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恋愛学で読みとく「文豪の恋」

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恋愛学の第一人者である森川友義教授が、まったく新しい視点から、明治・大正・昭和の名だたる文豪たちの小説に描かれた「恋」について分析します。2019年9月に、光文社新書として一冊に… もっと読む
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#恋愛

人気連載「恋愛学で読みとく『文豪の恋』」が光文社新書になりました!

人気連載「恋愛学で読みとく『文豪の恋』」が光文社新書になりました!

みなさん、こんにちは。note担当の田頭です。

下のトップ画像、見覚えのある方も多いのではないでしょうか? そうなんです、実はこのnoteのスタート以来、ずっと人気を集めていた森川友義先生の連載「恋愛学で読みとく『文豪の恋』」が、ついに1冊の本にまとまったんです!

光文社新書9月刊です!今日9月17日に紙版は全国発売、電子版も本日同日発売となっています! ちなみにこちら、noteの連載が初めて

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大学生の私が【森川友義×鈴木涼美】対談に立ち会って思ったこと

大学生の私が【森川友義×鈴木涼美】対談に立ち会って思ったこと

こんにちは。大学4年生、最後の学生生活を自宅で粛々と過ごす清水(きよみず)と申します。こちらの光文社新書編集部には去年からおじゃましていて、このnoteでも、過去に2つほど記事を担当しました。

もし、万が一、名前や記事に見覚えがある方がいらしたら、某夢の国ーー海ver.の某ウミガメさんの某アトラクションのように、「さ〜いこうだぜ〜!」と勢いよく両手を挙げたい気分です。ご存じでなければ無視してくだ

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【森川友義×鈴木涼美 対談】文豪たちが描いた恋は、私たちにも当てはまる!?

【森川友義×鈴木涼美 対談】文豪たちが描いた恋は、私たちにも当てはまる!?

恋愛学者の森川友義先生が光文社新書『恋愛学で読みとく文豪の恋』を上梓されたことを記念して、作家の鈴木涼美さんとの対談が実現しました。恋愛について、独自のアプローチでそれぞれ著書を多く出されているお二人。いわば恋愛のエキスパート同士は、文豪たちが描いた恋をどう読み、どう考えるのでしょうか。「文学」の権威にとらわれることなく、歯切れよくトークが弾んだ対談、恋愛についてなんだかすごく「分かる」気になれま

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『風立ちぬ』が示す4つの視点から、幸せな夫婦のあり方について考える #9_2

『風立ちぬ』が示す4つの視点から、幸せな夫婦のあり方について考える #9_2

宮崎駿監督が映画『風立ちぬ』の着想を得たことでも知られる、堀辰雄の不朽の名作『風立ちぬ』。長らく生と死の意味を問う小説として知られてきましたが、実は「結婚」という視点に着目すると、作品の新しい魅力が浮き彫りになるものでした。後編では、『風立ちぬ』が示唆する「幸せな夫婦」のあり方について考察していきます。

前編はこちら。

その① 夫婦関係が長期的でないこと『風立ちぬ』の場合、2人の関係は短期的な

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堀辰雄『風立ちぬ』 は夫婦間の幸福を描ききった小説として再評価されるべきだ #9_1

堀辰雄『風立ちぬ』 は夫婦間の幸福を描ききった小説として再評価されるべきだ #9_1

さて、この連載もいよいよ最終回です。最後は、堀辰雄『風立ちぬ』を採り上げたいと思います。

これはいままで解説してきたどの作品とも似ていない、特異な恋愛小説です。何が特異かというと、恋愛というよりも「結婚」に重きをおいた内容だからです。

この作品で問われているのは、夫婦間における「愛」と「幸福」です。読者のみなさんが結婚されているならば、この2つがどれだけもろく貴重なものかご理解いただけると思い

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谷崎潤一郎『痴人の愛』を読みとく、マゾヒズムとはまったく異なる視点を提示する #6_1

谷崎潤一郎『痴人の愛』を読みとく、マゾヒズムとはまったく異なる視点を提示する #6_1

『痴人の愛』は、谷崎潤一郎が男女の関係を「私小説」ふうに綴った長編小説です。この作品は男女の性格や行動を非常に細かく描写している点で他の小説とは一線を画していて、この観点に立てば近代文学の最高傑作のひとつと言えるでしょう。この連載でもいろいろな名作を見てきましたが、この『痴人の愛』の恋愛心理描写の緻密さは、夏目漱石の『こころ』に匹敵するレベルです。

『痴人の愛』は関東大震災の翌年の1924年から

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『斜陽』のかず子は、なぜ涙を流しながらも上原との道ならぬ恋に溺れたのか? #5_2

『斜陽』のかず子は、なぜ涙を流しながらも上原との道ならぬ恋に溺れたのか? #5_2

太宰治『斜陽』を、「浮気市場」=「不倫」をキーワードに読み直す視点を提示した前回。後編では、いよいよ具体的に作品中の人間関係に即して考察していきます。かず子はなぜ上原を愛してしまったのかーー。もはや「不倫」について考える文学作品として、『斜陽』は欠かせないテキストです。

