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エンタメ小説家の失敗学 by平山瑞穂

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本連載は小説家の平山瑞穂さんが、自らの身に起こったことを赤裸々に書き綴ったものです。 平山さんは、2004年に『ラス・マンチャス通信』で第16回日本ファンタジーノベル大賞を受賞… もっと読む
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2022年9月の記事一覧

そう出来の悪い小説ではなかったが……――エンタメ小説家の失敗学32 by平山瑞穂

そう出来の悪い小説ではなかったが……――エンタメ小説家の失敗学32 by平山瑞穂

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第6章 オチのない物語にしてはならない Ⅱ『桃の向こう』

 結果として『野性時代』に掲載された短篇小説『桃の向こう』は、こういう内容である。

 ――大学生・来栖(くるす)幸宏は、同じ講義を受講していた女子学生・仁科煌子(あきこ)に惹かれ、親しくなっていくが、デートを重ね、キスを交わす間柄にまでなっていながら、彼氏・彼女として相手を束縛しながらつ

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禍の種は最初から――エンタメ小説家の失敗学31 by平山瑞穂

禍の種は最初から――エンタメ小説家の失敗学31 by平山瑞穂

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第6章 オチのない物語にしてはならない Ⅰアマチュア時代に書いた作品の再利用

 エンタメ文芸の場合、「明瞭な起承転結」が求められるということは、すでにくりかえし述べてきた。もう少し詳しく言うとそれは、物語にメリハリのついた起伏がなければならず、はっきりそれと見て取れる物語上の終着点がなければならないということだ。つまり、オチらしいオチが必要なのだ

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納得できないことは、ちゃんと言葉にして伝えたほうがいい――エンタメ小説家の失敗学30 by平山瑞穂

納得できないことは、ちゃんと言葉にして伝えたほうがいい――エンタメ小説家の失敗学30 by平山瑞穂

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〈コラム〉配慮と我執のあいだ  前章で取り上げた『プロトコル』については、今でも猛烈に悔やんでいることがひとつある。作品の内容についてではない。できあがった本の装幀をめぐる問題だ。

 単行本のときはよかった。白地を背景に、コルクのついたなにかのキャップ状のものをつまんで持ち上げる女性の手を接写した写真が主要なモチーフとなっている、とてもしゃれた装

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編集者の視点や受けとめ方は、世間一般と必ずしも一致しない――エンタメ小説家の失敗学29 by平山瑞穂

編集者の視点や受けとめ方は、世間一般と必ずしも一致しない――エンタメ小説家の失敗学29 by平山瑞穂

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第5章 「編集者受け」を盲信してはならない Ⅵ――『夜明け前と彼女は知らない』(『大人になりきれない』より改題)をめぐって致命的な欠陥

 新潮社のGさんのもとでこの作品を構想した段階では、なんなら直木賞も射程に入れるくらいの勇み足な心構えだったが、版元が文芸大手ではないPHP研究所になった時点で、当初のその目標はだいぶ遠ざかってしまっていた。しか

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