タイの大人たちが超保守的である2つの理由「仏教」と「金」(第7回)
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タイの大人たちが超保守的である2つの理由「仏教」と「金」(第7回)

タイ在住20年のライター、高田胤臣がディープなタイ事情を綴る長期連載『「微笑みの国」タイの光と影』。
前回はタイ社会の若者の生き方を追いかけましたが、今回は逆にタイの大人たちを見てみます。タイを観光するとおおらかで開放的な大人たちと触れ合いますが、タイ社会を生きるタイの大人たちはとてつもなく保守的という現実があります。人は年を取るにつれて保守的になりがちですが、それにしてもその程度は想像以上。その背景にあるキーワードは「仏教」と「金」です。
これまでの連載はこちらから↓↓↓
第1回:微笑みに隠されたタイ人の本心
第2回:日本なんて子供レベルなタイの人間関係
第3回:格差が人間の価値を意味するタイ
第4回:タイ社会にとって外国人は「駒」でしかない
第5回:不況を気にしないタイ社会と困窮して犯罪に走るタイ人
第6回:ストレスだらけのタイの若者たち

タイを嫌いになる「3」のタイミング

ボクの場合は観光でタイを訪れていた時期、タイ人の寛容さを感じた。タイの優しさに触れてタイ好きとなり、移住を決意。暮らし始めてもなおタイのよさに日々感動を覚え、ますますタイを好きになっていった。

同じような人が多い一方で突然、タイを嫌いになって去る人も少なくない。個人的な見解では、3の数でタイを嫌になる波が来る。3週間、3ヶ月、3年。このあたりでタイの嫌なところが目につき、日本が恋しくなってくる人が多いのではないだろうか。いったいどんな理由でそうなるのか。

おそらくタイ人全般に共通するマイナス面が目につくからではないか。タイ人はいい意味でも悪い意味でも現実的。日本や韓国、欧米諸国と比べ、タイはかつて経済的に貧しい部分があった。富裕層は日本の金持ちと比較するととんでもない所得を日々得ている一方で、人口的に最も多い中流層以下は収入が少ない。タイ政府の社会保障整備が遅れていることもあり、一般市民は若いうちから自分と家族を守るために身を粉にして働かなければならない。

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デパートで高級外車が売られる。ハイパー富裕層以外が買うことはまず不可能だ。

そうして、なんでもかんでもがマネーに繋がっていく。それを目の当たりにすると、タイのおおらかでのんびりしている印象が変わり、急に夢から醒めた気分になる。そこにはどうも保守的な大人たちの姿が垣間見られる気がボクにはする。

電子マネーなど日本より進んだ分野も少なくないタイ

日本人とタイ人は似ている部分も多いが大きな違いは、日本人は自分たちを省みて悪い部分は直そうという考えがある一方、タイ人は基本的に振り返ることはないところだ。タイ人は自己肯定感が高いので、わざわざ他国と比較して反省するよりもずっと幸せに生きている。

タイ人はほかと比較しないので、商いでは他店で安く売っていても、うちはうち、と合わせることがない。これは働く環境としてはとても良好だ。

日本の家電量販店は大手の場合、ライバル店が安く売っていたらその値段に合わせてくれる。売値を下げても利益が出るマージンを取っているからで、しわ寄せはメーカーに来る。高性能商品を安く作ることを命題に日々努力をするのに、家電メーカーは利益が下がる。その分、従業員の賃金と部材コストを下げる。部材を買い叩かれたメーカーも給与に影響する。この流れは家電メーカーや部材メーカー社員の所得を減らし、長い目で見ると家電量販店も売上を下げる。要するに、みんなで首を絞め合って日本が貧しくなるのだ。

タイでは優れた商品は高く、悪いものは安い。安いものがほしいなら安い店で買えばいいじゃないか、という当たり前がタイ人の常識だ。高級レストラン従業員の言葉遣いは美しい。屋台は敬語も使えないようなひどさ。日本人が考えるサービス精神とかけ離れているが、売る側あるいは製造側も利益を多く取りたいなら高性能な商品を開発すればいいし、大衆のために商売をしたいならそれなりのものを提供するだけでいい。過剰なサービスが不要で、明確な方針を打ち出すだけ。働く側も楽だ。

