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闇煮込|パリッコの「つつまし酒」#227

割引きの牛もつがきっかけで

 スーパーで、好物の牛もつが割引になっていたので、衝動的に購入しました。

30%引きでゲット

 さてこれを、単純に焼いて食べるか、簡易的もつ鍋にするか、煮込みっぽくして酒のつまみにするのもいいな……なんて考えていて、おもしろそうなことを思いついてしまいました。
 酒場でたまに、牛もつや牛すじなど、数種類のもつが入った煮込みに出合うことがあります。あれ、なんだか無性にわくわくしません? 牛もつや牛すじ一種類の煮込みも潔くていいけれど、「お、これはどの部位だ?」なんて言いながら食べる楽しさというか。
 そこで、闇鍋ならぬ「闇煮込」。つまり、決まったレシピなどに縛られず、その日の気分や精肉コーナーのラインナップによって内容が変化する煮込みを作ってみたくなってしまったわけです。
 安かったから牛もつを買ってきたというスタート地点から大きくそれ、完全に本末転倒ではありますが、思いついてしまった以上、やらないと気持ちがおさまらない。
 そこで再びスーパーへ行って、牛に限らず、というかむしろ、牛、豚、鶏すべてを入れてやろうという方針のもと、もつ系の肉をあれこれ買ってきました。

牛&鳥(写真がピンボケですみません)

 今回の最終的なラインナップは以下。

・牛もつ
・豚ハラミ
・豚レバー
・豚タン
・牛すじ
・鶏皮

 これらが全部入った煮込み、どう考えてもわくわくしません?
 よし、さっそく作っていこ〜!

いきなりカオス

 まずは、アクの出そうな牛もつ、牛すじをゆでこぼし処理。

いったん煮立たせ
ざるにとる

 あ、ちなみに、買ってきたどう見ても美味しそうな肉たち。パッケージに「焼肉用」とあるからには、どうしても焼いても食べてみたくて、一部をフライパンで焼いてざっと焼肉のたれで味つけて食べてみたんですが、当然最高。ちなみに仕入れは、以前当連載の「豚珍味」という回でもお世話になった「食品館あおば」。安くて品が良く、相変わらず頻繁にお世話になっております。

じゅーっと焼いて
焼肉のたれを絡めるだけで悶絶するほどうまい

 閑話休題。ふたたび鍋にたっぷりのお湯をわかし、そこへ下処理したものも含む肉たちをすべて、どさどさと投入してしまいましょう。くさみ消しのおまじないである、ねぎの青い部分、しょうがのスライス少々とともに。あとはひたすら、弱火でコトコトと煮続けるのみ。

いきなりカオス
30分後
1時間後

 1時間くらい経過したところで様子を見ると、良いだしは出ていそうなものの、まだまだしっかりと原型をたもった肉たちに不安になりますが、こういう煮込み料理って、たいてい1時間半ごろから様子が急変しますね。2時間弱で、すっかり全体がぐずぐずに。菜箸でつついてみると、どの肉もほろほろに柔らかくなっています。
 そうしたらいよいよ仕上げ。煮込みにもいろんなタイプがありますが、僕は、醤油ベースにみそがほんのりと効いた、あまり甘すぎないきりっとした味つけの煮込みが大好き。それを目指し、味見しながら、醤油、みそ、砂糖、酒、みりん、チューブにんにくなどで味を調整していきます。
 うんうん、いいんじゃないかな。これは家庭料理の香りじゃない。完全に酒場の香りだ!

最高かもしれない

煮込んでもいいんだ

 最後に鍋に豆腐を足して、もう一度煮なおしたら、はい、二度と再現できない本日の闇煮込の完成〜! キンミヤ焼酎ストレートにほんのりと梅酒を足した「なんちゃって梅割り」とともに、いただきます!

いただきます!

 いや〜これがあなた! 聞いてくださいよ。え? とっくに聞いてるって? そりゃそうか。いやいや、これがですね、も〜素晴らしいとしか言いようがないんですよ! まじでまじで。

本当に!

 口のなかでとろけた瞬間に甘い脂の旨味を爆発させる牛もつ。驚くほど柔らかくなっているんだけど、ほんのりと残るしゃきしゃきとした食感が快感の豚ハラミ。ふわりと柔らかく、ほろほろと繊維状にほぐれる豚タン。そりゃあ煮込みの代表選手だよなっていう王者の風格を感じる、とろとろ牛すじ。全食材のなかでももっとも柔らかくなり、もはや飲めてしまうんじゃないかっていう鶏皮。
 唯一、レバーだけは独特のパサっと感が残ってしまい、さらに独特の香りの主張が強くて他のみんなと調和する気をあまり感じず、今回の煮込みには入れなくてもよかったかな、という感想でした。

豆腐がまた……

しかしまーとにかく! 多少時間がかかったくらいで大きな苦労もなく、こんなにも深い味わいの、酒場っぽさ満点の煮込みができるんだというのは、僕にとって大きな発見でしたね。焼肉用の肉を煮込むの、めちゃくちゃありだな。これからは積極的に煮込んでいこう。
 で、そうそう、その複雑濃厚なつゆを染み込ませた豆腐が、これまたえも言われぬうまさでですね……。肉をひと口味わっては梅割りをちびり、豆腐をひと口味わっては梅割りをちびり。はは。幸せってこんなに簡単に手に入るもんなんですね〜。

丼にしてみても

 当然、この煮込みをどんぶりメシにどさっとかけた「闇煮込丼」にしても、そりゃあうまいに決まってましたよ。通うよ。これを専門に出す店があったら。流行るよ。間違いなく。
 次回はまた別のレシピで作ってみよ。闇煮込。


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パリッコ(ぱりっこ)
1978年、東京生まれ。酒場ライター、DJ/トラックメイカー、漫画家/イラストレーター。2000年代後半より、お酒、飲酒、酒場関係の執筆活動をスタートし、雑誌、ウェブなどさまざまな媒体で活躍している。フリーライターのスズキナオとともに飲酒ユニット「酒の穴」を結成し、「チェアリング」という概念を提唱。2021年8月には、新刊『つつまし酒 あのころ、父と食べた「銀将」のラーメン』を上梓! また、『ノスタルジーはスーパーマーケットの2階にある』(スタンド・ブックス)『晩酌わくわく! アイデアレシピ』 (ele-king books)、『天国酒場』(柏書房)、『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』(光文社新書)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)、『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、漫画『ほろ酔い! 物産館ツアーズ』(少年画報社)、など多数の著書がある。
Twitter @paricco

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