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「『ボヘミアン・ラプソディ』の謎を解く」執筆にまつわるエトセトラを編集者とZOOMで対談してみた(前編)

映画研究者かつクイーンの音楽を愛する菅原裕子さんが、「過去1000年でイギリス人が選んだ最も重要な曲」に込められていると噂される、ある「謎」を追いかける連載「『ボヘミアン・ラプソディ』の謎を解く」。
前回、ターニングポイントとなる重要な仮説(=謎)にようやくたどり着きました。

後半戦に入る前に一休み、ということで、今日は執筆の裏話をご紹介します。名古屋に住む菅原さんと編集者(高橋)がZOOMでおしゃべりして収録しました。ぜひクイーンの音楽を流しながら気楽に読んでみてください!

「謎」の正体に迫る前回の記事(第3章―後半)はこちらから。
連載全体の見取り図はこちらからご確認できます。

過労死しそうなオンライン授業でも「凝り性」は止められず……

―――今日はzoomで。お久しぶりです。

菅原(以下S):よろしくお願いします。さっきもオンライン会議だったそうですね。

―――編集者は元々リモート的な仕事ではあるんですけど、打ち合わせもオンラインがメインになってきました。大学の方もオンライン授業に移行ですか?

S:もう過労死しそうです…。パワポのオンデマンド資料を作ってるんですが、凝り性がたたって、つい、DJっぽくやろっかな~とか本筋と関係ないとこで妙にがんばってしまって。仕事増やす一方です。毎週オープニングとエンディングには曲紹介したり、イントロクイズも作ってます。

―――やはり『ボヘミアン・ラプソディ』を?

S:それがまだで。クラプトンとかマーヴィン・ゲイとか。

―――学生さんにこの連載宣伝しないとだめじゃないですか!

S:確かにそうなんですけど、顔も出てるし、なんかはずかしくて…。満を持してその時が来たら…って、それがいつなのかはよくわからないんですけど…教えます。

―――そして♡を押せと!

S:もちろんです。読まなくてもいいから押せと(笑)。

―――2月に編集部にいらしていただいて以来ですね。といっても、その時が初対面ですけど。コロナウィルスもまだ出始めの頃で。

S:新幹線も混んではいませんでしたけど、ピリピリし始めた頃ですね。でも今思えばまだ平和だったかも。どこかに寄って遊んで帰りたかったんですけど、光文社さんの近くの有名な和菓子屋さんで豆大福だけ買ってすぐ帰りました。美味しかった!

―――群林堂さんですね。文豪たちにも愛されてきた老舗です。会社でもおつかい物に利用したり、お土産でいただくことも多いんですよ。

S:昔ながらのよい感じのお店ですよね。三島由紀夫や松本清張と同じものを食べたのかと思うとそれだけでも胸がいっぱいです。

膨大な資料のリサーチ中は「寝ても覚めてもフレディが……」

―――第四章はいよいよ、楽曲『ボヘミアン・ラプソディ』が、フレディがゲイであることのカミングアウトであるという仮説がそもそもどこに端を発するのかという、解答編の趣になってきます。原稿全体の鍵を握るのはリサーチですね。これ…かなり当たられたようですけど、端的に言って、たいへんでしたよね…? 

S:ほとんど病的だと思います。

―――具体的にはどれくらい?

S:媒体としてはテレビ番組やDVD、書籍や雑誌、インターネット記事などで、主なところを見える化するとこんな感じです。

上が映像資料、下が書籍など文字ベースの資料。

正式にまとめたものではないですが、文献をリストアップするとこんな風になります。手前は愛用のライトペン。映画館の後ろの隅の席でひっそりとメモ。

集めた資料をPC内で整理するだけでも一苦労……

―――なんだかすごい量ですが…でもこれは、そもそものリサーチの目的、『ボヘミアン・ラプソディ』という曲に関するものばかりとは限らないんですよね….?

