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いろいろななめろう|パリッコの「つつまし酒」#232

なめろうは万能?

 前回の「骨せんべい道」のなかでふれましたが、僕は晩酌時、アジのなめろうを作ってつまみにするのが好きなんです。といっても、レシピなんてあってないようなもんで、アジの刺身やたたきのお手頃なのを見つけたら、それとてきとうな薬味、ごま油少々、それから、味加減を見つつみそを加えてざっくりとたたくだけ。どう作っても失敗せず、ちびちび食べられてお酒がすすむ、実にいいおつまみなんですよね。

アジなめろう

 写真は、前回の原稿にも載せたもの。気取って盛り付けようとしたら横線を入れるのを忘れて、木の葉型ではなく“たらこくちびる”型になってしまったんですが、味のほうはばっちりでした。
 ところで、地元のスーパーのお刺身コーナーに、よく売っているお気に入りの商品があります。「お刺身バラエティ」という名前で、まぐろとか、ぶりとか、鯛とか、サーモンとかの切れっぱしが、どさっと入ったパック。お刺身をカットする時に出たはしっこの詰め合わせなんですが、味には関係ないし、いろいろな魚が食べられて値段もお得という、いいことづくめの一品なんですよね。
 先日もそれを食べていて、しかし生魚って、たくさん食べてると、ある時点から急に箸がすすまなくなることがあるじゃないですか。生の力にやられるというか、ちょっともう、刺身はいいかな……。って。その時に思いつき、残りのバラエティを、横に添えていた大葉とともに、なめろう風にしてみたんです。

「お刺身バラエティのなめろう」

 するとこれが良かった! 醤油ではなくてみそ味で食べることによってまた気分が変わり、飽きがきていたはずのお刺身を、けっきょく最後まで食べきってしまったんです。
 そこで思ったのが、なめろうって実はかなり万能なレシピなんじゃないの? ということ。先入観からアジなどの青魚で作りがちだけど、もっといろいろな素材やアレンジができそうだなと。
 よし、やってみよ〜。

変わりなめろうあれこれ

 まずは基本のアジを使って、変わり種なめろうを作ってみましょう。
 思いついたアレンジはふたつで、ひとつはキムチを使った韓国風。もうひとつは、ちょっと冒険になりますが、ハーブを使った欧風。

アジはこういうのを使って
2種類のハーブを買ってみました

 韓国風はまぁ、まずくなりようがないでしょう。問題は欧風で、思い切ってペパーミントなんて買ってきてしまいましたが、はたして合うのか。カルパッチョと考えれば違和感ないのかもしれないけど、味のベースが、みそですからね……。
 まぁいいや。わからないからこそ楽しいんだし!

2種の変わりアジなめろう

 ちなみにレシピはこんな感じ。

「韓国風アジなめろう」
・アジ
・みそ
・ごま油
・キムチ
・韓国とうがらし
・とうがらし
・ごま

「欧風アジなめろう」
・アジ
・みそ
・オリーブオイル
・ディル
・ペパーミント
・ごま

 以上、すべて目分量です。

 さて、肝心のお味のほうはと。
 まず韓国風。これは間違いないどころの騒ぎじゃなかった。味わい濃厚で、ピリ辛で、もはやある。韓国に、こういう料理。
 続いて気になる欧風はというと、これがまたすごく良かったんです! 2種のハーブの香りが、みそとぜんぜんけんかしてない。香り自体は違うけど、感覚としては大葉やみょうがにも近いのかな。まったりとしたなめろうに爽やかな風味が加わって、想像以上に調和してます。ミントの効果で、食べると口のなかがスーッとするなめろうというのが新感覚ですね。

