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女性は高齢になっても「食事づくりは生きがい」なのか?|『長寿期リスク』春日キスヨ


女は死ぬまで「食事づくり」?


長寿期になると、多くの人が体力も気力も落ち、誰かの世話にならざるをえ
なくなる事実を、本当は目にし、知識としては知っているはずである。

にもかかわらず、暮らしのなかでは、「見ていても、見ない」関係がつくられることの方が多い。

聞き取り調査をしているとき、それを痛感した場面があった。妻とシングル息子との3人で暮らす70歳のデイサービス施設の施設長である男性の話を聞いたときのことである。

本題に入る前の雑談中、男性は自分が病気がちの妻に代わり、毎日の食事づくりをしているが、それがどんなに大変なことか、熱を込めて話していた。

だから、同じ苦労を味わっている人だから、長寿期高齢女性が担う食事づくりの苦労も共感的に理解するだろう。そんな期待を持って質問していった。しかし、そうはならなかった。

施設長「もう、食事づくりが毎日大変なんです。買い物に行くのも遠いから大変。我が家はスーパーまでけっこう遠いんです。それに毎日何をつくるか。メニューを思いつかないし、味付けもうまくいかないし。仕事から帰ってからつくるんですが、本当に大変」

春日「そりゃあ、大変ですねえ。毎日となると、何を食べるか、献立を考えるのがねえ。いつもしていないと思いつきませんし。でも、デイに通ってこられる女性の方でも、ご主人と二人暮らしとか、シングルの息子さんと同居されている場合、少々身体が不自由でも、食事をつくっておられる方がおられるのでしょう。それに比べると、施設長さんは車の運転もできるんだし」

施設長「いやあ、そりゃあ、皆さん、食事づくりをしておられる方はけっこうおられますよ。でも、女性の方の場合、男の僕がするのとは違う。それができることが生きがいなんだと思いますよ。皆さん、喜んでしておられるようです」


あれだけ食事づくりの大変さを語っていた施設長が、自分より年長で体力もないだろう長寿期女性が食事づくりをすることについては「生きがいなんだと思います」「喜んでしておられる」と言う。これは不思議なことだった。

長寿期女性ではなく、長寿期男性が妻のために食事をつくっていた場合、それを聞いた人はどう反応するだろうか。

「生きがい」や「喜び」になるとは言わず、「大変ですねえ」とその労をねぎらい、「えらいですねえ」「やさしいですねえ」と賞賛することが多いのではないだろうか。


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以上、光文社新書『長寿期リスク――「元気高齢者」の未来(春日キスヨ著)の第2章「増える長寿期夫婦二人暮らし」より抜粋してお届けしました。

長年にわたる聞き取りを元に、長寿期在宅高齢者に起こっている問題を丁寧に描きます。



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著者プロフィール


春日キスヨ(かすがきすよ)

1943年熊本県生まれ。九州大学教育学部卒業、同大学大学院教育学研究科博士課程中途退学。京都精華大学教授、安田女子大学教授などを経て、2012年まで松山大学人文学部社会学科教授。専門は社会学(家族社会学、福祉社会学)。父子家庭、不登校、ひきこもり、障害者・高齢者介護の問題などについて、一貫して現場の支援者たちと協働するかたちで研究を続けてきた。著書に百まで生きる覚悟――超長寿時代の「身じまい」の作法』(光文社新書)、『介護とジェンダー――男が看とる 女が看とる』(家族社、1998年度山川菊栄賞受賞)、『介護問題の社会学』『家族の条件――豊かさのなかの孤独』(以上、岩波書店)、『父子家庭を生きる――男と親の間』(勁草書房)、『介護にんげん模様――少子高齢社会の「家族」を生きる』(朝日新聞社)、『変わる家族と介護』(講談社現代新書)など多数。

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