見出し画像

高級ハンバーガーで飲む|パリッコの「つつまし酒」#166

地元で人気のハンバーガー

 人生で1000回くらいは「マクドナルド」のハンバーガーを食べたことがあるほどにハンバーガー好きの僕ですから、自慢じゃないですが、ひとつ1000円の大台を超えるような専門店の高級ハンバーガーというのも、人生で3回くらいは食べたことがあります。ああいうの、マックのようないわゆるファーストフードとはベクトルがぜんぜん違うというか、完全なるメインディッシュなんですよね。うまいよなぁ、いいハンバーガーって。
 僕の地元石神井公園のお隣、大泉学園にも、名店と噂に高いハンバーガー屋さんがあって、名を「ブッチャーズテーブル」と言います。僕は行ったことがないのですが、妻が一度友達と行って、とても美味しかったと言っていました。事実、駅からはかなり外れた、歩くと15分くらいはかかりそうな場所にあるんですが、いつ前を通っても大にぎわいなんですよね。
 ところで昨年末、大好きだった地元のうどん屋「うたた寝」が、突然閉店してしまいました。その跡地がしばらく前から改装を始め、もとの素朴な佇まいとは正反対の、なんだか洋風の小洒落た外観になっていくんです。と同時に、地元の飲み友達からこんな噂を聞くようになりました。「あそこ、大泉のブッチャーズの支店になるらしいぞ」と。
 なるほど。あの人気ならばっちり信憑性がある。うたた寝がなくなってしまった心の傷はまだ癒えていないけれども、それはそれとして、あんなに行きやすい場所に、気になっていたハンバーガー屋さんができるのはわくわくすることだ。
 当然僕は、オープン直後に「ブッチャーズテーブル 石神井公園」を訪れてみたのでした。

「ブッチャーズテーブル 石神井公園」

肉とチーズが!?

 その日は仕事が休みだった妻とふたりでランチに。僕は初めてだったこともあり、いちばんベーシックな「ブッチャーズバーガー」を。妻は「アボカドチーズバーガー」を。それから、嬉しいことにお酒のメニューも充実していて、「ランチビール」なんてのもあるじゃないですか! それ、も〜らい!

「ランチビール(ヒューガルデンホワイト樽生)」(400円)

 すっきりとした味わいながらも華やかな香りと旨味のあるヒューガルデンの生。久しぶりに飲んだけどやっぱりうまいな〜。それにしても、一部の隙もなくおしゃれな店内だ。ここに、本当にあのうたた寝があったんだよな? 小上がりの座敷席で、セルフサービスのおでんをつまみに瓶ビールを飲みながら、「かしわ天ぶっかけうどん」を待っていた、あの……。
 などと感傷に浸っていると、いよいよハンバーガーが到着。

「ブッチャーズバーガー」(1300円)

 おおっ、人生で4回目くらいにご対面した高級ハンバーガー。やっぱりすごい迫力というか、もはやオーラが漂っている……。構成は上から、バンズ/バター/マヨネーズ/国産牛もも肉パティ/グリルドオニオン/トマト/レタス/バター/タルタルソース/バンズ、となっているようです。
 こいつを専用の包み紙に挟んで、最大限の大口を開けて、えいやっとかぶりつく。瞬間、肉やトマトからブシューっとあふれだす、ジューシーなエキスたち。表面こんがり、なかはふっくら、ほんのりと甘いバンズもうまし。そして、いろんなソースの味はもちろんするけれど、やっぱり中央にどーんといるのは、焼きたてのハンバーグの美味しさ。ごつごつっとした粗びき肉にきちんと和牛の味の主張があって、それと焼き目の香ばしさが織りなすハーモニー。
 なんてうまい料理だこれ! お店の人気の理由、今はっきりと理解した!