S:その通りです…。「もしやなにか手がかりが」といろいろ当たりましたけど、結果的に、この中で直接「答え」に結びつく情報が含まれていたものはほとんどありませんでした(泣)。まあ、楽しいのでいいんですけど。ただほんとに大量にあるので、「手がかりを…」と藁をもつかむ思いで、ドキュメンタリーなんかずっと(二倍速使ったりして)観てると段々朦朧としてきて、意識を保つのがたいへんでした(笑)。

海外の番組が主で、Youtubeで字幕が付くものもあったので助かりました。日本版が出ているものもありましたが、念のためオリジナル版が見られるものはそちらで確認して。困ったのはパッチワークみたいなところがあって。別番組の映像が一部手を加えられて使い回されていることもままあって、こんがらがりました。

―――時間的にはどのくらいかかったんですか?

S:集中して調べたのは春休みを利用した2019年の2月と3月の2か月間です。ほぼ毎日ずっと作業してました。2018年11月の映画公開直後に授業でやった時点では、その後自分がこんな深い沼にはまっていくことになるとは夢にも思わず(笑)。年が明けてから、3月末にカルチャーセンターで講座を持つことになり、仮説の謎に向かって走り始めました。それがまず一区切り。

―――その後7月の愛知サマーセミナー講座があって。(サマーセミナーについての詳細はこちら

S:はい。終わった次の週に講師室で知り合いの先生に会って…セミナーにお友達も連れてきてくださっていて…「みんなもっと続き聞きたいって言ってますよ、またぜひお茶でもしませんか」って言われた時、突然ひらめいて。「あっ、新書書こう!」と。

―――し、新書なんですね。

S:直感的に新書だと。新書が好きというのもあるんですけど。セミナー当日もアンケートで反響がすごくて、来てくれた友人知人からも激励されてその日は終わったんですけど、まとめようという気持ちはその時は別になかったんです。はー、お疲れさま、自分っていう。

―――じゃあ一週間後に、突然。

S:はい。もちろん、お茶しながらいくらでもお話はするんですけど、そうだ、この話を聞きたい人はいっぱいいるはずだ!って猛然と思ったんです。サマセミに来れなかった日本中の人がたくさんいる!と。そして原稿執筆を決めて、期末試験作りながら書き始めて夏休み全部を使い、後期始まっても仕事しながらまた調べてずっと書いて、とりあえず脱稿したのが2019年の12月です。その間も新しい記述を発見したりして自分の中でどんどん展開していったので、結構長かったですね。でも面白かった……(しみじみ)。

家に帰ってから続き書きたいっていうのが心の支え(?)になっていて授業にも身が入るっていう不思議な循環も。年明けから始まって、やがて春になり夏が過ぎ、秋風が木枯らしになっても、寝ても覚めてもフレディが…という話ばかりしていて、周りはかなり迷惑だったようです(笑)。夏休みに息抜きで友達と温泉旅行に行った時も、列車で落ち合うなり、書き終えたばかりの原稿いきなり渡して「読んで」って。彼女は別に洋楽ファンでもないのに。

―――お友達は何と?

S:「ごめん、ようわからんし」、って(笑)。読んでくれましたけど。いや、ほんと気の毒なことをしました(笑)。

―――そして、編集部にお電話いただいたのが確か9月頃。

S:二章ほど書き上げたところだったと思います。編集者さんは朝が遅くて夕方に比較的ヒマという噂?を聞きつけ、ワインを一杯ひっかけてえいやっと思い切って電話しました。電話しようかどうしようか考え始めてたぶん、二、三週間経ってましたが。

―――そうだったんですか!いや、酔っ払ってらしたとは(笑)。

授業で学生に『ボヘミアン・ラプソディ』を歌わせる理由

―――『ボヘミアン・ラプソディ』も当初は授業でとりあげられたんですよね? 

S:11月、フレディの命日の週に。一年に一、二回なにか洋楽はとりあげていて、じゃあちょうど映画が公開されるし、クイーンの布教も兼ねてと。映画館には初日に行きました。小さい劇場に8割程度の混み具合という、今思えばマニアックな盛り上がりでした。私の隣は高校生くらいの娘さんを連れた女性で、映画が佳境に入るにつれ、体が前後に揺れ始め、やがてすすり泣きが…。「はっ、先に泣かれたっ」となんだか焦りました。ライブエイドのシーンではひたすら小声で一緒に歌ってました。

―――まだ最初はそんなにヒットするという感じではなかった。

S:でも二週目には大きい劇場に移っていて、あ、お客さん入ってるんだ!と嬉しかったですね。 

―――授業での学生さんの反応は?

