ターゲットを絞るのはNG!良い口コミを連鎖・拡散させる「受容者」の探し方
前回の記事より全6回にわたり、『伝え方は「順番」がすべて』(小沼竜太・著)の本文を抜粋してご紹介します!本書は「Fate/Grand Order」や「ペルソナ」シリーズなど人気作のプロモーションに携わる〝ゲームの宣伝屋〟が「伝え方」の極意を明かした一冊。※詳細はこちらの記事を…。
今回は「情報を拡散するには誰に伝えればいいの?」というお話です。ネットが普及した今、「ターゲットという概念で伝える相手を考える・選ぶということが、もはや不可能」だと著者は説きます。…じ、じゃあ、誰に伝えればいいんですか!?
「受容者」という概念
筆者が提案したいのは、「受容者」という概念だ。需要ではなく、受容である。
受容者とは、「発信する情報に興味を持ち、好意的に受け容れ、拡散してくれる人」のことだ。
できるだけ情報の拡散を最大化するために最初に話しかけるべき相手が受容者である。
では受容者とは一体なんなのか。この概念を理解していただくには、筆者がそこに至った経緯を知ってもらうのが早く、次の3つの視点からゲーム業界のこれまでをまとめてみたい。
視点① ゲーム業界におけるレッドオーシャン化の仕組み
ゲーム市場は、テクノロジーの更新の度に新たなブルーオーシャンが誕生し、時間経過と共にレッドオーシャン化していくサイクルを45年間繰り返してきたのだが、差別化を追い求めていくあまり、後発であればあるほど細分化された嗜好に合わせた(カスタマイズされた)ゲームの開発がされるようになっていった。
レッドオーシャンが進めば進むほど嗜好と商品は細分化される。しかし消費者の態度は変わらない。「興味ない・知らない」か「高くても買う」かのどちらか。0か1か、なのである。
次第にニッチなニーズに向けた商品になっていき、結果として多数のユーザーから無視されるリスクが高まっていく。
視点② 細分化していく嗜好性と既存メディアのサイズのアンマッチ
ユーザーに商品の情報を届けるには、いつの時代も「メディア」が必要とされるが、インターネットがなかった・未発達だった時代においては、メディアの数は限られていた。ゆえに細分化・先鋭化していく嗜好性と、メディアのサイズとのアンマッチがそこかしこで発生し、「プロモーションコストの増大に対して、売上がついていかない」という状況が起こりがちであった。
たとえるなら、地域の情報くらいに細分化・先鋭化された商品の情報を、莫大なコストをかけテレビCMを使って告知しなければいけない、というアンマッチが起こっていたということだ(非常に極端な例であるが)。
なお、これはゲームだけに限った話でもない。一つのカテゴリの祖となるような商品が出た後で、後続商品の嗜好性の細分化・先鋭化が発生する。そして、メディアサイズとのアンマッチが発生する。最終的には、消費者のボリュームとのアンマッチを起こし、商業的な失敗に至る。
視点③インターネットの普及によって発生した変化
インターネット以前は、人と人とのつながりは、物理的な距離の制約を受けていた。地元・学校・会社といった、同じ土地・同じ集団に属すことが、つながりを作るほぼ唯一の手段であった。
結果として、ユーザー・コミュニケーションを行うためのメディアは限られていた。新聞・雑誌・TV・ラジオといったいわゆるマスメディアが唯一物理的な距離を突破するための手段で、マスメディアの相対的な重要度が高かったのはこのためである。
それが1995年の「Windows95」発売を契機にインターネットが爆発的に普及し、それ以降、インターネットを介した人と人とのコミュニケーションが発生するようになった。
これまで、部活や同好会、雑誌や同人誌といった物理的なメディアに依存していた趣味・嗜好でつながった人たちの塊が、自然発生的に誕生するようになったのである。これが、インターネット普及以前と以後で発生した、最も大きな違いである。
「トライブ」という概念
さて、やっと「受容者」の説明に近づいてきた(もう少し辛抱していただきたい)。
同じ趣味・嗜好でつながった人たちの塊を、マーケティングの言葉で「トライブ」(tribe /部族)と呼ぶ。トライブの誕生については、インターネットの普及と切り離して論じることは難しい。インターネットによって、人々は、物理的な場所・距離を超えてコミュニケーションをとることができるようになった結果として、同じ趣味・嗜好を持つ人々がつながり合い、影響を及ぼし合うようになっていったのだ。
トライブという概念で人の塊を捉えるにあたっては、以下のことを念頭に置く必要がある。
・一人の人間は、複数のトライブに所属することがある
・複数のトライブに所属している人間をハブとして、複数のトライブは連結する
・連結したトライブのことをトライブスと呼ぶ
このトライブスの発生により、「口コミ」の発生と伝播がより強力になった。情報を発信する側にとっても、トライブとトライブのつながり、トライブスの構造という視点を持つことで「いかに情報を拡散させていくか」というところがイメージできるのではないだろうか。
マスメディアに頼り切ることはできない。前述したとおり、メディアサイズとユーザーサイズのアンマッチが原因だ。結局のところ、「口コミ」に乗せてもらえるかが、ビジネス上の成否を大いに分けることとなる。
「誰」を念頭に置いて、メッセージを設計するか。「誰」に伝えて、どういう形で情報が伝播していくのか。「トライブ」という視点を持つことは、新たな「知覚」を備えることにつながる。
受容者はどこにいる?
