見出し画像

「『ボヘミアン・ラプソディ』の謎を解く」執筆にまつわるエトセトラを編集者とZOOMで対談してみた(後編)

映画研究者かつクイーンの音楽を愛する菅原裕子さんが、「過去1000年でイギリス人が選んだ最も重要な曲」に込められていると噂される、ある「謎」を追いかける連載「『ボヘミアン・ラプソディ』の謎を解く」。執筆の裏話をご紹介するZOOM対談も後編へ。ぜひクイーンの音楽を流しながら気楽に読んでみてください!
対談の前編はこちらから。
連載全体の見取り図はこちらからご確認できます。

コロナ禍で改めて感じる音楽の力

菅原(以下S):ご無沙汰しておりました。やっとのことで後半の収録を(ぜいぜい)。

――前期の授業は無事終えられましたか?

S:はい。なんとか。まだ成績のまとめはこれからなんですが、とりあえずオンデマンド資料の更新とZoomセッションは終わりました!いや、苛酷でした。たまに同僚とメールやLINEなどでやりとりをする程度(同じく悲痛な叫びが飛び交っていました…)で孤独でしたし。ろくな気晴らしもできない中、今回あらためて痛感したのは、音楽の力ってすごいなということですね。私は実はno music, no lifeという人間でもないんですが(そのかわり、明らかにno film, no life)それでも今回、合間合間に聴く音楽にずいぶん助けられました。映画を観ようと思ってもなかなかそうもできない時に、3分でも気分を切り替えられる音楽は本当に貴重だと。逆に、音楽を聴く気分にもなれない時間はきつかったですが…。そんな時は要注意ということも身にしみて感じました。

――菅原さんが作業に追われてらっしゃる間に、こんな動きもありましたよ。

『伝説のチャンピオン(原題: We Are The Champions)』の“ロックダウン・ヴァージョン” 、『ユー・アー・ザ・チャンピオンズ(You Are The Champions) 』を緊急リリース!

S:そうでした!

――そしてこんなユニークなニュースも。

S:なんだか急にクイーン情報通になられましたね?? そしたら、これもご存知でした?これは2019年秋からやってるんですが。

「フレディメーター」 歌うとフレディの声にどれだけ似ているかをAIが採点。音感、音色、音調を分析して彼の伝説的な音域にどこまで迫ることができるかを診断する。

S:まさか、もうエントリーされたとか…?

――はは。さすがにそれはなかったです!でもトライしてみようかな…?

意外と侮れないWikipedia

――連載の話に戻りますが、たくさんの資料にあたられて、でもこうしている間にも新しい情報が出てきたりもしますし、そのあたりたいへんじゃないですか?

S:そうなんです。なにか新しい情報が出てきているのでは?と時折不安にかられ(笑)、たまに検索してます。実際、忘れた頃に出てくるんですよ。新刊とか、写真集出版は特に盛んですね。ファンの方のサイトで知ることも多いです。ものすごくマイナーな、むかーし放映された番組が突然紹介されていたり。嬉しいやらドキっとするやらで心臓に悪いです(笑)。

――でもネットの情報って侮れませんよね。えっ、英語版Wiki、なんだかすごいですね、これ。

S:注釈が膨大。頼りになりますよ。

―――第3章後半にて紹介されたイギリスの番組も新着情報ですね。

S:2019年7月ですからほぼ最新の番組かと。ただ仮説については、新しい情報はないです(きっぱり)。私が調べたことが絶対正しいとは言い切れませんが、かなりいいセンいっているはずです。

――それだけのことは調べた、と。

S:もちろん私がカバーできていない情報はいろいろあるわけですが、仮説に関してはこれが決定版かと。もしなにか今後出てきたとしたら、またそれを加えて考察を深めてみたいです。まず証言や記述があり、いろんな人の解釈や分析があり、そこにまた新たな見方を付け加えたりしてアップデートしていけばいいんじゃないでしょうか。その中の一つに加わることができれば嬉しいんです。

謎を解決してみたものの…?

――とりあえず、謎を解決してすっきりされました?

