見出し画像

フリーランスの酒事情|パリッコの「つつまし酒」#99

「はあ、今週も疲れたなあ…」。そんなとき、ちょっとだけ気分が上がる美味しいお酒とつまみについてのnote、読んでみませんか。
混迷極まる令和の飲酒シーンに、颯爽と登場した酒場ライター・パリッコが、「お酒にまつわる、自分だけの、つつましくも幸せな時間」について丹念に紡いだエッセイ、それが「つつまし酒」。
そろそろ飲みたくなる、毎週金曜日だいたい17時ごろ、更新です。

フリーになって丸2年

 2010年くらいからお酒に関する文章をなんとなく書くようになり、徐々にお仕事をいただけるようになって、それまで務めていた会社を辞め、「酒一本のフリーライター」というあまりにも無謀な肩書きで独立したのが2019年の3月1日。あれから早いもので、もう2年が経つんですね〜。
 会社を辞めた翌日の、家から一歩外に出たとたん、まるで背中から羽でも生えたんじゃないか? と思うくらいにふわふわと体が軽かった感覚、忘れようにも忘れられません。その日も今日みたいに天気のいい日だったなぁ。寒い寒い冬がようやく終わり、あちこちで色とりどりの花が咲きはじめ、40歳というちょうどいい節目に、なんだか新しい人生が始まったようなあの気持ち。毎年この季節がやってくると思い出すんだろうな。そんな気がしています。
 その時はまさか、コロナウイルスなんてものが流行し、このように世界が一変してしまうなんて想像もしていませんでした。独立してからの約1年は、くる日もくる日も取材か打ち合わせで夜の街へ。翌朝、だるさMAXの重い体を無理やり引き起こし、原稿にとりかかる日々。そして夕方からはまた飲みに出かけてゆく。今思うと、あれはあれで異常だったよなぁと感じます。
 その後世の中がみなさんご存知のような状況になり、一気に仕事がなくなってしまうんじゃないかと不安になったりもしましたが、意外とそんなことはなく、急速に需要の増えた家飲みや、コロナに対抗すべく新しい策を打ち出す酒場の取材など、あの手この手の仕事の依頼を多くの編集者さんからいただき、あらためて、人々の小さな希望になりうる「酒の力」って、確かにあるよなぁという想いを強くしています。
 今後の人生に対する不安はあるし、それは一生なくなりそうにない。とりあえずここまではやってこられたけれど、では次の1年も「やっていける?」と聞かれたら、答えようもありません。けれどもこの2年、ストレスというものとは本っっっ当に無縁の生活を送れており、それはとてもありがたいことだなと。

「夏」は酒を飲む理由

 ただ、やばいんですよ。この自由すぎる生活。だって、いつなんどき酒を飲もうと、注意してくれる上司も同僚も部下もいないんですもん。今日みたいに天気がいいと、それだけで昼間っからビールが飲みたくなる。しかも直近の原稿締め切りが明日だったりした日には、もう今日は欲望にあらがうのをあきらめて、明日からまたがんばろ〜! ってなるでしょうよ。誰だって。
 でまた、よくほら、「みんなが働いている時間から酒を飲む背徳感と優越感がたまらない」なんて言う人がいるじゃないですか。僕は昔っからあの感覚がわからない。例えば仕事の休みをとって、なんのうしろめたいこともなく昼から酒を飲む。それは誰にでも許された喜びであって、悪いことでもなんでもないじゃないですか。だから僕のスタンスは昔っから一貫して「勝手に飲め! こっちも勝手に飲むから! じゃあ、良い昼酒を!」ってなわけでして、そんな男が文字通り、常に「フリー」な時間のなかにいたら、これはなかなかのハードモードであると言えますよ。
 さらにおそろしいのはこれからやってくる「夏」。夏ってさ、もう、それだけで「酒を飲む理由」になりません? 「夏だから酒飲みて〜!」これ、ごく自然なセリフですよ。
 まぁ、それが日常になってしまうと人間的にまずいことは自覚しているので、毎日なるべく夕方までお酒は飲まないようにしてるんですが、や〜自信ないな〜、今年の夏も一応がまんしつつ乗り越えられるのかどうか……。

酒場ライターの異常な日常

 そこにとどめをさしにくるのが、僕の「酒場ライター」という生業ですよね。例えば週に一度必ず締め切りがやってくるこの「つつまし酒」の連載。どうしたってまず、酒を飲まないことには始まらない。自分で始めたんだし、好きでやってることだから楽しいんですよ。だけど一般的に考えて、「急いで酒を飲まなきゃいけない」って状況、人生にあんまりなくないですか?
 つつまし酒のこの1年をふり返ってみたって、明日が締め切りだから急いで「シュクメルリを買ってきて飲まなきゃ!」「コンビニ弁当をまげわっぱに詰め替えて飲まなきゃ!」「いろんなものを浅漬けにして飲まなきゃ!」「ドムドムバーガーに行って飲まなきゃ!」「ベランダで野宿しつつ飲まなきゃ!」「物産館に行って飲まなきゃ!」「冷凍餃子を食べ比べながら飲まなきゃ!」「どんぐりを拾ってきて飲まなきゃ!」「定食屋で飲まなきゃ!」「おせち作って飲まなきゃ!」「たこ焼きとお好み焼きの形を入れかえて飲まなきゃ!」「千葉まで『トンかつ弁当』を買いに行って港で飲まなきゃ!」って、どんだけ異常な生活なんだっていうね。しかも、そんなタスクが他の媒体含め日々やってくるわけですから、もう。

 さて、今この原稿を読んでくれた心優しいみなさまにおかれましては、僕の体のことがものすご〜く心配になっておられるかもしれません。ありがとうございます。本当に、普段の生活では節制、節酒を心がけつつ、これからも楽しいお酒生活を送っていきたいなと、これを書いている今、あらためて襟を正しています。

 ただ、今回けっきょく何が言いたかったかというと、「あぁ、酒場ライターは楽しいなぁ!」につきるんですけどね。

画像1

3年めもなんとかやりすごせますように
パリッコ(ぱりっこ)
1978年、東京生まれ。酒場ライター、DJ/トラックメイカー、漫画家/イラストレーター。2000年代後半より、お酒、飲酒、酒場関係の執筆活動をスタートし、雑誌、ウェブなどさまざまな媒体で活躍している。フリーライターのスズキナオとともに飲酒ユニット「酒の穴」を結成し、「チェアリング」という概念を提唱。
2020年9月には『晩酌わくわく! アイデアレシピ』 (ele-king books)、『天国酒場』(柏書房)という2冊の新刊が発売。『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』(光文社新書)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)、『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、漫画『ほろ酔い! 物産館ツアーズ』(少年画報社)、など多数の著書がある。Twitter @paricco


この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?
気軽にクリエイターの支援と、記事のオススメができます!
光文社新書

よろしければサポートをお願いいたします。もっと読んでいただけるコンテンツを発信できるように、取材費として大切に使わせていただきます!

アランちゃんも喜んでいます!
22
光文社新書の公式noteです。光文社新書の新刊、イベント情報ほか、ぜひ手にとっていただきたい既刊本のご紹介や注目の連載をアップしていきます。お気に入りの一冊について書かれたnoteを収録するマガジン「#私の光文社新書」は、常時投稿をお待ちしています!