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石鍋焼肉フルコース|パリッコの「つつまし酒」#186

突然の出会い

 今年の10月、スズキナオさんとの共著で『ご自由にお持ちくださいを見つけるまで家に帰れない一日』なんてタイトルの本を出させてもらいましたが、僕は昔っから、街なかでふと出会う「ご自由にお持ちください」にどうも目がないんです。
 先日も、地元でなかなか派手な「ご自由に〜」に出会いましてね。

こんな

 どうです? 興奮するでしょう〜。街なかを自転車で走っていると、遠くの家の前になにやらあれこれ並んでいるのが見える。もしやご自由に!? と思って近づいていってみるとそのとおり。しかも、内容がこの充実っぷり。ご自由には、決して自分が今、頭のなかのほしいものリストに入れているようなものではなく、どんなものと出会えるのかわからないのが、最高にエキサイティングなんですよね。もちろんちょっと立ち寄らせてもらいまして。
 まず小物系で、どこかまぬけな顔が可愛いパンダの小皿と、和風の紅白の小皿の3つをありがたく。それから、でっかい大理石の板とめん棒の存在感も気になるけど、これってたぶん、お菓子作りとかに使うものだよな。きっと僕より欲しい人がいるだろうから遠慮しておきましょう。
 でいちばん気になったのが、中央くらいでずーんと存在感を発している、韓国料理で使われる「石鍋」! ほら、石鍋って、一度は家でも使ってみたいけど、自分では買わない調理器具の筆頭じゃないです? やたらと重そうではあるものの、それが我が家にやってくるなんて、どう考えたって楽しそうじゃないですか。
 よし、こちらもいただいていこう。心優しい家主さん、ありがとうございます!
 ただ、中古品ということもあり、それなりの使用感はあります。それに、どんな使われかたをしてきたのかもわからないもの。なのでネットで調べ、石鍋を買ったら最初にしたほうがいいという下処理を、もう一度しておくことにしました。具体的には、「まずはよく洗い」「石鍋がすっぽりと入るサイズの鍋で30分ほど煮沸し」「いったん乾かして」「食用油を全体に塗り」「弱火で5分ほど加熱したあと」「自然に冷ます」といった感じ。
 それをやってみたところ、おぉ! 我が家にやってきた石鍋くん、想像以上の輝きを取り戻してくれましたよ!

ピカーン

まずは焼肉から

 いいぞいいぞ。さて、この石鍋でなにを作ってみようか。やっぱり真っ先に思いつくのは「石焼ビビンバ」。あれは絶対やってみたい。けど、その前に試してみたいことがあります。それは、シンプルな「焼肉」。
 石鍋の特徴というとまず、一度温まると冷めにくく、食材に熱が均等に伝わる点。これは、肉などがふっくらと焼けて旨味も逃がさない「厚めの鉄板」と同様の効果を期待できます。
 それに加えて、あんまり詳しくないし、よく調べたわけでもないんですが、素材である天然の「石」自体からなんらかのなにかが発せられて、“なんたら効果”みたいなことで焼いた肉がうまくなるような気がするんですよ。本当にぼんやりしてるけど、でもこういうのって、見切り発車のほうが楽しいじゃないですか。そもそもタダで手に入れたものだしさ。
 というわけで今日は、まずは石鍋で焼肉を楽しみ、残った材料で豪華石焼ビビンバを作る、「石鍋焼肉フルコース」といきましょうよ!

じりじりじり

 肉は、豚、鶏、牛の3種類を買ってきてみました。
 石鍋を弱火でじっくりと熱しつつ、そこに、まずはよく脂の出そうな豚ばら肉を並べてみます。じりじりじりと、ゆっくりゆっくり火が通りはじめ、やがてその身から出た脂によって少しずつ表面に焦げ目がつきはじめ、フライパンでジャーっと焼くのの10倍くらいの時間をかけて、ついに焼きあがり。シンプルに、塩コショウで食べてみましょう。

そろそろかな
豚ばらの石鍋焼き

 するとこれが、思ったとおりうまい! 表面はかりっと香ばしく、しかし、弱火でじっくりと火を通したからでしょう。肉自体はふわりと柔らかく、文句のつけようがない。それに、きっと“なんたら効果”のおかげと信じているんですが、普通の安い肉なのに、豚の旨味がすごく濃い気がする!
 こりゃあいいやと、ぐびりと飲むビールがもうたまりません。

