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エンタメ小説家の失敗学 by平山瑞穂

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本連載は小説家の平山瑞穂さんが、自らの身に起こったことを赤裸々に書き綴ったものです。 平山さんは、2004年に『ラス・マンチャス通信』で第16回日本ファンタジーノベル大賞を受賞… もっと読む
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2022年10月の記事一覧

“共感”というクセモノを侮ってはならない――エンタメ小説家の失敗学36 by平山瑞穂

“共感”というクセモノを侮ってはならない――エンタメ小説家の失敗学36 by平山瑞穂

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第7章 “共感”というクセモノを侮ってはならない Ⅰ僕が読み手として小説に求めていること

 読者としての僕が、小説に求めているもの、小説を読む際に重きを置いているものは何か。その問いに、ひとことで答えるのはむずかしい。

 心にズシリと響いてくるものがあるかどうか。物語として、僕にとって美しいと思えるたたずまいを備えているかどうか。テーマとその描

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期待されたのは『ラッシュライフ』型の作品――エンタメ小説家の失敗学35 by平山瑞穂

期待されたのは『ラッシュライフ』型の作品――エンタメ小説家の失敗学35 by平山瑞穂

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第6章 オチのない物語にしてはならない Ⅴ映画との比較だけでなく……

 自作を紹介するたびにこうして同じ文章をくりかえすのはせつないものがあるのだが、この本(『バタフライ』。文庫化の際に『午前四時の殺意』に改題)もまた、売れなかった。

 ネット上の感想では、「展開が地味で期待外れだった」といった意味合いのものが目立った。おそらくそうした人々の一

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タイトルについての不用意な失策――エンタメ小説家の失敗学34 by平山瑞穂

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第6章 オチのない物語にしてはならない Ⅳ同じ失敗

 もうひとつ、似たような意味合いで「オチの欠如」とみなされたものが問題になったケースを挙げておこう。二〇一五年一二月に幻冬舎から書き下ろしとして刊行された、二三作目の小説『バタフライ』(二〇一八年一〇月に文庫化される際、『午前四時の殺意』に改題)だ。作家デビューして一〇年以上を経てなお、懲りずに

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「伏線回収」という問題――エンタメ小説家の失敗学33 by平山瑞穂

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第6章 オチのない物語にしてはならない Ⅲ「結局、何が言いたいのか」

 僕はおおよそそのような信念(「美学」と言い換えてもいい)のもとに、この作品(『桃の向こう』)をこのような形に仕上げ、自分としてはそれで何ひとつ疑問を抱いていなかったのだが、おおかたの一般読者の反応は、僕自身の狙いとは乖離したところにあった。

「煌子は結局、どうなったのか」「

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