肥満男子の身体表象|馬場紀衣の読書の森 vol.41
セルバンテスの『ドン・キホーテ』を読んだ。私はこの物語がほんとうに好きだ。愛読する騎士道文学の影響を受けたキホーテは、狂った細い男で「あまりにひょろ長く、やせて、顔もこけて、脂肪がなく、柔軟性もなく、まるで結核で衰弱してしまったかのようにかなりやせ衰えている」。一方、飲食のために生きているサンチョ・パンサ(召使い)は「大きな腹部に、背丈が低く、長いすね」という姿。不自然にせりだした腹部というのは、つまり肥満体である。体をもたない実在のない小説の登場人物が、それでも物語を生きる