女性は高齢になっても「食事づくりは生きがい」なのか?|『長寿期リスク』春日キスヨ
女は死ぬまで「食事づくり」?
長寿期になると、多くの人が体力も気力も落ち、誰かの世話にならざるをえ
なくなる事実を、本当は目にし、知識としては知っているはずである。
にもかかわらず、暮らしのなかでは、「見ていても、見ない」関係がつくられることの方が多い。
聞き取り調査をしているとき、それを痛感した場面があった。妻とシングル息子との3人で暮らす70歳のデイサービス施設の施設長である男性の話を聞いたときのことである。
本題に入る前の雑談中、男性は自分が病気がちの妻に代わり、毎日の食事づくりをしているが、それがどんなに大変なことか、熱を込めて話していた。
だから、同じ苦労を味わっている人だから、長寿期高齢女性が担う食事づくりの苦労も共感的に理解するだろう。そんな期待を持って質問していった。しかし、そうはならなかった。
あれだけ食事づくりの大変さを語っていた施設長が、自分より年長で体力もないだろう長寿期女性が食事づくりをすることについては「生きがいなんだと思います」「喜んでしておられる」と言う。これは不思議なことだった。
長寿期女性ではなく、長寿期男性が妻のために食事をつくっていた場合、それを聞いた人はどう反応するだろうか。
「生きがい」や「喜び」になるとは言わず、「大変ですねえ」とその労をねぎらい、「えらいですねえ」「やさしいですねえ」と賞賛することが多いのではないだろうか。
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以上、光文社新書『長寿期リスク――「元気高齢者」の未来』(春日キスヨ著)の第2章「増える長寿期夫婦二人暮らし」より抜粋してお届けしました。
長年にわたる聞き取りを元に、長寿期在宅高齢者に起こっている問題を丁寧に描きます。
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