見出し画像

【リレーエッセイ】コロナ禍のヒット新書/治部れんげさんとの"なれそめ”

アランちゃん誕生年から1年ずつ、編集部員が綴ってきたこのリレーエッセイも、次回が最終回。光文社新書19歳の年(2020年10月~2021年9月)は永林が担当します。

この年は、最初から最後までずーっと新型コロナ禍の自粛生活。我らが出版社にもいろいろな打撃がありました。緊急事態宣言で大型書店が閉まったり、リモートワークの推進によって書店から人影が消えたり……。デジタルコミックの売り上げが過去最高を達成したいっぽう、書店で買う人もまだまだ多い紙の本は、けっこうな苦境に立たされたのです(売れてる本もありますが)。

アランちゃん19歳の光文社新書BEST10

この状況下でも光文社新書はペースを落とさず刊行しましたが、過去のリレーエッセイを読みかえしてみると、数年前とは発行部数が明らかに違う……😢 そんな逆境下で健闘してくれたベスト10冊がこちらです。

名画で読み解く プロイセン王家12の物語 中野京子

運気を引き寄せるリーダー 七つの心得 危機を好機に変える力とは 田坂広志

夢中力 堀江貴文

相続地獄 残った家族が困らない終活入門 森永卓郎

定年前、しなくていい5つのこと「定年の常識」にダマされるな!大江英樹

丁寧に考える新型コロナ 岩田健太郎

見るレッスン 映画史特別講義 蓮實重彦

未来は決まっており、自分の意志など存在しない。心理学的決定論
 妹尾武治

Z世代 若者はなぜインスタ・TikTokにハマるのか?
 原田曜平

夢中になる東大世界史 15の良問に学ぶ世界の成り立ち
 福村国春
※発行部数順

画像3

中野京子さんの「名画で読み解く」シリーズの第5弾。コロナ禍でも部数を伸ばしシリーズ累計37万部を突破。編集部一同、中野さんには一生頭が上がりません

ステイホームで「勉強」する時間ができたからなのか、勉強になる「新書らしい新書」がランクインしている印象です。

2年目の光文社note

2019年12月にはじめた光文社新書noteも、だいぶ充実してきました。上記ランキングの中では、感染症内科医の岩田健太郎先生によるnoteが、毎回ものすごく読まれました。

noteマガジン先行公開『ジェンダーで見るヒットドラマ』

noteで原稿を先行公開して読者の反応を見ながら書籍にまとめる方法にも挑戦しました。私の担当した『ジェンダーで見るヒットドラマ 韓国、アメリカ、欧州、日本』(治部れんげ)は、2021年1月からnote連載を開始して毎週末に更新、2021年6月に新書として発売。ヒットドラマの解説ということもあってか、このマガジンは本当にたくさんの方が読んでくださいました。

※書籍発売後に一部記事を有料化しています

突然の手前味噌発言ですが、このリレーエッセイ、おもしろいですよね! 20年近く前のヒット作の誕生秘話とか。創刊ごろの担当者がいまも編集部にいてバリバリ現役なのもすごい……。しかもそれが編集部員の約半分! 

と言いますのも、私が新書編集部に異動してきたのは2020年7月。アランちゃんが19歳になる直前なので、新書編集者的には超ペーペーです。コロナ禍での異動だったので歓送迎会もなければ忘年会もなし、部員のみなさんとも著者の方々とも、食事をともにしたことすらほぼ皆無。エッセイに登場する過去の取材とか、めちゃめちゃ密でうらやましい……。コロナのバカ!

