森川友義の恋愛学で読みとく「文豪の恋」

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記事

「同性愛」と「処女性」――『伊豆の踊子』を真に理解するにはこの2つのキーワードが必要だ #7_2

前回で詳しく分析したように、「恋愛小説」とは呼ぶにはあまりに特異な『伊豆の踊子』。しかしどうやら映画やドラマに見られるような、単純な青春の物語ではないようです。後編では、川端康成が作り出した作品世界に、さらに深く切り込む視点を提示します。

前編はこちら。

「異性愛」へのめざめなのか?

ここでぜひ知っておかなければならないのは、作者である川端の性的志向です。実は当時の川端は同性愛者でした。これ

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川端康成『伊豆の踊子』に、本当に「恋愛」が存在したのかを検証する #7_1

この連載ではここまで、文豪たちの数々の名作を読んできました。『こころ』から始まり『痴人の愛』まで、6つの小説を恋愛学の見地から批評してきたわけですが、そのどれもが恋愛という夜空に舞う豪快な打ち上げ花火のというべき作品ばかりでした。読みごたえがあり、圧倒される迫力がある。それだけに批評のしがいもありました。

ところが今回の『伊豆の踊子』、こちらはまったく異なります。圧倒されません。迫力もありません

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『痴人の愛』のナオミをやがて待ち受けるのは、夫にあっさり捨てられる運命である #6_2

「テストステロン」と「ドーパミン」の2つの化学物質が、いかに恋愛関係に大きく作用するかを指摘した前回。後編では、この視点をいよいよナオミと河合の関係に当てはめて考察していきます。従来的には、河合がナオミに支配されるマゾヒズムの文脈で読解されることが多かった『痴人の愛』ですが、はたして…? 文豪・谷崎潤一郎屈指の傑作が、小説としていったい何を描けているのかを明らかにします。

前編はこちら。

テス

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谷崎潤一郎『痴人の愛』を読みとく、マゾヒズムとはまったく異なる視点を提示する #6_1

『痴人の愛』は、谷崎潤一郎が男女の関係を「私小説」ふうに綴った長編小説です。この作品は男女の性格や行動を非常に細かく描写している点で他の小説とは一線を画していて、この観点に立てば近代文学の最高傑作のひとつと言えるでしょう。この連載でもいろいろな名作を見てきましたが、この『痴人の愛』の恋愛心理描写の緻密さは、夏目漱石の『こころ』に匹敵するレベルです。

『痴人の愛』は関東大震災の翌年の1924年から

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『斜陽』のかず子は、なぜ涙を流しながらも上原との道ならぬ恋に溺れたのか? #5_2

太宰治『斜陽』を、「浮気市場」=「不倫」をキーワードに読み直す視点を提示した前回。後編では、いよいよ具体的に作品中の人間関係に即して考察していきます。かず子はなぜ上原を愛してしまったのかーー。もはや「不倫」について考える文学作品として、『斜陽』は欠かせないテキストです。

前編はこちら。

上原の立場から不倫を考える

上原からみた不倫とかず子からみた不倫の2つがありますが、まず上原の心理からかず

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「浮気市場」の概念を正しく理解することが『斜陽』を読みとく鍵となる #5_1

不倫を考察する2作目として、太宰治『斜陽』を採り上げます。『蒲団』が1908年の作品であるのに対しこの本は1947年に出版されていますので、一挙に40年近く新しくなり、時代も大正から昭和になります。

最初に申し上げておかなくてはならないのは、『斜陽』は純粋な恋愛小説ではありません。テーマは、タイトルどおりわが国の上流階級の没落=斜陽です。その裏側には共産主義礼賛という思想もからんでいて、政治色を

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不倫をしたくてたまらなかった『蒲団』の時雄は、しかし意外と「いい夫」だった #4_2

ちょっぴりフェティッシュなイメージの一方で、繊細かつ緻密な恋愛描写が光る田山花袋の『蒲団』。後編では、この小説の2大テーマのひとつである「不倫」がどのように描かれているかを詳しく見ていきます。そして、不倫願望に悶々とする時雄が意外に「いい夫」である理由とは――? 何かと話題を巻き起こしがちな「不倫」について、「不倫学」を提唱する森川先生の考察が冴え渡ります。

前編はこちら。

「不倫」を定義する

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「キモい中年男」小説と思われがちな田山花袋『蒲団』は、繊細な恋愛描写が胸を打つ傑作である #4_1

これまでの「純愛」から一転して、第4回と第5回では「不倫」がテーマの小説を採り上げます。まずは田山花袋の『蒲団』、次いで太宰治の『斜陽』です。前者は不倫したくてもできなかった中年の恋の話、後者は不倫しちゃった人の話です。

それでは、第4回として田山花袋の中編小説『蒲団』から。

『蒲団』を読んだ人が思い出すのは「あのキモいにおいフェチの小説」というところでしょうか。あるいは「不倫願望に悶々とする

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白樺派のあの文豪が小説に書いた和紙屋さんで買物をしてみた|恋愛学で読みとく「文豪の恋」【番外編】

note担当の田頭です。

連載「恋愛学で読みとく『文豪の恋』」の第3回の写真をどうするか考えていたときのこと。近所の公園の撮影スポットやら撮影用小道具やらのネタがそろそろ尽きてきて、何かないかなーとあれこれ思いを巡らせていました。

あ、そういえば。

思い出しました。赤坂の豊川稲荷の御朱印帳が大正ロマンっぽくて可愛かった気がします。あれに何かヒントはないかな、『友情』の雰囲気には合うんじゃない

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武者小路実篤『友情』は誰もが直面する「報われない恋」の救いとなるのか #3_2

武者小路実篤『友情』が長年読み継がれたのは、明治の時代にはまだ新鮮だった自由恋愛がしっかり描かれた小説だったからということが論じられた前回。後編では、その恋愛心理のなかでも、「報われない恋」の形態である「片思い」「叶わぬ恋」「失恋」をいかに巧みに段階的に描写しているかを明らかにします。現代にも通じる恋愛心理の普遍性に迫る後編をお楽しみください。

前編はこちら。

『友情』における恋愛の形態① 「

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