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ネバーエンディングアルミ鍋うどん|パリッコの「つつまし酒」#178

秋の訪れ

 毎年“あの風景”を見ると、秋の訪れを感じざるをえませんよね〜。え? 紅葉? はは。違う違う。空の高さ? いやいや、違いますって! あれですよ、あ〜れ! スーパーの棚にずらりと並びだす、「アルミ鍋うどん」!
 僕、あの、ひとつ100円程度の、正方形のアルミ鍋に入った、天ぷらとか、きつねとか、鍋焼きとか、カレーとか、いろいろと味の種類も豊富なうどんシリーズが大好きでして。ところが、春夏にふと「食べたいな」と思っても、なかなか見つからないでしょう。それが、このくらいの季節になると、どこのスーパーでもいっせいに店頭に並びだす。人気なんでしょうね。地元の「ライフ」なんか、専用の棚を作って、あまつさえ「秋の味覚」なんてポップまで添えてある。もう、世間公認なんですよ。アルミ鍋うどんが秋の味覚であることは。つまり僕、アルミ鍋うどんにこそ秋の到来を感じる人間というわけなんですね。
 至高はやっぱり肌寒い朝。ぐつぐつと煮込んで玉子をひとつぽとりと落としたこいつを、鍋から直接はふはふすする。あんな幸せはなかなかないですよ。
 ところが数年前。ふと、アルミ鍋うどんということは、つまり「鍋」でもあるわけだよな。と気づき、食材をあれこれプラスし、いわゆる普通の鍋として食べてみたんです。もちろん、シメはうどんで。するとこれが、ものすご〜くお手軽&楽しい&美味しいと、三拍子揃った最高の一食だったんですよね。以来、季節が到来するたびに、こそこそと楽しんでいるわけですが、今回はその“こそこそ”を、恥ずかしながらみなさんに見ていただこうというわけで。

「すき焼風」に敬意を評し

五木「鍋焼すき焼風うどん」

 アルミ鍋うどん界では大定番の、麺類商品専門メーカー「五木食品株式会社」。今日はそちらの、「鍋焼すき焼風うどん」を買ってきてみました。うどん単体で食べるときはどうしても、具の満足感から、天ぷらうどん系を選んでしまいがちなんですが、鍋として楽しむならば、あえてふだんえらばないような味をチョイスしてみるのも楽しいんですよね。
 それにしても、いいよな〜この存在感。レコジャケみたいにコレクションして、壁にずらりと飾りたいくらい。あ、それいいじゃん!(自分の発言に自分で反応) この秋冬の宿題にしよう。各社から出ているアルミ鍋うどんの、全味コンプリート。

シンプルな構成

 それはそうと、食べよう。内容を確認すると、かやく、液体スープ、うどんという構成。天ぷらやきつねならここにそれらの具材が加わるんですが、かなりシンプルですね。
 ではいざ、規定量のお湯をはり、かやくとスープを加え、鍋のベースを作ります。お、そういえば初めて食べるかもしれないこの味。いきなりものすご〜くいい香りがするな。和風のだしっぽさだけでなく、なんだろう、動物性の、どこかホルモン鍋を思わせるようなパンチがある。あ、原材料を見ると、「ビーフペースト」なるものが入ってますね。これのせいかもしれない。つまりあれだ。実際に牛肉は入っていないけれども、せめて味わいで牛肉を感じさせてやれと。そういう心意気なわけですね。いや〜、さすが五木さんだわ。
 さぁそうしたら、コンロでぐつぐつと煮込んでいきましょう。あ、煮込むったって、いきなりうどんを、じゃないですからね! くれぐれも。今日はそうだな、大好きな豆腐。それも「すき焼風」に敬意を評して、焼き豆腐。それから、食材としてはもちろん旨味要素として、きのこは入れたいところ。エリンギいきましょう。

宇宙船みたいでかっこいい!(アルミ鍋うどん好きすぎ病)
めっちゃいい香り!
豆腐とエリンギをたっぷりと

 また、今日はスーパーでいいものを発見しちゃったんですよね〜。それが、ネギの葉先、つまり青い部分の、刻んだの。たぶん需要が少ないからでしょう。178円で、ものすご〜くたっぷり入ってる! これをどさどさと追加しながら食べてやろうと思うんです。ね? いいでしょう。

「刃先長ねぎカット」
どっさりと
準備完了!

さらなる追加食材はまさかの……

 よ〜しよし、準備は完了。ここまで、いつものクセで長々と語ってきましたけれども、実際には大した手間はかかっておりません。というか、長々語らないと原稿が埋まらないんです。
 では、これまたすき焼風に敬意を評し、といた生玉子も用意して、アルミ鍋うどん晩酌、始めていきましょう!

