため、年上の裕福な男性と結婚契約を結ぶ、という内容です。
 
一方、日本で16年に放送された、大ヒットドラマ『逃げ恥』(『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系))は、就職難のうえ派遣切りに遭った主人公が、ある日家事代行サービスを始め、サービス利用者の男性に「就職としての結婚」を持ちかける、という流れから始まります。
 
このとき二人が選択したのも、契約結婚、すなわち「戸籍はそのまま、ベッドも別だが、被雇用者(妻)が行なう炊事や洗濯などの家事に対しては、雇用主(夫)が仕事として相応の対価を支払う」という同居スタイルです。
 
原作者で漫画家の海野つなみさんは、「なぜ、契約結婚を扱う漫画を描いたのか」と問われ、「結婚は恋愛として考えるより、仕事として考えたほうがうまくいくのではないかと思った」、そして「(描いてみると)こういう結婚ならしたい、という声が多かった」と答えています(『nippon.com』(ニッポンドットコム)[18年11月2日掲載])。
 
海野さんと同様、令和の若者の多くも、「結婚は必ずしも、恋愛の延長線上にはない」と分かっているのでしょう。
 
だからこそ、博報堂生活総合研究所の調査(22年)で、「恋愛と結婚は別なものだと思う」と考える人の割合を見ても、「YES」と考える男性が最も多いのは20代(52・2%)で、最も少ない50代より1割以上も多いのではないでしょうか。女性でも、この割合は20代で最も多く(59・5%)、一番少ない40代を2割弱も上回っています(「生活定点」)。

ちなみに、同調査の対象(約3000人)は未婚者に限らないため、40代やその上の年代では、若い20代より既婚割合が高いはずです。
結婚後、恋愛感情がすっかり冷めた夫婦が、「理想と現実は違う」と痛感し、「恋愛と結婚は別」と答える気持ちは重々理解できます(苦笑)。これに対し、未婚が多いと思われる20代の男女が、「(結婚前から)恋愛と結婚は別」と割り切るのは、まったく別の意味があるように思えませんか?
 
彼らの多くは、若いうちから「結婚は生活だ」「恋愛とは別だ」と気づいているからこそ、恋愛と結婚に求める条件を、あらかじめ分けて考えているのだと思うのです。
 
前回ご紹介した「結婚相手に求める条件」も同様で、いまや女性に「経済力」を望む男性が5割弱いて、この割合は、15年より6・3%、10年より9・5%も増えています(21年 国立社会保障・人口問題研究所調べ)。
一方、男性に「家事・育児の能力や姿勢」を望む女性(同)は、およそ97%もいて、この割合も、やはり増加傾向にあるのです。

情熱的なカップルは、別れが早い傾向に

このように、結婚に求める要素が時代と共に変わってきた半面、「恋愛」に求める要素はさほど変わっていません。
相変わらず、男性はナチュラルメイクで上目遣いに「料理が趣味です」と話したり、合コンでてきぱきとサラダを取り分けたりしてくれる女性を好み、女性は壁ドンやエスコート、奢ってくれる、あるいはオシャレな店で愛を呟くような男性に憧れます。
 
こうしたこと自体は、当然のことなのです。本書にも書きましたが、恋愛と「性(セックス)」は、脳科学的にも進化人類学的にもかなり近い関係にあり、性やその先の出産をイメージするうえで、相変わらず男性に昭和の「男らしさ」を、女性に昭和の「女らしさ」を求めてしまうのは、半ば仕方がないことでしょう。
 
しかしながら、「結婚」は違います。とくに共働き家庭が7割に及び、男性が女性に「経済力」を、女性が男性に「家事・育児力」を求めるようになったいま、昭和の概念、すなわち「恋愛力」の延長線上で結婚相手を探そうとしても、なかなかふさわしい相手に出会えないのではないでしょうか?
 
また、情熱的な恋愛と「結婚」を結び付けて考えることは、サステナビリティ(持続可能性)の面からも問題があることが分かってきました。
これも詳細は本書に記しましたが、近年、イギリス在住の男女1万6000人以上を対象にした調査研究では、恋の情熱の値が大きいほど、異性との関係が早く終結する(別れる)可能性が示されている(負の相関関係)のです。
 
このように、本書では恋愛と結婚が「混ぜるなキケン」であることを、脳科学や進化人類学、あるいは歴史学や行動経済学などから検証しています。ぜひ一人でも多くの皆さんにお読み頂ければ、との思いで一杯です。
 
ちなみに、今年4月から放送されたドラマ『王様に捧ぐ薬指』(TBS系)は、主人公の二人が、それぞれ実家の家計や経営が傾いた会社を助けるために、結婚契約を交わすというストーリーでした。また、7月から放送が始まった『ウソ婚』(フジテレビ系)は、やはり家庭の事情を抱えた女性に、男性がウソの結婚相手(偽装結婚)を演じるバイトを持ちかける、という話からスタートします。
 
そして間もなく、10月から始まる『18歳、新妻、不倫します。』(テレビ朝日系)は、『ウソ婚』と男女の立場が逆で、名家のお嬢様が、周囲の束縛からの解放を求めて、ボディーガードの男性と偽装結婚する、という内容です。
 
これらの根底にあるのは、若者を取り巻く「経済苦」や「経済格差」を、結婚という合理的なシステム(海野さんいわく「仕事」)がどう埋めていくのか、という命題でしょう。恋愛に似た感情は、共に時間や生活を共有して初めて、後から付いてくるニュアンスです。
さて若者たちは、これらのドラマをどう評するでしょうか?

特別寄稿第1弾はこちら

目次

第1章 なぜ「恋愛」「結婚」しないのか
1・1 少子化対策の遅れと「恋愛結婚の終焉」
1・2 「結婚しない(できない)」の正体
第2章 ロマンティック・ラブ幻想史
2・1 欧米で誕生した「ロマンティック・ラブ」
2・2 日本の「ロマンティック・ラブ幻想史」
2・3 細く長く続く「共創」という感情
第3章 恋愛常識の落とし穴
3・1 愛はなぜ冷めるのか
3・2 人類の進化とパートナー選び
第4章 恋愛結婚とコスト
4・1 婚活の落とし穴
4・2「ただ一人」の相手を見つけるために
第5章 経済格差と社会通念の壁―― 「共創結婚」に向けた24の提言
5・1 経済格差の壁を越える
「奨学金が返せない」/「生理用品が買えない」/女性も「低年収だから結婚できない」/「結婚・出産すると、仕事上で〝大損〟する」 ほか
5・2 社会通念の壁を越える
「親が支える」は当たり前か/「結婚=異性と」は当たり前か/「結婚すれば妊娠する」は当たり前か/「夫は妻より稼いでこそ」は当たり前か ほか

著者プロフィール

牛窪恵(うしくぼめぐみ)
世代・トレンド評論家。立教大学大学院(MBA)客員教授。経営管理学 修士。大手出版社に勤務したのち、2001年4月にマーケティング会社インフィニティを設立、同社代表取締役。著書を通じて世に広めた「おひとりさま」(05年)、「草食系(男子)」(09年)は新語・流行語大賞に最終ノミネートされる。近著に『恋愛しない若者たち』(ディスカヴァー携書)、『若者たちのニューノーマル』(日経プレミアシリーズ)、『なぜ女はメルカリに、男はヤフオクに惹かれるのか?』(共著/光文社新書)などがある。テレビのコメンテーターとしても活躍中。

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