ボクが初めてタイに来たときにすごいと思ったのは銀行ATMだ。バンコクだけでなく地方都市でも至るところにATMがある。初めてボクが来た1998年はまだ日本のキャッシュカードは国際対応していないころで、観光外国人がATMを使うのはクレジットカードのキャッシングくらい。それでも便利だったのは24時間使えること。いつでも現金が手に入るのは心強い。日本だと今も大都市でさえ年中無休のATMは少ない。タイの銀行窓口は2000年代に入ってから商業施設内の支店も増え、昔ながらの15時に閉まってしまうこともなくなった。

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至るところに両替所もあって、観光客には便利な国。

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日本のディスカウントストアはタイの銀行と提携し、日本でも利用できるようになった。

さらに、タイ政府が2015年に打ち出した長期的経済社会発展のビジョン『タイランド4.0』が着実に進んでいて、電子マネーの支払いジャンルも幅広くなった。日本で電子マネーというとサービス業者アプリに登録し課金して使う一方、タイは銀行直営アプリが主流で、そのまま口座残高に紐づけて支払いをすることができる。今や屋台でさえアプリを使って支払うことも可能になっている。

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画像右下の招き猫の絵に描かれたQRコードを利用して直接銀行口座での決済ができる。

異様なまでに保守的な大人たち

このように決済方法が多様化し、現金だけでなく電子マネーも幅広く利用されている。タイ政府が主導するビジョンにおいてスマートフォンを持っていない人は無視状態で、嫌でもスマホにせざるを得ないような状況でもある。

日本では鉄道関連のICカードを利用する人が多いかと思う。タイは電車といえばバンコクの高架電車のBTSと地下鉄のMRTくらい。BTSのICカードも徐々に便利になってきていて、メッセンジャーアプリ『LINE』の電子マネーと連携させることができたり、提携飲食店や小売店でカードが利用できるようになった。

しかし、肝心なところで不便さもある。BTSとMRTでICカードが違い、共通利用できない。日本の高速や有料道路で使うETCに似たシステムも、管理会社が違うと別のシステムになり共用ではない。飲食店との提携よりも業界内の統合の方が簡単な気がするが、そういった横の繋がりはないようだ。

ここにタイ人らしさが集約されている。繫がりがないから繋がろうとすることがない。他社が利益を得たり、自社の管理が複雑化するならやらない。新しいことに踏み出さないという保守的な一面が強い。前項で家電メーカーを例にしたが、そこでは方針が打ち出しやすく、商売の環境は優れているとした。莫大な利益が出るのなら動くが、そうでないならやらないのもひとつの方針で、それに忠実でいるというのもまたタイ人なのである。

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銀行の力は特に強く、銀行員のミスで損害が出ても顧客には強気で対応する。

どの国においても、人間、年をとると守りに入りがちではある。タイの年寄りは思っている以上に保守的で、新しいものに挑戦しない。たとえば、タイ人は食に関しては保守的だ。今こそ和食ブームだがそれも2010年ごろからの話で、以前は外食でも家でもタイ人はタイ料理を食べていた。日本の高齢者も食べ慣れたものを好むが、新しい料理にとりあえず挑戦してみる人も少なくない。食べてみて好きか嫌いか判断するのが日本人なら、タイ人高齢者は耳慣れない名称を聞くだけで「嫌い」と判断し、食べることはない。

ボクの妻はタイ人だ。結婚前に何人か夜の女性の故郷に行ったことがある。売春をしている女性の実家だ。もうかれこれ20年くらい前の話。当時はタイ語ができる外国人が少なく、夜の女性からいろいろな質問や相談を受けたり、仲良くなる機会は多かった。それで帰省に誘われて興味本位で見に行くのだが、あちらの親は彼氏を連れてきたと勘違いをするわけだ。歓待を受けるし村を散歩してみると、あれはアメリカ御殿だとかイギリス御殿だと聞かされる。

これもまたタイの保守的な面で、地方のタイ人はバンコクに出稼ぎに行く際、新たに自分で職を探すより、人伝に仕事を探すことが多かった。当時はネットが発達していなかったのもあるけれど。いずれにしても、誰かがタクシーで稼いだと聞けばタクシー運転手になり、工場で働いたと聞けば工場に出向く。売春で稼いだ話を聞けばそこに行くので、村に出稼ぎ同業者が多くなる。極端な例では、東北地方のある県には農閑期に物乞いをする人ばかりの村だってある。