ポテト&ケチャップがまたいい

 つけあわせの、軽〜く揚がったポテトがまた美味しく、特製なのか瓶入りのケチャップには刻んだ玉ねぎなども入っているようです。つまみには事欠かないな。小さめサイズのランチビールじゃ、ほんのり物足りないくらいだ。でもあ〜、大満足! ごちそうさまでした!
 なんて感じで食べ終わり、店をあとにしたわけなんですけれども、帰り道に妻が、何気なくこんなことを言ったんですよ。「美味しかったね〜。特に肉とチーズの組み合わせが良かった!」。
 えー! そ、それは悔しい。今回、僕はオーソドックスなバーガーを味わうという体験をきっちりとこなした。けれども、せっかくのいいハンバーガー、確かに、自分好みの具材が加わればもっともっと満足度が高まりそうだ。迷った末、まだ仕事もあるからとランチビールをおかわりしなかった選択肢も、あれは正しかったんだろうか?
 どう考えたってこれは、もう一回行くしかないでしょう。

むしろ高級ハンバーガーではなく……

 というわけですぐに、こんどはひとりで再訪。人生における“高級バーガー密度”がこの一週間だけやけに高いけれども、いたしかたなし。

あらためてメニューを見る

 さて、今日はじっくりしっかりとメニューを検討していきましょう。前回いちばん羨ましかったのはチーズの存在。となればベースは、チェダーチーズとゴーダチーズが1枚ずつ加わった「グリルドチーズバーガー」か。トッピングも14種類もあるのか〜。あ、「目玉焼き」欲しい! よし、その組み合わせにしよう。それからお酒。通常メニューから……「角ハイボール」だな。お願いしま〜す!

「角ハイボール」(550円)

 よ〜しよしよし。角ハイボールのずっしりとした存在感やよし。またこの厚手のグラスの飲み口がいいし、輪切りのレモンの爽やかさもよし。あらためて、細部にまでこだわりを感じるお店ですね〜。

ただものじゃない美味しさ

 と、ちびちびハイボールを飲みつつ待っていると、ついにやってきましたよ。大本命のマイカスタムバーガーが。

「グリルドチーズバーガー」(1500円)+「目玉焼き」(100円)

 す、すげーっ! 前回を凌駕するこの大迫力! とろけるチーズ! はみ出すエッグ! 高鳴るハート!

あーもう、これは……

 前回ですでにマックスだと思っていた、その1.5倍は口を開き、断層のすべてがひと口に収まるよう、思いっきりかぶりつく! その瞬間口じゅうに広がる旨味は前回同様なんですが、今回はそこへ、2種のチーズの重厚なコクと塩気が加わる。さらに、ぷりんっとした目玉焼きの食べごたえも加わる。食べすすめるとこんどは、半熟の黄身のとろ〜りとした濃厚さも加わる。
 すかさずハイボールをぐびぐび〜! ……はっきり言って、天国ですよ、もう。
 今現在、今回の記事についてひとつだけ反省している点があります。僕、タイトルからずっと「高級」を連呼してましたよね。だけど、こんなに美味しいバーガーが1600円って、むしろ安いくらいだわ。そう考えるともはやこれは「激安ハンバーガー」。でもさ、今さらタイトルを「激安ハンバーガーで飲む」に変えたら、むしろそっちのほうがお店に失礼ですよね。あくまで、ふだんの自分の食生活から考えたら、かなり贅沢なハンバーガーということで、原稿はそのままにしておきます。

パリッコ(ぱりっこ)
1978年、東京生まれ。酒場ライター、DJ/トラックメイカー、漫画家/イラストレーター。2000年代後半より、お酒、飲酒、酒場関係の執筆活動をスタートし、雑誌、ウェブなどさまざまな媒体で活躍している。フリーライターのスズキナオとともに飲酒ユニット「酒の穴」を結成し、「チェアリング」という概念を提唱。2021年8月には、新刊『つつまし酒 あのころ、父と食べた「銀将」のラーメン』を上梓! また、『ノスタルジーはスーパーマーケットの2階にある』(スタンド・ブックス)『晩酌わくわく! アイデアレシピ』 (ele-king books)、『天国酒場』(柏書房)、『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』(光文社新書)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)、『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、漫画『ほろ酔い! 物産館ツアーズ』(少年画報社)、など多数の著書がある。
Twitter @paricco

バックナンバーはこちらから!


ほかに光文社新書のnoteにはこんな記事も!


この記事が参加している募集

光文社新書ではTwitterで毎日情報を発信しています。ぜひフォローしてみてください!