鶏肉も焼いてみよう

 続いては、鶏のせせり肉。弾力があって旨味も濃い、鶏の首周りのお肉。合わせて、そのうち勝手に蒸し焼きになるだろうと、ちょうど家にあった青森産のにんにくを、皮のまま、上部だけちょんとハサミで切って放りこんでおきました。するとこれが大正解。たまにころころと転がしてやると香りが肉につき、ものすごく食欲をそそられるんです。

鶏せせりの石鍋焼き

 こちらもシンプルに塩コショウで食べてみる。ふわりとにんにくの香る、めちゃくちゃうまい焼鳥だ。さっきの豚と一緒で、とても自分で作ったとは思えない、絶妙な焼き加減ですね。

そして牛へ

 肉パートのラストは、リーズナブルなぶん、うまく調理しないと硬さが出てしまいがちな、牛ばら肉。それも、かなりぶ厚めの。これがなにも考えずに柔らかく焼けるなら言うことなしなんですが、はてさて。

牛ばらの石鍋焼き

 期待と不安の入りまじるなか、いざ食べてみると……うおー! やった! 言うことなしだった〜! めっちゃ柔らかく焼けてる。そしてこのガツンとくる牛の脂が、ビールに合うな〜。
 石鍋焼肉、素晴らしすぎるじゃないですか。

夢でも会いたい

 続いてはいよいよ石焼ビビンバタイム。とはいえ、特にレシピなどは参照せず、想像で作っていってみましょう。石焼ビビンバなんて、どうやったってうまくなるだろうし。
 そこでまず、残りの豚肉と牛肉を、ぜんぶ石鍋にほうりこんじゃいましょうかね。せっかく家で好き勝手に作るんだから、豪快に。

じゅわ〜

 ざっくりと肉に火が通ったら、そこへパックから出した「サトウのごはん」をそのまま投入。焼肉のタレをかけ、崩しながら炒めあわせていきます。

レンチンなどめんどうだ
ざくっざくっ

 で、食材の買い出しの際に、スーパーでちょうどいいものを見つけたんですよ。それが、ごはんと混ぜるだけでビビンバ風の料理ができるという、「甘辛ビビンバ」というレトルトの具。豆もやしなどを中心とした野菜要素は、主にこいつに担ってもらおうと思います。
 ただし、それだけではおもしろくないので、キムチと刻みねぎもたっぷりと追加して。

「甘辛ビビンバ」と
キムチをのせ
よ〜く混ぜたら仕上げにねぎを

 最後に容赦なく一味唐辛子で辛味を足したら、完成! パリッコ流、自宅で石焼ビビンバ!

間違いない

 さて、ここらでお酒を、石鍋に敬意を表して韓国焼酎「チャミスル」のロックに切り替え、あとはひたすらに、超具沢山のビビンバを食べつくしてやりましょう。

いただきます!

 ああ〜、これはもう、きっと間違いないだろうとは思っていたけど、それにしても間違いないな。甘辛いタレの味や、肉や野菜の競演、それからにんにくの香りに、キムチの酸味。その全てを香ばしく炒められたごはんがまとめあげ、もはや「うまい!」以外の言葉が出てきません。
 度数が16度もあるのに妙に飲みやすいチャミスルが、スルスルすすんじゃうな〜。

にんにくもホクホクだ
底からこそげとるお焦げもたまらん

 と、半分くらい食べすすんだところで、そういえば石焼ビビンバって、よくまんなかに生の卵黄がのってたよな。そうだった気がする。っていうか、ここに玉子足したらそりゃあ絶対にうまいでしょ。と気づき、生玉子を追加。

追いネギも追加

 で、一気に火が通りすぎないよう、全体を優しく混ぜ合わせつつ食べてみたんですが……そりゃあもうね、うっとりの美味しさでしたとさ……。
 ではこのへんで、おやすみなさい。

夢でもう一度会いたい


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パリッコ(ぱりっこ)
1978年、東京生まれ。酒場ライター、DJ/トラックメイカー、漫画家/イラストレーター。2000年代後半より、お酒、飲酒、酒場関係の執筆活動をスタートし、雑誌、ウェブなどさまざまな媒体で活躍している。フリーライターのスズキナオとともに飲酒ユニット「酒の穴」を結成し、「チェアリング」という概念を提唱。2021年8月には、新刊『つつまし酒 あのころ、父と食べた「銀将」のラーメン』を上梓! また、『ノスタルジーはスーパーマーケットの2階にある』(スタンド・ブックス)『晩酌わくわく! アイデアレシピ』 (ele-king books)、『天国酒場』(柏書房)、『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』(光文社新書)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)、『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、漫画『ほろ酔い! 物産館ツアーズ』(少年画報社)、など多数の著書がある。
Twitter @paricco

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