おそらくボクが行った村は夜の蝶が多かった。アメリカ人と店で出会い結婚し家を建ててもらったといった話がゴロゴロ。ボクの妻の実家がある村には外国人御殿はない。だからか、初めて行ったときは何歩か距離を置かれていたし、いざ結婚の話になったときに向こうの親族はかなり渋った。夜の女性の実家での歓待は、家を建ててもらえる、車を買ってもらえるという打算が家族や親族にあったのだろう。

敬虔な仏教徒が多いことも一因

保守的な大人がタイに多い理由は、おそらく敬虔な仏教徒が多いから、という事情もあると思う。タイは約94%が仏教徒。5%がイスラム教で、残りはキリスト教やほかの宗教が信仰されている。仏教も日本と違い上座部仏教だ。タイに来れば一目瞭然だが、タイ人の生活と仏教は密接。なにせ小学校1年生から仏教神話などに関する授業があって、身についているかどうかは別として、一般タイ人の仏教の知識量は日本人とはまったく違う。

あるとき隣国ラオスの首都ビエンチャンにあるタイ大使館に入った。ちょうどビザ発給の時間帯だったが、なぜか一般タイ人が何人かいた。50代から60代くらいの男女だ。ラオスの大使館には観光ビザを何度も取得して長期滞在をする、いわゆる不良外国人が多く来る。その中にいたロシア人数人がビールを片手に受け取りを待っていた。それを見たタイ人一行の女性が怒り出した。

「大使館はタイの領土と同じだ。ここでビールを飲むのは許せない!」

そう大使館員に抗議していた。ボクとしてはわかる気もするし、そこまで目くじらを立てることでしょうか、とも思う。でも、これがタイの保守的な人の特徴とも感じた。タイの寺院内では露出の多い服装やアルコールの摂取が禁じられている。その延長線上で公共施設もアルコール販売や飲酒が規制されているので、咄嗟に受け入れがたい感情が噴出したのかと思う。

何年か前、タイのオーディション番組のある回で、タイ人の若い女性が上半身裸になって胸や腹に絵の具を塗り、それでキャンパスに絵を描くパフォーマンスを行った。タイはメディアなどで肌の露出が多いものは法律で禁止され、ましてや女性の裸は映せない。しかし、絵の具が最初から塗られていたのでそのまま放送された。そのときの審査員に有名女優がいたのだが、案の定怒り出した。

「これはタイの芸術ではない。裸で絵を描くことはタイの文化ではない」

そのようなことを言い、会場から立ち去った。わからなくもないが、大昔のタイでは女性も上半身を出している時代があったようだし、現実的に今もナイトエンターテインメントが多い。日本人のように遊ぶ金欲しさではなく、貧困と低学歴が原因で、親・兄弟の大人数を養うには売春しか方法がない女性もタイにはいる。これは大きな社会問題だ。そんな現実もあるが、その女優は自分の物差しがまるでタイ人の代表意見かのように叫んだ。

まず新しいものに強い拒否反応を見せるのがタイの保守的な人の特徴だ。大使館のビールの件でも急に怒り出したし、許せないものに対しては我慢ならないようだ。

90年代後半から2000年代初頭、バンコクは日本人バックパッカーから絶大な人気を得ていた。このころのパッカーはみな一様にぼろぼろの服、あるいはオリエンタルチックな服装をしていた。おそらく某テレビ番組のユーラシア大陸横断のイメージだったのだろう。

実はこの服装がタイ人からすこぶる不評だった。貧乏ったらしいし、TPOをわきまえていないと言われた。タイはわりと英国の影響も強い。警察や鉄道、それから交通規則など、タイは英国をモデルにした社会システムが少なくない。それもあって、汚い格好はまともな人のすることではないというのが多くのタイ人の考え方だ。自宅では上半身裸でも、出かけるときはちゃんとした服を着る。それがタイの常識だ。というか、普通、どこの国もそうだけれど……。

だからこそ、オーディション審査員の女優は裸のパフォーマンスが許容できなかった。会場内では男性だけでなく女性からも喝采だったが、女優ひとりだけが怒った。このように、保守的な人は自分が思っているタイの正義が穢されると拒否反応が出てしまう。その正義が歴史的に、文化的に、そしてタイの将来的に正解かどうかにかかわらず、とにかく否定する。

