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発達障害、就労支援の最前線

 光文社新書編集部の三宅です。『おとなの発達障害 診断・治療・支援の最前線』の本文公開シリーズ、続いては第7章冒頭部分です。本章のざっくりとした内容は次のようになります。

 発達障害者の就労支援は、2005年の発達障害者支援法施行によってスタートし、各地に公的支援機関ができ、それらを軸に支援方法が伝達されて、「自己理解・職業訓練・就職活動支援」という就労支援の王道が確立しました。その流れの中で、存在感が大きくなってきたのが、当社を含む就労移行支援事業所です。
 本章では、「診断名を重視しない」「混乱した情報を整理する」など、支援に当たっての当社の基本的スタンスや、スタッフ教育で重視することなどをご紹介するとともに、「洋服を試着するように仕事を試着する」といった、当社の就労支援プログラムの特徴についてもご紹介します。さらに、障害者雇用の大きな流れや今後の動向、最新の取り組みなどについてもご紹介します。

※「はじめに」、目次、著者紹介はこちらでご覧いただけます。

第1章はこちら。第2章はこちら。第3章はこちら。第4章はこちら。第5章はこちら。第6章はこちら

第7章 民間における就労支援の現状と今後の予想

鈴木慶太 株式会社Kaien代表取締役

1 当社のサービスの特徴

当社が提供する三つのサービス

 当社では、「TEENS」「ガクプロ」「@Kaien(カイエン)」という三つのサービスを行っています。

 TEENSは、発達障害児向けの〝キッザニア〟と言っているのですが、「放課後等デイサービス」で仕事体験などをするものです。「放課後等デイサービス」とは、児童福祉法に基づく福祉サービスで、小学校・中学校・高校に通う障害のある児童に、放課後や休日に、生活能力の向上のために必要な訓練などを行うものです。

 したがって、TEENSは小中高生が対象です。利用者の自己負担額は世帯の所得によって異なります。首都圏の8拠点で行っていて、今は600人ぐらいが利用しています。これまでに利用した人は1000人ぐらいです。

 ガクプロは大学生・院生や専門学校生が対象で、大阪を含めて4拠点で行っています。内容は、職業訓練、インターン支援、面接練習、書類作成支援、就活準備短期合宿・講座など。今は220~230人が登録していて、過去800人ぐらいが利用しました。これは福祉サービスではありませんので、1万~2万円の月謝をいただいて、内定塾あるいはサークルのような形で運営しています。

 Kaienは大人が対象の「就労移行支援事業」です。就労移行支援事業とは、障害者総合支援法に基づく福祉サービスで、就労に必要な能力の訓練や、求職活動に関する支援などを行います。利用者の自己負担額は世帯の所得によって異なり、本人と親の世帯が別であれば、本人の世帯所得によります。

 これは大阪を含めて8拠点で行っています。毎日200人弱が通っていて、過去1100人ぐらいが就職しました。

 発達障害者の就労支援は、2005年4月の発達障害者支援法の施行がスタートです。それによって、各地に発達障害者支援センターなどの公的支援機関ができ、それらを軸に支援方法が伝達されて、「自己理解・職業訓練・就職活動支援」という就労支援の王道が確立したと言っていいでしょう。

 その流れの中で存在感が大きくなってきたのが、当社を含む「就労移行支援事業所」です。18(平成30)年の厚生労働省「社会福祉施設等調査」によれば、就労移行支援事業所は全国で3503か所(前年から0・9%増)、利用者数は3万5442人となっています。従来は特別支援学校経由の就職活動が主流でしたが、大人の発達障害者が増えるにしたがって、就労移行支援事業所を利用することが一般的になってきたのです。

診断名を重視しない

 就労支援に当たって、当社では診断名を重視しません。医師によって診断の基準や範囲が異なることが多いと感じるからです。また、当社のスタッフの多くは福祉・医療の経験者ではないため、あまり細かくASD(自閉症スペクトラム障害)やADHD(注意欠如・多動性障害)のことを言ってもわからない、ということもあります。

