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お盆と正月、結婚式、家族旅行……ハレの日のつき合いだけでは、気づくことができない「親の老い」|『長寿期リスク』春日キスヨ


「元気な頃の親のイメージ」のまま、ハレの日だけのつき合い


親が何らかの支えを必要とする年齢になっていても、離れて住む息子・娘との関係は、親がまだ若く元気だった60代、70代の頃の形にとどまっている。

そういう家族がけっこう多い。なぜだろうか。

知人の50代後半の男性が、「親は80歳過ぎですが、僕が持つ親の年齢イメージは、親が60代ぐらいの元気な頃でフリーズしていますねえ」と語っていた。

都会の大学に進学したのをきっかけに、卒業後もそのまま都会で暮らし、実家に帰るのは盆と正月だけ。

そのとき目にする親の姿は、高齢でも、自分をもてなすために忙しく立ち働く姿で、それがいまも続いているという。

高齢でもまだ若い60代、70代くらいまでの親が、離れて暮らす子どもとつくる関係は、年に2回の「盆・正月」の帰省や、家族旅行などの家族イベント、結婚式、葬式、法事などでの儀礼的つき合いだけ。

これはいわば、子どもが成人したあとの親子関係が「ハレ(晴)の日」仕様のもので、日常生活で生じるさまざまな困りごとや苦労など、つまり互いの「ケ(褻)」の部分を、親子が互いに目にし、分かち合うことがない形のものである。

だから、「ハレの日」の、いつも以上に元気に振る舞い、うわべを繕った親の姿だけしか目にしてこなかった息子・娘が、老いが進み、自分の力だけでは生活できなくなった親を受け止め、どのような手助けが必要かを判断し、介護保険サービスの利用などにつなぎ、親もそれを素直に受け入れていく方向で親子関係を組み替えていくことは、なかなか難しい。

加えて、これは傾向として息子の立場の男性に多いのだが、実家の近くに姉妹や世話好きの従姉妹(いとこ)などの女性親族が住む場合、本人は自覚しないままに責任逃れの関係となりやすい。

なぜなら、「日常の家事や親の世話は、女の役割」という、ケアをめぐるジェンダー意識がしみついており、親が何を思い何を望んでいるか、どんな状況・状態にあるかを、親の態度や言葉の端々から読み取り、親のために自分がどんな手助けをすべきか、必要な支援は何かなどを考え、行動する力が、女性より乏しい人が多いからである。

(もちろん、娘の立場の女性でも、親の近くに、親と仲がよく、頼りになる他の兄弟姉妹、親族などがいる場合などは、同様の関係になりがちであるが。)


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以上、光文社新書『長寿期リスク――「元気高齢者」の未来(春日キスヨ著)の第1章「長寿期在宅「ひとり暮らし」「夫婦二人暮らし」の危機」より抜粋してお届けしました。

長年にわたる聞き取りを元に、長寿期在宅高齢者に起こっている問題を丁寧に描きます。


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著者プロフィール


春日キスヨ(かすがきすよ)

1943年熊本県生まれ。九州大学教育学部卒業、同大学大学院教育学研究科博士課程中途退学。京都精華大学教授、安田女子大学教授などを経て、2012年まで松山大学人文学部社会学科教授。専門は社会学(家族社会学、福祉社会学)。父子家庭、不登校、ひきこもり、障害者・高齢者介護の問題などについて、一貫して現場の支援者たちと協働するかたちで研究を続けてきた。著書に百まで生きる覚悟――超長寿時代の「身じまい」の作法』(光文社新書)、『介護とジェンダー――男が看とる 女が看とる』(家族社、1998年度山川菊栄賞受賞)、『介護問題の社会学』『家族の条件――豊かさのなかの孤独』(以上、岩波書店)、『父子家庭を生きる――男と親の間』(勁草書房)、『介護にんげん模様――少子高齢社会の「家族」を生きる』(朝日新聞社)、『変わる家族と介護』(講談社現代新書)など多数。

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