炊事場に寄りかかり、やっとのことで料理する――超高齢化と在宅化が推し進められる時代に|『長寿期リスク』春日キスヨ
台所に立ち続ける90代女性――「しんどくて、ハアッって腰を伸ばしてまた取りかかる」
両親と離れて暮らす娘の立場の3人の女性たちが語る、母親の限界点での状況である。
MAさんの場合、その場に同席した母親が「私は台所仕事もこうやって(炊事場に寄りかかり、料理をする身振り)肘(ひじ)をついてしていました。食事だけは最後まで自分でつくりました。そうやって頑張ってきました」と、言葉を継いだ。
話された内容は、どの話も初めて聞く事実で、90歳を超えた女性たちがそんな状態で家事を担っている事実、しかもそんな人がひとりならず、何人もいる事実に、当初は驚いた。
しかし、話を聞き進めるうちに、超高齢化が進み、在宅化が推し進められる時代には、こうした夫婦が増えていく。そう考えるようになった。
さらに、こうした状況は、「高齢夫婦は互いにいたわり合い、協力し合っている」という社会通念とも異なっている。
それどころか、超高齢になると、社会的認知機能の低下が進み、相手の気持ちを汲み、思いやる力がさらに乏しくなるため、自分の身を守るだけで精一杯。
その結果、夫婦間のコミュニケーションも成り立たないようになり、それがさらに妻の負担を重くしていく。そんな夫婦の方が多くなる。
そうした事実に気づいたのは、限界点で両親の生活に深く関わり始めた子世代女性たち(娘や息子の妻)が発する、親の夫婦関係に対して持つ「疑問」や「驚き」の声を聞くなかでだった。
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以上、光文社新書『長寿期リスク――「元気高齢者」の未来』(春日キスヨ著)の第3章「長寿期夫婦二人暮らしの行きつく先」より抜粋してお届けしました。
長年にわたる聞き取りを元に、長寿期在宅高齢者に起こっている問題を丁寧に描きます。
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