S:なにこれ!?って感じですかね。ビジュアルも、歌詞も。ポカーンって雰囲気。親御さんの影響でよく知ってる人もいましたが、ごく少数ですね。でも、生まれて初めて聞いたっていう人いる?って聞くと、そういうわけでもない。クイーンという名前も知ってる。『ウィ・アー・ザ・チャンピオンズ』とか『ウィ・ウィル・ロック・ユー』も聞いたことはある。

―――CMやスポーツの応援歌として耳にしてるんでしょうね。歴史上の伝説のバンド…ビートルズみたいなもの?

S:ああ、そうかも。私はそんなこと思ったこともないですけど(笑)。あと、ニヤニヤしてる男子学生が数人いて、キラークイーンとか、隣同士でこっそり喋ってる。

―――『ジョジョの奇妙な冒険』!

S:それです、それ。他にもなんか言ってたな…。

―――「キラークイーン第3の爆弾、バイツァダスト!」

S:それそれ!高橋さんも彼らとほぼ同世代ですものね。そういうのが出てくるんですってね。何回か聞いたけど、覚えられない(汗)。講師室でも、それまであんまり話したことない先生が私の持ってるDVDを見て声をかけてくださったり。前にこんな番組見ましたよとか、「クイーンと私」みたいな話も聞かせていただいたり。

―――思いがけない輪が。

S:しかも結構それぞれが「語る」話をお持ちなんですよ。私が今度こんな講座やるんですって言うんですけど、「フレディってこうだよね」とか「クイーンは…」と、私が聞かせていただくことが圧倒的に多くて。普段クイーンや洋楽とまったく縁のなさそうな方でも「彼らはみんな高学歴なんだよねー」とか、一通り情報もゆきわたっている(笑)。認知度が高い、あるいは上がったんだなと驚きましたね。

一年経って、2019年にも授業で扱いましたけど、今度は映画を観た人も増えていて、曲をかけたらいきなり口が一緒に動いている強者も出現したりで、これも感慨深かったです。戸惑っている人もいますけど、最後は必ず「歌わせる」。理由は私一人歌うのがさびしいから(笑)。声ちゃんと出してうまく歌えたら終わるから!って言うとみなあわてて大声で歌います。ほとんど脅迫ですね、これ。

ただ、コロナウィルスの件で、教室で思いっきり一緒に歌うということは今後難しくなるかもしれないですね……。そう思うと、なんというか、とても悲しい気持ちになります。

図書館の「予約待ち200人」が意味するもの

―――2018年終わり頃から映画のヒットがメディアでも大きくとりあげられるようになって、その後大ブームになりました。なにか実感としてはありましたか?

S:ニュース番組でも一つの現象みたいにとりあげられ始めて、なんだかすごいことになってきたなあと思ったのはたぶん皆さんと同じなんですけど、個人的に実感したのは、公立図書館のクイーン関係の本が2月半ばくらいからだったか、次々と貸りられなくなってきたんです。あれよあれよという間に予約待ち200人とかになって。その時ですね、実感したのは。

私は1月下旬、期末試験など少し片付いてきた頃、何冊かめぼしい本を借りてたんですね。その頃はまだ普通に借りられたんです。ですがその後、「あ、もう一度確認したいな」と図書館HPをチェックすると、軒並み貸し出し中になっていました。映画の大ヒットが伝えられてはいましたが、びっくりしましたね。もちろん購入したものもありますが、キリがないので。普段用意のいい人間ではないのですが、多少は「こんなこともあろうかと」少し早めに動いた。めずらしく先見の明がありました(笑)。

―――さきほどテレビ番組が「パッチワーク」みたいでというお話でしたけど、書籍などもそうですか?

