マガジンのカバー画像

馬場紀衣の「読書の森」

3
書物の森は、つねに深いものです。林立する木々のあいだで目移りするうちに、途方に暮れてしまうことも珍しくないでしょう。新刊の若木から、自力では辿り着けない名木まで。日頃この森を渉猟… もっと読む
運営しているクリエイター

記事一覧

『クリティカル・ワード ファッションスタディーズ』蘆田裕史・藤嶋陽子・宮脇千絵 編著|馬場紀衣の読書の森 vol.3

これまでに読んできた本はこちら そもそも人はどのようにして他人の服装に興味を持つようになったのだろう。その起こりは15世紀から17世紀にかけての「服飾版画集」まで遡ることができる。今のように誰もが自由に旅することが叶わなかった時代のお話だ。 大航海時代、ヨーロッパの探検家たちが持ち帰った土産話によって、見知らぬ世界に生きる人びとの文化に関する見聞が知られるようになった。服飾も、そのひとつだ。さまざまな民族、階級、職業の服のスタイルや装飾を線描で再現した「服飾版画集」の出版

前田雅之『古典と日本人』|馬場紀衣の読書の森 vol.2

これまでに読んできた本はこちら 古典好きからしてみたら、古典を読むことに正当な理由や立派な動機なんて必要ないのだけれど、そうでない人にとっては「やむを得ず」「諦めて」「最低限の範囲」であり、そのうえ挑むべき敵でもあるらしい。学生生活を外国で過ごしたわたしには、古典が不俱戴天の敵であるという著者の指摘にはあまりピンとこなくて、それどころか『源氏物語』も『伊勢物語』も『徒然草』もひとつの世界の住人だと思って読み進めていたのだ。 驚いた。けれど、なんて贅沢な仇だろう。だって、世

押井守+最上和子『身体のリアル』|馬場紀衣の読書の森 vol.1

学生時代を踊ることに費やしてしまったから、アニメを観るようになったのは大人になってから、日本に帰国してからだった。すっかり夢中になって、新作をあらかた観てしまうと、古い作品を漁るのが楽しみになり、そうして出合ってしまった。押井守監督の作品に。新作も旧作も、手に入るものはすべて観たように思う。 といえばオタクか、と思われそうだけれど、グッズとかキャラクターにはさほど興味がなくて、作品の趣旨や演出、入り組んだプロット、アニメならではのイメージの膨らみかたを味わうのが目的だった。