具材を玉子にとぷんとつけて

 まずは豆腐から。あ〜、やっぱりこの味、いい! 生玉子をつけても味が薄くならないくらいにパンチがあって、鍋のベースにはばっちりだ。しゃっきしゃきのエリンギもいいし、また、それに絡む刻みねぎがいい。
 で、ぐつぐつと煮立つ鍋からあっつあつの具材を直接とっては食べ、すかさずギンギンの氷入りチューハイを飲む。かつてこの連載で「グラグラ×ギンギン! 温度差飲み」なんて記事を書きましたが、あれと同じ楽しさがありますね。というか、あれ? 今その記事を読み返してみたら、ほぼ今と同じことやってるな……。しかも一昨年の、同じ9月に。我ながらあいかわらずの成長のなさ……。みなさん、決してリンク先の記事は読み返さないようお願いします。
 気を取り直して楽しい晩酌を続けましょう。熱い! 冷たい! うまい! とひとり大さわぎしながら、入れた具材が半分くらいになったところで、いよいよ……え? うどんを投入? 早い早い! まだ早いって! せっかくの鍋なんだから、もうちょっと楽しみましょうよ。
 そうだなぁ、ここでまさかの「牡蠣」なんてどうでしょう? これをもう、買ってきたひとパックぜ〜んぶ入れちゃう!

どさどさ〜!

 まさかでしょう? もうこの段階で、うどんの原価の5〜6倍は食材に使っちゃってるんじゃないかな。だけど、決してバカなことをしているとは思いません。だってだって、いわゆる“チープな美味しさ”とかじゃなく、本気で超美味しいんだもん。
 そしてまた、牡蠣が加わったことによりその旨味がただでさえ完成度の高かったスープに加わり、ちょっともう、たまらないことになってますよ。もうね、料亭の味。
 では、熱を入れすぎて硬くならないうちに、牡蠣、いっちゃいましょうか!

まるでAIに描いてもらったような美しさ

 うお〜! ぷりんぷりんの身を噛みしめると、クリーミーな海の恵の味が、料亭スープとともに広がる。それから牡蠣の、なんだろうこのありがたい味わい。タウリン? タウリンの味? イメージだけで言ってるからたぶん間違ってるんでしょうが、そういうなんか、貝にしか、牡蠣にしかない美味しさがすさまじくて、もう、悶絶もの……。あ〜、生きてて良かった!

ねぎの追加も忘れずに

 さ〜、こっからはもう、自分を解き放つ時間。勢いでいきますよ。すべての旨味を吸い込み、“超越した存在”となった豆腐をもぐもぐ。ねぎの絡んだエリンギしゃきしゃき。誰にも遠慮せず牡蠣をぱくぱく。ギンギンのチューハイぐびぐび……。
 おおよそ具材を食べつくしたら、いよいようどん投入だ!

ずいぶん待ってもらっちゃったな
生玉子も追加しよっと

 再び強火でぐつぐつぐつと煮ていけば、ついに本日の最終形態、「牡蠣の旨味たっぷりすき焼き風うどん」の完成!

やばい見た目

 もちろんこいつを、ずずーっと一気にすすってしまうのではなく、とき玉子につけながら、ちびちびとつまみにしていきます。

うまいよ、そりゃあさ

 ……はぁ〜、アルミ鍋うどんならではの、むちむち、ふわふわとしたコシのない食感。その優しさがあるからこそどこまでも受け入れてしまうスープの味。至高の料理ですよ、あらためて。魔改造アルミ鍋うどん。
 もはやちょっと涙目になりつつ、さらにチューハイを飲んでいて思いつきました。このとき玉子をさ、鍋に入れてしまったらどうなる? そりゃあ、玉子とじになる。その味、確認したくない? したいしたい!

はい、確認しましょう

 ははは。うまいようまい。うまいに決まってる。とき玉子つけ食べも最高だったけど、やっぱり玉子とじってずるいわ。さっき「最終形態」と言いましたが、さらに一段階進化してしまいましたね。「牡蠣の旨味たっぷりすき焼き風かきたまうどん」へと。
 これ、まだまだ終わらないな。ネバーエンディングアルミ鍋うどんだな。

物語は終わらない……


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パリッコ(ぱりっこ)
1978年、東京生まれ。酒場ライター、DJ/トラックメイカー、漫画家/イラストレーター。2000年代後半より、お酒、飲酒、酒場関係の執筆活動をスタートし、雑誌、ウェブなどさまざまな媒体で活躍している。フリーライターのスズキナオとともに飲酒ユニット「酒の穴」を結成し、「チェアリング」という概念を提唱。2021年8月には、新刊『つつまし酒 あのころ、父と食べた「銀将」のラーメン』を上梓! また、『ノスタルジーはスーパーマーケットの2階にある』(スタンド・ブックス)『晩酌わくわく! アイデアレシピ』 (ele-king books)、『天国酒場』(柏書房)、『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』(光文社新書)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)、『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、漫画『ほろ酔い! 物産館ツアーズ』(少年画報社)、など多数の著書がある。
Twitter @paricco

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