S:そういうものもありました。時系列に見ていって、どの時点でこの発言や記述を入れたのか、あるいは削除したのか知りたい箇所があったのですが、原書の古い版は入手できなかったり。ネット記事はもっとそうですね。まとめのまとめだったり、引用の引用で、途中で文脈が曖昧になったり、場合によっては話がちょっと変わってきてる?と思うようなところも。出所をはっきりさせていく作業が非常に難しかったです。

―――ネットだと発言の転載が容易ですし。書いた人のバイアスがかかることもありますよね。

S:署名記事の最初のソースにあたることを原則とましたが、そんなわけで手間がかかりました。ああ、こうやって拡散されていくんだなあと。仮説に関しては噂が噂を呼ぶというか、まとめのまとめが目立っていたように思います。

―――それが重要な要素なのかもしれないですね。ネットの特性にマッチしていたというか。特にこういうちょっとセンセーショナルなものは。

S:図書館の本が次々と借りられなくなったことも、なにか本質的というか、大きな意味を持っていたんだと、今あらためて思うんですよ。さっきのネットでの拡散とはちょっと違うんですけど――みんな知りたがっていたんだ、と。映画を観て、前からクイーンを知っていた人もそうでなかった人もいたわけですけど、彼らがその後どうしたかというと、まず繰り返し映画館に行く人が続々と出てきた。リピーターが同じ劇場に、あるいは別の形の上映会に遠征していった。

―――一緒に声を出して歌える応援上映や、IMAX、DOLBY ATMOSなどですね。

S:私の友達は特にクイーンのファンでもなかったんですけど、最初に結構高齢のお母さんがたまたま映画館に行って夢中になり、その後誘われて観に行ってはまって、県外の、とんでもなく遠い特別上映に出かけたりしてるんです。そういうことも珍しくなかったでしょうね。そしてCDや配信でクイーンの音楽を初めて、あるいはあらためてじっくり聴いた。クイーンのアルバムは2019年、2020年と二年連続で日本ゴールドディスク大賞のアーティスト・オブ・ザ・イヤーを獲得しています。つまり、映画を求め、同時に、彼らの音楽を求めた。4月には映画のDVDが発売され、その後レンタルやケーブル、配信で再び映画に触れた。あるいは初めて観た。

―――あ、でも2月に図書館の本を借りるというのは…。

S:彼らを知りたい、いえ、やっぱりフレディを知りたいということだと思うんです。もちろんクイーンの音楽に惹かれて、なんですけど、本まで借りて読みたいというのはそれ以上のものがある。ただ、フレディやクイーンの関連本というのは、コアなファンが買う写真集などは別として、翻訳物の一般書が多くて、いきなり買うというのはちょっとハードルが高いんですね。新書のように手頃な値段でもないし、まあまあ冊数もあるので全部買ってると結構たいへん。でも素晴らしいことに、公立図書館はこれらをかなりカバーしているんです。絶版で入手しにくい本もあって、地方の図書館から取り寄せてもらったものもありました。時間はかかりましたが、ありがたかったですね。

―――みんな、知りたがっていた…。

S:まさにそうだと思います。

―――そういう本は、どんな内容なんですか?

S:フレディやクイーンのこれまでの歩みを綴ったものが主ですね。フレディを看取った最後の恋人ジム・ハットンの手記や、フレディの生い立ちから始まって人生そのものを追う形式のものが人気です。本人が書いたものはなくて、関係者がまとめたものです。

―――フレディを知りたい、フレディの「物語」が求められていた、というのは、実はこの「仮説の謎」を解いてからの、本書の大きなテーマの一つなんですよね。そのあたりにもぜひ注目していただきたいですね。
(対談/後編につづく)

書き手:すがはら・ゆうこ/学術博士(名古屋大学)
専門は映画研究。元々の洋画好き&洋楽好きが高じて、現在は非常勤にて名古屋市内複数の大学で英語講座を担当。
『ボヘミアン・ラプソディ』は大学1年生対象の授業で曲を扱ったのがきっかけで、その後カルチャーセンターから愛知サマーセミナーの講座へと発展。ファンの方々の熱い思いに直に触れ、リサーチをまとめたものを書き下ろしました。『ボヘミアン・ラプソディ』の謎解きの、さらに向こうにお連れします。現在、出版するべく奮闘中。応援よろしくお願いします!

最後まで読んでいただきありがとうございました。みなさまの「スキ」が出版に繋がります。ぜひお願いします!

この連載の詳細はこちら↓をご覧ください!



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『ボヘミアン・ラプソディ』の謎を解く(菅原裕子)
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クイーンの名曲『ボヘミアン・ラプソディ』にこめられた、とある「謎」を映画研究者の菅原裕子さんが追いかけます。

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