前編はこちら。

上原の立場から不倫を考える上原からみた不倫とかず子からみた不倫の2つがありますが、まず上原の心理からかず子と

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「浮気市場」の概念を正しく理解することが『斜陽』を読みとく鍵となる #5_1

「浮気市場」の概念を正しく理解することが『斜陽』を読みとく鍵となる #5_1

不倫を考察する2作目として、太宰治『斜陽』を採り上げます。『蒲団』が1908年の作品であるのに対しこの本は1947年に出版されていますので、一挙に40年近く新しくなり、時代も大正から昭和になります。

最初に申し上げておかなくてはならないのは、『斜陽』は純粋な恋愛小説ではありません。テーマは、タイトルどおりわが国の上流階級の没落=斜陽です。その裏側には共産主義礼賛という思想もからんでいて、政治色を

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不倫をしたくてたまらなかった『蒲団』の時雄は、しかし意外と「いい夫」だった #4_2

不倫をしたくてたまらなかった『蒲団』の時雄は、しかし意外と「いい夫」だった #4_2

ちょっぴりフェティッシュなイメージの一方で、繊細かつ緻密な恋愛描写が光る田山花袋の『蒲団』。後編では、この小説の2大テーマのひとつである「不倫」がどのように描かれているかを詳しく見ていきます。そして、不倫願望に悶々とする時雄が意外に「いい夫」である理由とは――? 何かと話題を巻き起こしがちな「不倫」について、「不倫学」を提唱する森川先生の考察が冴え渡ります。

前編はこちら。

「不倫」を定義する

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「キモい中年男」小説と思われがちな田山花袋『蒲団』は、繊細な恋愛描写が胸を打つ傑作である #4_1

「キモい中年男」小説と思われがちな田山花袋『蒲団』は、繊細な恋愛描写が胸を打つ傑作である #4_1

これまでの「純愛」から一転して、第4回と第5回では「不倫」がテーマの小説を採り上げます。まずは田山花袋の『蒲団』、次いで太宰治の『斜陽』です。前者は不倫したくてもできなかった中年の恋の話、後者は不倫しちゃった人の話です。

それでは、第4回として田山花袋の中編小説『蒲団』から。

『蒲団』を読んだ人が思い出すのは「あのキモいにおいフェチの小説」というところでしょうか。あるいは「不倫願望に悶々とする

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武者小路実篤『友情』は誰もが直面する「報われない恋」の救いとなるのか #3_2

武者小路実篤『友情』は誰もが直面する「報われない恋」の救いとなるのか #3_2

武者小路実篤『友情』が長年読み継がれたのは、明治の時代にはまだ新鮮だった自由恋愛がしっかり描かれた小説だったからということが論じられた前回。後編では、その恋愛心理のなかでも、「報われない恋」の形態である「片思い」「叶わぬ恋」「失恋」をいかに巧みに段階的に描写しているかを明らかにします。現代にも通じる恋愛心理の普遍性に迫る後編をお楽しみください。

前編はこちら。

『友情』における恋愛の形態① 「

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武者小路実篤『友情』は恋するすべての人が読むべき最良の教科書だ #3_1

武者小路実篤『友情』は恋するすべての人が読むべき最良の教科書だ #3_1

第3回として採り上げるのは、白樺派の中心人物の一人、武者小路実篤の『友情』です。 

『友情』は1919年10月から新聞社の連載として書き始められたものですが、1920年に完成し、一冊の本として出版されました。『こころ』が1914年でしたので、それから6年後の出版になります。年代的にはそれほど変わりませんが、恋愛の描写は実に奔放、自由主義的な理念を掲げる白樺派の代表作の1つと言えます。文体の美しさ

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森鷗外『舞姫』は2つの今日的恋愛のテーマを先どりしていた小説である #2_2

森鷗外『舞姫』は2つの今日的恋愛のテーマを先どりしていた小説である #2_2

森川友義教授が恋愛学の視点から名作に描かれた恋を読みとく好評連載。発表以来「クズ男」と罵倒され続けた豊太郎を新鮮な視点から擁護してみせた第2回の後編では、豊太郎の選択が妥当であった合理的な根拠と、『舞姫』に描かれた恋の今日的な意義について考察します。

前編はこちら。

費用対効果その① ベルリンに留まった場合「ベルリンに留まる」場合の長所は以下の2つです。

1つめは、ドイツという自由な社会で生

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100年以上もの間「クズ男」と非難され続けた『舞姫』の豊太郎を擁護する #2_1

100年以上もの間「クズ男」と非難され続けた『舞姫』の豊太郎を擁護する #2_1

第1回は夏目漱石でしたので、今回は明治の二大文豪のもう一人、森鷗外の名作『舞姫』を採り上げてみます。

『こころ』は教科書に登場するくらい馴染み深い作品ですが、こちらの『舞姫』もそれに劣らず人気がある短編小説です。『こころ』は1914年に出版されていますが、『舞姫』はさらに時代をさかのぼって1890年に世に出ています。

『舞姫』は文語体で書かれていて格調高いのですが、私たち現代人が読むには非常に

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