S:うーん…。最初は、仮説の出所を突き止めることと、なによりフレディの思いを追いかけたい一心でした。確かに当初の目的はクリアしたのですが、驚いたことに、その時は思ったほどすっきりしなかったんですね。もっとすっきりするかと思ってたんですが。

――その後展開がありましたものね。

S:思いがけなく、なんですけど。

――たくさんの記事や文献に目を通されて、その中でも特に印象深いものというのはありましたか?

S:まず、まちがいなく一つの区切りとなったのが、ラミ・マレックのアカデミー賞のスピーチです。ひととおり資料にあたって、さてこれってどういうことなんだろう…とつらつら考えていた頃にちょうどこのスピーチがあって、点で散らばっていたものがくっきりと一つの線になったような気がしました。次のステップに進むために、ポンと背中を押してくれたというか。

「……困難に直面している人、自らの声を発見しようとしている人がいたら聞いてください。私たちは、ゲイで、移民で、言い訳することなく自分の人生を生き抜いた男の映画を作りました。今夜、皆さんとともに彼とその物語を祝福することができたという事実は、私たちがこういった物語を求めていた証だと思います。」

――先回の、フレディの「物語」を皆が求めていた、という話につながりますね。ただ、実はその後展開がありました。

S:はい。最後の最後で思いがけない展開もあって。カルチャーセンターの講座やサマセミでお話ししたのはラミ・マレックのところまでで、それはそれで着地してはいたんです。その後うっかり(笑)リサーチを続けていたところ、それまでに書いてきたことを一部ひっくり返すようなことが出てきて――あまり具体的には言えませんが――。人って、自分が言い出したことだ、自分で考えたことだって思っていても、実はそうじゃない、他の誰かが言ったことを自分で言ったと思い込んでることとか、あるじゃないですか。

――あります、あります。


S:実際のところどうだったのか本当のところはわからないわけですが、そういう曖昧なことも含めて人間だというか、最後はそのように判断しました。あるいは読み手に任せる。正直、一通り書き上げてからだったので、どうしよう!?と悩みましたが。あまり詳しく話すことができないのでちょっとわかりにくくてすみません。

あとは、オックスフォード大学の先生たちの見解や、社会学――あるいはカルチュラルスタディーズの範疇に入るのかもしれませんが――これまで私が知らなかったジャンルの論文にも触れて新鮮でした。

また、私の恩師と女子会の席でお話しした際に伺ったご意見がとてもプロフェッショナルで。イギリスにお詳しい先生で、階級によって違う言葉の使い方などご指摘いただいたのですが、さすが…と惚れ惚れしました。先生が年季の入った(そしてミーハーな)クイーンファンだということも初めて判明したんですが、客観的に、だけど刺激的に読み解いていく作業というのがなんとも豊かで面白いことだなあとあらためて感じました。(恩師との"無礼講"女子会の様子も後日公開する予定です!)

アダム・ランバートへの印象の変化

――通して原稿を書かれて、クイーンに対してなにか見方が変わったことってありましたか?

S: それはもう、ブライアン・メイの存在感に尽きます。私はコアなファンというわけではないので、昔から応援している方々にとっては言わずもがなのことかもしれませんが、論を進めるにつれ、クイーンというグループを支えているブライアンの存在がいかに大きいかが段々浮き彫りになってきました。フレディが亡くなってからの折々の発言も、今回のリサーチにおいてとても重要でした。

――InstagramやTwitterの更新がとても多いと聞いたことがあります。

S:マメですよ。しょっちゅう更新してます。文章も長めで丁寧。ツアー中の写真をこまめにアップしてくれたり、映画の批判などについても丁寧に答えていたりします。

――ある意味スポークスマンのような。

S:つまり、クイーンというのが一つのファミリーなんです。ブライアンが家長。でも彼が独裁者でその他のメンバーを抑圧しているわけではない(笑)。そしてアダム・ランバートの存在。ステージでも、ロジャーと共にランバートをいつも気にかけていて、「こいつどうだい? 悪くないだろ?」とか言ってて、もう涙出ますよ。父と息子、ロジャーが叔父さん、みたいになっていて。表記としては、クイーン+アダム・ランバート(略QAL)、Queenにアダムを迎えて一緒にやっているという形です。つまり、フレディの代わりでなく、フレディの歌を、クイーンの楽曲を引き継いでくれるファミリーメンバーという役割をランバートは与えられているんです。

