森川友義の恋愛学で読みとく「文豪の恋」

8
記事

「同性愛」と「処女性」――『伊豆の踊子』を真に理解するにはこの2つのキーワードが必要だ #7_2

前回で詳しく分析したように、「恋愛小説」とは呼ぶにはあまりに特異な『伊豆の踊子』。しかしどうやら映画やドラマに見られるような、単純な青春の物語ではないようです。後編では、川端康成が作り出した作品世界に、さらに深く切り込む視点を提示します。

前編はこちら。

「異性愛」へのめざめなのか?

ここでぜひ知っておかなければならないのは、作者である川端の性的志向です。実は当時の川端は同性愛者でした。これ

もっとみる
アランちゃんと一緒に喜んでいます!
24

川端康成『伊豆の踊子』に、本当に「恋愛」が存在したのかを検証する #7_1

この連載ではここまで、文豪たちの数々の名作を読んできました。『こころ』から始まり『痴人の愛』まで、6つの小説を恋愛学の見地から批評してきたわけですが、そのどれもが恋愛という夜空に舞う豪快な打ち上げ花火のというべき作品ばかりでした。読みごたえがあり、圧倒される迫力がある。それだけに批評のしがいもありました。

ところが今回の『伊豆の踊子』、こちらはまったく異なります。圧倒されません。迫力もありません

もっとみる
ありがとうございます!
18

『痴人の愛』のナオミをやがて待ち受けるのは、夫にあっさり捨てられる運命である #6_2

「テストステロン」と「ドーパミン」の2つの化学物質が、いかに恋愛関係に大きく作用するかを指摘した前回。後編では、この視点をいよいよナオミと河合の関係に当てはめて考察していきます。従来的には、河合がナオミに支配されるマゾヒズムの文脈で読解されることが多かった『痴人の愛』ですが、はたして…? 文豪・谷崎潤一郎屈指の傑作が、小説としていったい何を描けているのかを明らかにします。

前編はこちら。

テス

もっとみる
今後とも光文社新書をよろしくお願いします!
25

不倫をしたくてたまらなかった『蒲団』の時雄は、しかし意外と「いい夫」だった #4_2

ちょっぴりフェティッシュなイメージの一方で、繊細かつ緻密な恋愛描写が光る田山花袋の『蒲団』。後編では、この小説の2大テーマのひとつである「不倫」がどのように描かれているかを詳しく見ていきます。そして、不倫願望に悶々とする時雄が意外に「いい夫」である理由とは――? 何かと話題を巻き起こしがちな「不倫」について、「不倫学」を提唱する森川先生の考察が冴え渡ります。

前編はこちら。

「不倫」を定義する

もっとみる
今後とも光文社新書をよろしくお願いします!
26

「キモい中年男」小説と思われがちな田山花袋『蒲団』は、繊細な恋愛描写が胸を打つ傑作である #4_1

これまでの「純愛」から一転して、第4回と第5回では「不倫」がテーマの小説を採り上げます。まずは田山花袋の『蒲団』、次いで太宰治の『斜陽』です。前者は不倫したくてもできなかった中年の恋の話、後者は不倫しちゃった人の話です。

それでは、第4回として田山花袋の中編小説『蒲団』から。

『蒲団』を読んだ人が思い出すのは「あのキモいにおいフェチの小説」というところでしょうか。あるいは「不倫願望に悶々とする

もっとみる
ありがとうございます!
35

武者小路実篤『友情』は誰もが直面する「報われない恋」の救いとなるのか #3_2

武者小路実篤『友情』が長年読み継がれたのは、明治の時代にはまだ新鮮だった自由恋愛がしっかり描かれた小説だったからということが論じられた前回。後編では、その恋愛心理のなかでも、「報われない恋」の形態である「片思い」「叶わぬ恋」「失恋」をいかに巧みに段階的に描写しているかを明らかにします。現代にも通じる恋愛心理の普遍性に迫る後編をお楽しみください。

前編はこちら。

『友情』における恋愛の形態① 「

もっとみる
ありがとうございます!
27

武者小路実篤『友情』は恋するすべての人が読むべき最良の教科書だ #3_1

第3回として採り上げるのは、白樺派の中心人物の一人、武者小路実篤の『友情』です。 

『友情』は1919年10月から新聞社の連載として書き始められたものですが、1920年に完成し、一冊の本として出版されました。『こころ』が1914年でしたので、それから6年後の出版になります。年代的にはそれほど変わりませんが、恋愛の描写は実に奔放、自由主義的な理念を掲げる白樺派の代表作の1つと言えます。文体の美しさ

もっとみる
今後とも光文社新書をよろしくお願いします!
34

森鷗外『舞姫』は2つの今日的恋愛のテーマを先どりしていた小説である #2_2

森川友義教授が恋愛学の視点から名作に描かれた恋を読みとく好評連載。発表以来「クズ男」と罵倒され続けた豊太郎を新鮮な視点から擁護してみせた第2回の後編では、豊太郎の選択が妥当であった合理的な根拠と、『舞姫』に描かれた恋の今日的な意義について考察します。

前編はこちら。

費用対効果その① ベルリンに留まった場合

「ベルリンに留まる」場合の長所は以下の2つです。

1つめは、ドイツという自由な社会

もっとみる
アランちゃんと一緒に喜んでいます!
40