爽やかなめろう

 続いては魚のほうを変えてみましょうか。僕の晩酌の強い味方。びんちょうまぐろはどうだろう。

我が家の定番

 味つけは、ひとつはオーソドックス。もうひとつは、これまた大好きな「とろたく」に、みそを加えるイメージでいってみましょうか。

ちなみにこういう「薬味セット」が便利
2種のびんちょうまぐろなめろう

「びんちょうまぐろのなめろう」
・びんちょうまぐろ
・みそ
・ごま油
・ねぎ
・しょうが
・みょうが
・ごま

「びんちょうまぐろのとろたく風なめろう」
・びんちょうまぐろ
・みそ
・ごま油
・たくあん
・ごま

 まずはオーソドックス。おぉ、これは、なぜなめろうの王道がアジなのかがわかる味だな。いや、ぜんぜん問題なく美味しいんです。しかし、びんちょうまぐろの持ち味ってとろっとした食感じゃないですか。たたくことによってそれが際立ち、全体がちょっと柔らかすぎちゃってるんですよね。アジよりもメリハリがないというか。
 続いてとろたく。これはなかなかおもしろいですね。いつもなら海苔で巻いて醤油をつけて食べるところ、味がしっかりついているからそのまま食べるので、味覚的にはまったく違和感ないけど、ちょっと新鮮な感覚です。ただ、次回もまた、みそを加えてたたくひと手間を加えてまでやるかっていったら、やっぱり普通に醤油で食べるかな〜。こちらもまた、若干のメリハリ不足かも。

魚から解き放たれて

 と、2日連続でなめろう晩酌をしていたら、若干生魚に飽きはじめてきてしまいました。今夜のおつまみは、なんか肉っぽいいものがいいな〜。そこでふと思いました。肉で作ればいいじゃん! なめろうを!

牛たたき

 さっそく牛たたきを作りました。レシピは当連載の「牛たたき・イン・ジャパン・フェスティバル」の回をご参照ください。
 で、これにわさび醤油なんかをつけてそのままつまみにしたい気持ちをぐっと抑え、悔しさに歯を食いしばりつつ、なめろうにしていきましょう。

牛なめろう

「牛なめろう」
・牛肉
・みそ
・ごま油
・ねぎ
・しょうが
・みょうが
・ごま

 さて、なんだかよくわからない料理ができてしまったけれども、味のほうはどうかな。もぐもぐもぐ……お、いいじゃないの、これ! 和風タルタルステーキとでも言うのかな。和の薬味とみその味わいが牛肉としっかりマッチして、居酒屋のメニューにあったらリピートしちゃうくらい美味しいですよ。
 もはやどんなお酒を合わせればいいのかわからず、肉ということで赤ワインを合わせてみたのですが、むしろホッピーとかチューハイがすすみそうだな。
 そうか、なめろうって、肉で作っても良かったんだ。
 となればですよ? 僕はすでに「なめろうは魚で作るもの」という既成概念から解き放たれた状態。なにで作ったっていい。この世には無限になめろうの可能性が広がっている。
 そこで真っ先に思いついたのが、かにかまでした。理由はありません。宇宙から「か・に・か・ま」の4文字が、脳に直接降りてきた。

かにかまで
かにかまなめろう

「かにかまなめろう」
・かにかま
・みそ
・ごま油
・ねぎ
・しょうが
・みょうが
・ごま

 さっそく作ってみたこれが、も〜ばっちりだったんですよ!
 みそやごま油の香りや味、薬味の食感や風味が、今までのどのなめろうよりも繊細に伝わってくる。このあたり、主張が強すぎない食材ならではのおまとめ力ですよね。この感じだと、マヨネーズや大葉あたりを加えてみてもより良いかもしれません。でまた、色がきれい。
 原価なんかたったの100円ちょっとですよ。それでこんな粋なおつまみができてしまうなんて、まずいな、せっかく良い素材も使いつつあれこれ作ってみたのに、今回の優勝者……かにかまで決定になってしまうかもしれない……。
 ひとまず、今夜また作って確認してみることにしようっと。


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パリッコ(ぱりっこ)
1978年、東京生まれ。酒場ライター、DJ/トラックメイカー、漫画家/イラストレーター。2000年代後半より、お酒、飲酒、酒場関係の執筆活動をスタートし、雑誌、ウェブなどさまざまな媒体で活躍している。フリーライターのスズキナオとともに飲酒ユニット「酒の穴」を結成し、「チェアリング」という概念を提唱。2021年8月には、新刊『つつまし酒 あのころ、父と食べた「銀将」のラーメン』を上梓! また、『ノスタルジーはスーパーマーケットの2階にある』(スタンド・ブックス)『晩酌わくわく! アイデアレシピ』 (ele-king books)、『天国酒場』(柏書房)、『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』(光文社新書)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)、『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、漫画『ほろ酔い! 物産館ツアーズ』(少年画報社)、など多数の著書がある。
Twitter @paricco

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