私、最初どうも彼を受け入れられなかったんですね。たぶんこういう人って少なくないんじゃないでしょうか……やっぱりフレディじゃないと、というか。フレディの代わりになる人はいないんだから、誰をボーカルに据えてもダメだと。ポール・ロジャーズと組んだ時も、なんでこんなことやってるんだろうと否定的でした。アダム・ランバートのことも最初、同じように見ていました。ただ、いろいろ資料にあたるうち、やっぱり見ておかないと、と考えが少し軟化してきて、彼が参加した頃からのドキュメンタリーを見たところ….衝撃でした。すごいいいコなんですよ(笑)。正直あのタトゥーは苦手で、今でもあまり見ないようにしてる(笑)んですけど、それは別として、とにかく真摯。まじめ。オーディション番組で勝ち上がってきた本格派ですし、“Wicked”などブロードウェイの舞台で活躍してきただけあって歌唱力は折り紙付き。そしてなにより、フレディに似ていない。でも少し、彼の流れをくむところもある。華やかで艶っぽい。

誰もフレディの代わりを求めてはいないんです。ただ、クイーンの音楽を引き継いで絶やさないでくれる人、これからも歌い継いでくれる人がほしい。そういう意味で彼は理想的です。ブライアンもロジャーも彼のことをとても大事にしている。ロジャーが「きっと、(アダムと舞台に立っているところを見たら)フレディも喜んでくれるだろう」と言っているんですけど、全面的に賛成です。

WOWOWで放映された「The Show Must Go On: The Queen + Adam Lambert Story」↓

――この連載の1回目が始まった日がQALの日本ツアー最終日、名古屋公演でした。

S:そうでした! 1月の終わりです。名古屋ドームでWebのアップの確認をスマホからした覚えが。私にとって、クイーンの初コンサートでした。 “Killer Queen”を艶めかしく歌うランバートの魅力は彼だけのもので、クイーンの楽曲の見事な変奏曲だと思います。彼自身、フレディが大好きなんですね。そんな彼を見守るブライアンやロジャーの姿に胸が熱くなりました。フレディの映像が映し出される曲もあって、スマホのライトが会場を埋め尽くし、揺れて、まるで星空の下、皆一体となってフレディに思いを馳せました。忘れられません。

こうやって、今でも日本とのつながりを大事にしてくれていることが嬉しいです。心臓発作を起こして手術を受けたとのニュースにはひやりとしました。無事でよかった。

「フレディの不在」と映画の特性

――ブライアンから、続編映画の可能性はないという発言もありました。

S:まあそうでしょうね。観てみたい気がしないわけではないけれど、あの物語の続きがあるとも思えないですし。大ヒットした本編についても、昔からのファンの中には映画は見たくないっていう方もいて、それもわかるんですよね。皆それぞれの思い出があるし、特に初期からのファンにしたらなおさらそうでしょう。ただ、私としては、アダム・ランバートを迎えたクイーンと同じように、フレディの遺志を継ぐ、けれど別のものとして、映画版を受けとめることもできるんじゃないかと。私にとっての映画版は、フレディという稀有な才人の不在をあらためて確信させるものでした。そしてそれは映画の特性ととてもなじみがよかったのだと考えています。

――映画の特性ですか。

S:はい。映画って不思議じゃないですか。観ているのはもうずっと前に失われた、しかもフィクションの時間。なのに、観ている今の、現実の時間ととてもリアルに重なり合うという。最初はまったくフレディに見えないラミ・マレックが、段々フレディが憑依したかのように見えてくることも。そしてその見事さに感服すればするほど、失ったものの大きさを痛感する…。私にとっては、このあたりのことをあらためて考えさせてくれたという点で、とても大事な映画です。