そんなわけで、過去の大ヒット作誕生秘話が私にはありませんので、今回は担当書籍の著者・治部れんげさんとの”なれそめ”をお話しようと思います。他の回とちょっと毛色が違うのは見逃してください。全部コロナのせいです。

画像2

ジェンダー識者とヘタレフェミ編集者のなれそめ

私は入社以来13年あまり、『女性自身』におりました。芸能人ファッションから生まれたてのパンダ、ジャニーズ担当に氷川きよし担当、カビの取り方からトマトの100日レシピまで、毎週の〆切に追われる日々は刺激的で楽しいものでした。とはいえ、私自身がいちばん取材したいと願っていたのはジェンダー問題をはじめとした社会課題だったのですが、娯楽色の強い週刊誌で企画にするのは難しい状況でした。しかし、2014年、東京都議会で事件が勃発します。妊娠・出産にまつわる問題について発言していた塩村あやか議員に対し、男性議員が「自分が早く結婚すればいい」「産めないのか!」と、今となっては信じられない野次を飛ばしたのです。

はらわたが煮えくりかえるとはこのことだ! とばかりに怒り狂った私は、「男女不平等大国ニッポン」という7ページ特集を企画しました。野次への反響が大きくなり、ソーシャル署名が4日で11万筆も集まったこともあり、ドマジメ企画が珍しくプラン会議を通過。この企画において、執筆から取材対象者の紹介・選定まで担当してくださったのが、出版社から独立してフリージャーナリストになったばかりの治部れんげさんだったのです。

画像4

『女性自身』2014年8月12日号より。表紙の過激なタイトル”バカ男子”は当時の編集長(現新書の局長)がつけたもので私の考えではありません男子のみなさんすみません

治部さんとはじめてお会いしたのは、先出のソーシャル署名をきっかけとしたイベントでした。イベント前夜に急遽参加することになった私は、メディア窓口を担われていた治部さんにご連絡を入れていました。夜も遅い会社からの帰り道、治部さんから直接お電話をいただいたのをよく覚えています。

大盛況だったこのイベントで、「男女平等は当然」と考える人がマジョリティという状況に、私は人生で初めて立ち会ったように思います。話す人、話す人、ひとりの例外もなく女性蔑視の野次に怒っていました。女性が男性より下で当然と考える人がひとりもいなかった。

私は小学生の頃からずっと「男はなぜ家事をせずに威張っているのか」が不思議で、その疑問を口にする子どもでした。社会に出てからは「サラダを取り分けない女、初めて見たわ」と言われ、お酌やら花束贈呈やらに当然のように駆り出され、仕事でご一緒した女性の先輩に「男女不平等なんてない。おごってもらえてラッキーじゃん」「いつまでもそんなこと言ってるから結婚できないんだよ」と言われ、当時の同居人には「仕事と子どもの両方を求めるのは贅沢でしょ」と言われ……私の心の中のリトルフェミニストはノックダウン寸前でした。誌面鼎談にご参加いただいた酒井順子さんに「男女平等って本当に正しいんでしょうか」などとヘタレな質問をしてしまうほどの弱りっぷり。

そんなときに、イベント会場でお声がけくださった治部さん。小さな声で話される穏やかな方という印象でしたが、女性蔑視発言に対してはとても怒っていらっしゃいました。「男女平等は当然であり女性の基本的人権」という彼女の強い信念に触れて、こういう先輩がいてくださったんだという事実に、なんだか泣けてきたんです。

『女性自身』の記事の後も、折にふれて連絡を取っていました。出版社でのキャリアの積み方、夫婦別姓問題、出産……。人生の岐路ともいえる問題にあたるたび、編集者として、女性として、母親としての先輩である治部さんとお話することで、とてもとても励まされました。

あの日からちょうど6年。初めてお会いしたときの治部さんと同じ年齢になった私は、新書編集部に異動しました。そして、初めての会議で出した企画が『ジェンダーで見るヒットドラマ』でした。

あのときの治部さんが私にしてくれたように、今の私が”妹たち”を元気づけられているかについては、全く自信がありません。でも、ジェンダー平等へ風向きは、6年前と今では全然違います。今の私にできることは、”妹たち”を肯定し、励ます本を作ること。ペーペー部員ではありますが、「ジェンダー新書といえば光文社だよね」と言っていただける日が来るまで頑張る所存です(編集長が許してくれれば……)。

前回の記事はこちら



光文社新書ではTwitterで毎日情報を発信しています。ぜひフォローしてみてください!