 サービス利用者の中には、自分のことをグレーゾーンだと言う人もいますが、それもあまり厳密に区別していません。「グレーゾーンなんです」と言われたときは、「あなたが困っていて、制度を使いたいのであれば、発達障害だという診断を選択して、制度を使った方がいいのではないですか」と言うようにしています。

 就労移行支援サービスを利用するには、医師の意見書・診断書を市区町村の障害者福祉担当窓口に提出して、「障害福祉サービス受給者証」を取得する必要があって、申請から取得までに1か月程度かかります。

 就労支援に当たってはアセスメント、すなわち当人に関する情報収集を行いますが、その際も発達障害に関することだけを聞くわけではありません。まず親御さんのことを聞き、IQ(知能指数)や発達障害の特性について聞き、そのあとでコンプレックスやトラウマ、二次障害などを聞き、さらに過去の経験でうまく適応できたことや、うまく自分を発揮できたことなどを聞きます。

 私としては、どのように支援するかを決めるに当たっては、親の影響がすごく大きいと思っています。親自身に発達障害の傾向があるケースも何分の1かはありますし、過保護だったりするケースもあります。そのためスタッフにも、どのような親であるかをしっかり聞くようにさせています。本人は親から生まれて来たわけで、生まれたときにIQや発達障害の特性などはある程度決まるはずですから、そのような変わりづらい部分をよく見るということです。

 その上で、あとから付け加わった二次障害やトラウマがどうなのか、環境に応じた部分がどうなのかなどを見ます。たとえば、ずっと学校に適応できなかったけれど、高校のときのフリースクールだけは適応できてちゃんと通えたのであれば、そのときの何がよかったのかを考える。そのことから、どのような就職先があるかを考えるのです。

スタッフ教育で重視すること

 当社は、スタッフの3分の2ぐらいが、福祉・医療系の経験者ではありません。私自身も、未だになんの資格も持たずに支援をしていますが、このような素人だからこそのノウハウがあります。

 スタッフには、発達障害の人は心の病ではなく、情報が混乱している状態であると伝えています。したがって私たちスタッフは、その人の心の中を見ようとするのではなく、その人にとってどの情報が混乱しているかを考える。そして本人と一緒に、混乱した情報を整理していくのです。

 その方法として、情報を「表出」「制御」「感覚」「認知」の四つに分けて考えることにしています。表出と認知に混乱があるのがASD的な人で、感覚と制御に混乱があるのがADHD的な人だと思いますが、あまり細かくするとスタッフもわかりませんから、これぐらいざっくりした感じで捉えるようにしています。

環境を整えるための基本

 どの情報が混乱しているか把握できたら、その対策として「構造化」「視覚化」「単純化」「反復化」「粒度細分化」という五つのキーワードに沿って、情報を圧縮します。情報を圧縮するとは、雑多な情報を本人にわかるように整理することです。この人には、どのような構造化が必要なのか、どのような視覚化が必要なのか、反復化した方がいいのか、といった形で落とし込んでいくのです。

 たとえば構造化では、部屋を仕事のスペースとくつろぐスペースに仕切って、どこで何をするかを明確にすることで、仕事ができるようになる人がいます。これを「物理的構造化」と呼んでいます。「時間の構造化」が有効な人もいて、時間を区切って「今何をするか」「次に何をするか」を明確にすることで、うまくいく人もいます。「活動の構造化」と言って、仕事の分量を区切って、どれだけやれば終わりなのかを明確にすることで、仕事ができるようになる人もいます。また、工程を区切って、どのような手順で行えばいいかを明確にすることで、うまくいく人もいます。これを「方法の構造化」と呼んでいます。

 就労先の企業にも、たとえば「この箱がいっぱいになったら終わり」というように、その人がうまく自分の能力を発揮できるような仕組みや環境を整えてもらうようにしています。その際に私は、「発達障害者の場合、心を理解するというよりも、情報を整理することが大事です。情報を整理するのは、それほど難しいことではありません。なぜならば、それはみなさんが仕事としてずっとやってきていることだからです」と言うようにしています。

(続く)


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