――Webでは掲載されませんが、最終章の第六章「物語」を語ること、「伝説」の向こう側――映画版『ボヘミアン・ラプソディ』を解く――で扱われている映画論ですね。

『ボヘミアン・ラプソディ』お勧めカバー① ペンタトニックス
数々のアーティストのカバーの中でも決定版。1000万を超えるヒット数を誇る。実力派ボイパグループの真骨頂。


『ボヘミアン・ラプソディ』お勧めカバー② 氷川きよし
熱唱姿にほれぼれ。初の洋楽カバーについての語りも興味深い。


『ボヘミアン・ラプソディ』お勧めカバー③ アンジェリーナ・ジョーダン
2020年1月、アダム・ランバートを生んだアメリカの人気オーディション番組で一躍注目を浴びる新星。7歳で同番組のノルウェイ大会で優勝した、2006年生まれの弱冠14歳。祖父は日本人だそう。今後の活躍に大注目。


『ボヘミアン・ラプソディ』お勧めカバー(おまけ)犬のおまわりさん with QUEEN ハッチポッチステーション
知る人ぞ知る名作。実はこれが最もインパクトが大きかったりする。

 ――では、また次回から、いよいよ謎解き「解答編」の第四章に突入します。みなさんお楽しみに。そういえば、この連載は学生さんに紹介されたんですか?

S: はい、とうとう。「英文パラグラフはJポップ?」と題して米津玄帥さんの『パプリカ』を使って英文構造を読み解く、という問題作!?をまず作ってみたんですね。いきなりクイーンというのもちょっと馴染みがないかと思って。その後満を持してついにこのページを紹介しました。結構♡スキ!が伸びていて、おそらく学生たちのおかげかなと(…感謝)。はまりました!というメッセージもいくつかもらっています。音楽を介すると英語嫌いの人も抵抗が薄れるようで、なかなか好評です。洋楽をちょこっと紹介するコーナーを楽しみにしてくれた人も多くて、やっぱり音楽というのは人と人を結ぶんだなあと。ただ、毎回関連のクイズを作るのが結構たいへんでした。もしまたオンデマンド授業になることがあったら、この部分だけ業者に発注したいくらいです。

――そんな業者ないですって!(笑)

プロフィール写真その2

書き手:すがはら・ゆうこ/学術博士(名古屋大学)
専門は映画研究。元々の洋画好き&洋楽好きが高じて、現在は非常勤にて名古屋市内複数の大学で英語講座を担当。
『ボヘミアン・ラプソディ』は大学1年生対象の授業で曲を扱ったのがきっかけで、その後カルチャーセンターから愛知サマーセミナーの講座へと発展。ファンの方々の熱い思いに直に触れ、リサーチをまとめたものを書き下ろしました。『ボヘミアン・ラプソディ』の謎解きの、さらに向こうにお連れします。現在、出版するべく奮闘中。応援よろしくお願いします!

最後まで読んでいただきありがとうございました。みなさまの「スキ」が出版に繋がります。ぜひお願いします!

この連載の詳細はこちら↓をご覧ください!


この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?
気軽にクリエイターの支援と、記事のオススメができます!
note.user.nickname || note.user.urlname

よろしければサポートをお願いいたします。もっと読んでいただけるコンテンツを発信できるように、取材費として大切に使わせていただきます!

アランちゃんも感謝しています!
42
新刊、イベント情報ほか、ぜひ手にとっていただきたい既刊本のご紹介や注目の連載をアップしていきます。お気に入りの光文社新書について書かれたnoteをまとめたマガジン「#私の光文社新書」は、アイコンのキャラクター「アランちゃん」ともども投稿をお待ちしています!

こちらでもピックアップされています

『ボヘミアン・ラプソディ』の謎を解く(菅原裕子)
『ボヘミアン・ラプソディ』の謎を解く(菅原裕子)
  • 11本

クイーンの名曲『ボヘミアン・ラプソディ』にこめられた、とある「謎」を映画研究者の菅原裕子さんが追いかけます。

コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。