新しいものを許容する姿勢がありつつ立場を脅かすものは排除する

観光客がおおらかなタイ人とばかり出会うのは、ほとんどが観光業者か外国人相手の商売をしているタイ人だからだ。多くの外貨を落としていってもらうためにおべっかを使うのは当然。しかも、彼らは日々外国人と接しているので、一般タイ人とは違う面もある。外国人の考え方や文化に慣れ親しんでいることで、タイのおおらかさを強調したり、悪い面を外国人と一緒に嘆くことができる。

しかし、国際的にオープンになろうというタイ人は現実的に少なく見える。もちろんすべてのタイ人が保守的ではない。保守的なタイ人が多いように見えるのは、富裕層などの権力者に特に保守派が多いからではないか。タイ政府はアルコールは害悪と喧伝し、販売や宣伝に規制をかける。それがすんなり受け入れられているのは、寺院などでアルコール類が禁じられているので理解しやすいというほかに、富裕層などの保守派が強く後押ししているからだ。

富裕層も飲酒はするし、ビール会社の経営一族は莫大な資産を手にしている。富裕層同士がケンカや商売の邪魔をするとは考えにくいので、反対はしつつも、ビール会社経営者たちにはなにか別の恩恵があるように仕組まれている気がする。要するに、年齢的に守りに入っている保守層と違い、経済的に豊かな部類に入る人々の保守派はタイの文化や習慣を守っているふりをして、一番守りたいのは自分たちの利益なのだ。2006年から続く政情不安も、結局は自分の利益を大きくしようとしたタクシン元首相に対し、既得権益を奪われるかもしれないと恐れた保守派たちが動き出したに過ぎない。

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保守層は所得レベルが高いほど厄介なのがタイ。

10年近く着地点のない争いをしていたタイを正す第3勢力と最初は見られていた今の軍事政権も、おいしい蜜を吸いたいという本性が表れてきた。先の『タイランド4.0』を掲げ、日本よりも早くIT技術を駆使したシステムを広めているのもまた同じタイ政府ではある。新しいものを受け入れるが、かといって政府の立場を脅かそうとする勢力が選挙で現れたときはすぐさまいろいろな理由をつけて潰した。保守派がタクシン派にしたこととなんら変わらず、タイの政情不安はプレイヤーが変わるものの、ゲームそのものは同じ方向に進んでいる。なぜなら、みんなが追いかけているボールは「金」だからだ。

文化的な「昔ながら」を強く押し出してくる保守層。政治においてタクシン派以外は保守的な立場。共通しているのは、声を上げるタイプに金と権力を持っている大人が多いこと。だとすると、日本もそうだが、タイも若者はまだまだ元気がない。2019年ごろから若い活動家を中心にした反政府運動が広まってきているが、まだタイ政府をやっつけるほどの勢力ではない。なにも変わりたくない保守的な人たちが親世代で、子どものころから親に逆らわないように育てられた若い人はなかなか立ち向かえていないのが現実である。
できたばかりのスワナプーム国際空港やバンコクの主要道路を占拠して社会を混乱させたり、保守派なのにやることはムチャクチャ。子は親を見て育つというが、若者の先に立つ大人がこうでは、タイもしばらくは安定しないのかと思えてくる。

高田さんプロフィール

書き手:高田胤臣(たかだたねおみ)
1977年5月24日生まれ。2002年からタイ在住。合計滞在年数は18年超。妻はタイ人。主な著書に『バンコク 裏の歩き方』(皿井タレー氏との共著)『東南アジア 裏の歩き方』『タイ 裏の歩き方』『ベトナム 裏の歩き方』(以上彩図社)、『バンコクアソビ』(イーストプレス)、『亜細亜熱帯怪談』(晶文社)。「ハーバービジネスオンライン」「ダイアモンド・オンライン」などでも執筆中。渋谷のタイ料理店でバイト経験があり、タイ料理も少し詳しい。ガパオライスが日本で人気だが、ガパオのチャーハン版「ガパオ・クルックカーウ」をいろいろなところで薦めている。

この連載の概要についてはこちらをご覧ください↓↓↓


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