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「設計ミスが原因の大手術」は尾を引く――エンタメ小説家の失敗学18 by平山瑞穂
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第3章 作品の設計を怠ってはならない Ⅵ「設計ミスが原因の大手術」は尾を引く
しかし、そうして結果として広く読まれたこの本が、読者にすんなり支持されたかというと、その点はきわめて微妙だ。事実、ネット上では、手放しで共感を表明してくれるレビューもある一方で、かなりあしざまにけなしているものも少なからず見られた。
もちろん、万人に受ける作品など
なぜ売れたのかわからない。いまだに――エンタメ小説家の失敗学17 by平山瑞穂
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第3章 作品の設計を怠ってはならない Ⅴなぜ売れたのかわからない
発売当初は、目立った動きもなかった。だから僕も、「いつものことだ」と受け流していた。それが、半年ほども過ぎた頃を境に、いきなり火がついたように売れはじめた。最初、四〇〇〇部の重版の連絡を受けたときには、かつがれているのではないかと思ってしまったほどだ。それほどまでに、「重版」とい
思いがけないヒット――エンタメ小説家の失敗学16 by平山瑞穂
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第3章 作品の設計を怠ってはならない Ⅳトラウマ
この本(『冥王星パーティ』)を書くことにおいて僕が犯した失敗とは、これに尽きる――作品をあらかじめ入念に設計することを怠り、プロットらしいプロットを組んでいなかったために、執筆中に際限なく物語世界が膨張してしまい、結果として苛酷な原稿削減作業を余儀なくされたこと。
『冥王星パーティ』改題『あの
過酷な改稿作業――エンタメ小説家の失敗学15 by平山瑞穂
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第3章 作品の設計を怠ってはならない Ⅲ言われてみれば、なにもかもがもっとも
一瞬、何を言われているのかわからなかった。三〇〇枚削る――? 三〇〇枚といえば、短めの長篇小説一冊分にも相当する量ではないか。僕にしてみれば、「半分削れ」と言われているのにも等しいほど、理不尽で無理無体なリクエストに感じられた。
しかし、彼女がそれを求めるのも、当
「おもしろいのだから、多少長くてもかまわないではないか」――エンタメ小説家の失敗学14 by平山瑞穂
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第3章 作品の設計を怠ってはならない Ⅱ「仕切り直し」を図る
結果としては四作目になってしまったものの、僕が『冥王星パーティ』の刊行を通じてもくろんでいたことは、一種の「仕切り直し」にほかならなかった。あまりにも風変わりなデビュー作『ラス・マンチャス通信』のことはひとまず置いておいて、「これからはこの路線で行く」ということを宣言するマニフェスト
作品の設計を怠ってはならない――エンタメ小説家の失敗学13 by平山瑞穂
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第3章 作品の設計を怠ってはならない Ⅰ一枚四〇〇字換算の世界
文芸の世界ではなぜか、原稿ボリュームを表す度量衡として、四〇〇字詰め原稿用紙で何枚分に当たるかという「枚数」が、今もって現役で使われつづけている。
今どき原稿用紙で書いている人なんて、よっぽどご高齢でパソコンのキーボードになじめないような大御所や、特定のこだわりがある書き手以
逃げる編集者たち②――エンタメ小説家の失敗学12 by平山瑞穂
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第2章 功を焦ってはならない Ⅵ〈コラム〉逃げる編集者たち②
「逃げる編集者たち①」はこちら。
しかし、文芸誌等に掲載されるだけで完結する短篇小説ならどうだろうか。それからも原稿料や挿画等の依頼料などの経費は発生するが、一冊の本を出すことに比べれば微々たるものだ。また、文芸誌なら、単発のコラムや書評などの小さなコーナーもある。
文芸誌とい
逃げる編集者たち①――エンタメ小説家の失敗学11 by平山瑞穂
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第2章 功を焦ってはならない Ⅴ〈コラム〉逃げる編集者たち①
うまくいっている――すなわち、小説家が売れているか、売れるかもしれないという期待を出版社側に抱かせることができるかしているかぎり、担当編集者というのは、作家にとって実に頼りになる相棒でありうる。しかし、その前提が崩れるなり、彼らは驚くほど素早く、「逃げる側」に回る。そのことは、小説
ライトノベルの誘惑――エンタメ小説家の失敗学10 by平山瑞穂
第2章 功を焦ってはならない Ⅳライトノベルの誘惑
功を焦り、下手を打ってしまったという点で、この『シュガーな俺』の発表はひとつの失敗を物語るケースといえるが、寸前で踏みとどまった経験も、僕にはある。それについても、この章で併せて明かしておこう。
時期的には『シュガーな俺』が出た翌年くらいのことなのだが、僕はある編集者から執筆の打診を受けていた。その人のことは、仮にY氏と呼んでおこう。実は
「カミングアウト損」――エンタメ小説家の失敗学9 by平山瑞穂
第2章 功を焦ってはならない Ⅲ「カミングアウト損」
「来た!」と思った。今度こそ波が来たと思ったのだ。糖尿病であることを明かすことには一定の抵抗があったが、これで作家として名を上げることができるなら、代償としては安いものだ。そんな思いで僕は重版の知らせを待ち受けていたのだが、肝腎の売れ行きのほうはなぜかあっという間に失速し、メディアであれだけ派手に取りざたされていたことが夢だったかのように思い
驚くほどよかったメディアの反応――エンタメ小説家の失敗学8 by平山瑞穂
第2章 功を焦ってはならない Ⅱブログ形式での連載という試み
結果として、二〇〇六年一一月、『シュガーな俺』は、僕にとって三作目の小説、そして初のオートフィクションとして、世界文化社から刊行された。
原型が私的なエッセイだっただけあって、この小説も、僕自身の個人的な体験に大幅に依拠した内容となった。語り手・片瀬恭一は、ある意味で僕自身とイコールといってもよく、劇中では、糖尿病に罹患してから
「これが売れなければ次はないかもしれない」――エンタメ小説家の失敗学6 by平山瑞穂
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第1章 入口をまちがえてはならない Ⅳ
「これが売れなければ次はないかもしれない」 そうしてまっさらなところからルールを学びつつ、苦手意識を持っていた「ジャンル」なるものにあえて挑む決意を抱いた僕が、『ラス・マンチャス通信』に続いて新潮社から「受賞第一作」として発表した作品、『忘れないと誓ったぼくがいた』(二〇〇六年三月)は、結果としては甘い純愛フ
「なぜこの本が一〇〇万部も売れるのか」――エンタメ小説家の失敗学5 by平山瑞穂
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第1章 入口をまちがえてはならない Ⅲ
「エンタメの流儀」に沿って改稿
さて、問題は、そのGさんに出会い頭に突きつけられた課題だった。受賞に至った応募原稿は、もともと短篇の(しかも純文学のつもりの)連作だったこともあり、物語上の帰着点が明瞭に示されるような形にはなっていなかった。ひとつの物語としての起承転結など、僕にとっては第二義的なものにすぎず