ようやく本題。受容者は誰か。どうやって定義するのか。
まず、重なり合いながら拡がるトライブスをイメージする。その中でどのポイントに情報を届ければ連鎖がつながるか。最大の伝播が発生するか。そういった視点を持ってほしい。
連鎖するトライブスにおける発火点であり、連なっていく導火線を最大化する点。それが、受容者である。
その受容者こそが、最初にコミュニケーションすべき相手だ。
連鎖を拡げるには、どこを発火点にするのがよいか。どこから始めれば、最大化できるか、という視点で、受容者を探し出そう。
どうやって探すのか?
では具体的に、どのようにして受容者を見つければよいのか? そして、彼らへの理解をどのように深めていけばいいのだろうか?
自分自身が受容者である場合は、話が早い。自分自身が属しているトライブを念頭に置けばよいからだ。
しかし、人は年をとっていくものだし、生活は変わり続けるものだ。リアルな受容者との乖離は必ず起こっていく。筆者は自分が30歳を超えたあたりから、自分自身の感覚をあまり信用しないようにしている。
受容者を知るには、一般的には、ユーザー調査が有効である。読者の中にはユーザー調査を実際に行ったことがある方もいるだろう。
本書はユーザー・コミュニケーションをプランニングする上での視点を提供することを念頭に置いているので、細かい技法について述べることはしない。しかし、ユーザー調査を行う上での視点は書いておきたいと思う。ゲームユーザーを念頭に置いたものにはなるが、他業界・業種においても、参考にしてもらえるだろう。
限られたコストをどこに割いているのか?
ユーザーを理解する上で筆者が重視するのは彼らの生活である。具体的には、どんなものに可処分所得や可処分時間を割いているか、である。
彼らの可処分所得、可処分時間は限られている。限られたコストをどこに割くか。その対象は必ずしもゲームに限った話ではないはずだ。何にお金を払い、何に時間を費やすのか。それを丹念に調べていくことで、トライブスの連なりもイメージしやすくなる。
筆者の経営する会社リュウズオフィスでは、コンサルティング契約をしているクライアントに対しては必ずこれを把握するよう勧めている。実際にユーザー調査を行うことも多い。同一ブランドで、5~10年と継続的に顧客調査を続けていくと、見えてくるものは多い。
顧客の生活は経年で確実に変化していくし、何より技術の変化による生活の変化が、ゲーム消費に与える影響は極めて大きい。
受容者=新規ユーザーだけではない
「ターゲットは誰なのか」から発想すると見落としがちだが、ユーザー・コミュニケーションの相手には購入者も含まれる。受容者=新規ユーザーだけではないのだと念押ししておきたい。
そもそも、ユーザーとコミュニケーションを企てる際、伝える相手を絞り込むことは不可能な時代だ。商品にまつわるありとあらゆる情報が、望むとも望まずとも、すでに商品を購入した人に届いてしまう。
誰もがインターネットを通して情報に触れられる時代なのだから、購入者もコミュニケーションの対象と考えるべきだ。
『伝え方は「順番」がすべて』より一部抜粋・再編集しました。次回は著者が実際に行っている「現代で唯一ほぼ確実な情報の伝え方」ついて解説します。お楽しみに!
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