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まるごとカマンベールチーズフォンデュ|パリッコの「つつまし酒」#167

チーズを直接?

 数年前、とある連載記事用の取材で、担当編集さんとふたり、秋川渓谷の河原でバーベキューをする機会がありました。当然、道中のスーパーで食材をあれこれ買いこむのですが、その時編集さんが「パリッコさん、これも焼きましょう!」と提案してくれたのが、なんと「カマンベールチーズ」。丸い石鹸のような形をしたチーズで、周囲が白カビに覆われた皮のようになっている、あれです。
 僕にはチーズをバーベキューで焼くという発想がなくて、「焼いたらどろどろになっちゃうのでは?」とも思ったのですが、おもしろそうだしと賛成。で、いざ河原に到着し、焼き網に、肉やら野菜やらと一緒に、そのカマンベールチーズをころんと置いておいたんですね。するとどうでしょう。チーズは数分でぐつぐつしだし、それでいて周囲の皮がしっかりと形状を保っていて、どろどろと網からたれ落ちていってしまうようなことはない。そこで編集さんがおもむろに、チーズの上部にぐるりとナイフを入れると、内部はチーズフォンデュソースのような状態に。そこに焼けた肉や野菜をつけながら食べてみたらば、これが夢のような美味しさ! 次からは、バーベキューをするときは絶対にカマンベールチーズを持っていこうと心に決めたのでした。
 が、そもそも僕は、そんなに頻繁にバーベキューをするほうじゃないんですよね。あぁ、あのカマンベールチーズフォンデュ、美味しかったよなぁ、また食べたいなぁ、とたまに思い出しては、でもな〜、バーベキューって準備やらなんやら、面倒なんだよな〜……と、煮え切らない態度で無駄に時間だけを消費していたのでした。

完全にチーズフォンデュの器だ!

 ところが、突然のひらめきが僕の脳内でスパークしたのは、ほんの数日前のこと。よく考えたらあのチーズフォンデュ、わざわざバーベキューの準備をしなくても、ホットプレートで再現できるんじゃないでしょうか? というか、なんでそんなことに何年も気づかないでいたんでしょうか?
 よ〜し、試してみよう!

どこにでもあるカマンベールチーズ

 さっそくスーパーへ行き、「明治北海道十勝カマンベールチーズ まるごとホールタイプ」を買ってきました。開封し、上部にぐるりと切り込みを入れたらホットプレートにそのまま、ぽん。

ぽん

 さらに周囲にフォンデュしたい食材を並べ、ホットプレートのスイッチオン。さてさて、はたしてうまくいくかどうか……。

こんな感じで

 食材第1弾は、鶏もも肉、チョリソー、マッシュルーム。しばらく待っていると、まずはチョリソーに焼き目がつきはじめましたよ。
 そこでビールをグラスに注ぎ、チーズフォンデュはひとまずおいといて、焼けたチョリソーをつまみに飲み始めることにしましょうかね。

いい焼き目だ
焼肉のたれをつけて

 焼けたチョリソーに焼肉のたれをつけて、パリッとひと口。すかさずキンキンに冷えたビールごく〜! う〜、たまらん! あの、これは前から思ってたことなんですけど、焼いたソーセージに焼肉のたれをつけた味こそが”バーベキュー味”って感じがしません? ほとんどバーベキューでしかやる機会がなく、だからこそバーベキューを象徴する味というか。つまりなにが言いたいかというと、もうこの時点で完全にバーベキュー気分。フォンデュがうまくいくかどうかは置いておいて、すでに超楽しい〜! っていう話なんですけれども。

チーズに変化が?

 しばらくすると、本題のチーズのほうに明確な変化が現れはじめました。熱で中身が膨張したのか、ぐるりと入れた切れ目の部分がフタのように盛り上がりだしましたよ。そこでフォークを横からさしこみ、ぐぐっと持ち上げてみると……お〜! なんと、フタ部分がおもしろいようにぱかっと外れ、これはもう、完全にチーズフォンデュの器だ!

ぐぐっ
ぱかっ!

 となれば良きタイミングだろうと、用意していた、早めに火が通りそうな野菜類である、ミニトマトとズッキーニも追加。
 いよいよ本番、フォンデュタイムのスタートです!

フォンデュ開始!

大発見! かと思ったら……

 ぐつぐつと煮えたち、「早く好きな食材をどっぷりと浸しちゃってください!」とでも言いたげなカマンベールチーズ。もちろんそうさせていただきますと、まずはじわじわと湧き出すエキスをくぼみにためた、マシュルームをとぷん。するとこれがも〜! きのこ特有の強い旨味と、濃厚なチーズの味わいが絡み合い、うっとりするばかりの美味しさ。
 続いて、鶏肉、チョリソー、ズッキーニ、ミニトマトと夢中で食べすすめますが、どれもこれもただ鉄板で焼いただけとは大違いの、“贅の極み”とでも表現したくなる味わいで、ビールがすすんでしょうがないっす!

マッシュルーム
鶏肉
3色混浴ミニトマト

 さてさて、ここらでお酒をキリッと冷やした白ワインに切り替え、本日のひとりフォンデュ大会も佳境へと突入。次なる追加食材は、カットした食パン&海老だっ!

そりゃあ合う。白ワイン
贅沢に海老を投入!

 たっぷりとチーズをまとった、奮発して買った大ぶりの海老。それをぷりんと噛みしめて飲む白ワインの爽やかさ。鉄板で表面を香ばしく焦がした食パンのふわり、さくり、とろ〜りの食感と、恍惚の美味しさ。いやはや、ちょっと度が過ぎるぞ、ホットプレートカマンベールチーズフォンデュの楽しさ!

海老! うまい!
パン! うまい!

 気がつけば、フタのようにぱかっと外して鉄板にのせておいたチーズと鶏肉がホットプレートのすみで融合し、絶妙なる「チキンのチーズ焼き」が勝手にできあがっているのも嬉しい。

ほっておくだけで絶品料理に

 それらを最後まで無我夢中で食べつくし飲みつくしたらば、最後にプレート上に残ったのは、もはや単なる「器」となり果てた、カマンベールチーズの皮のみ。

よく働いてくれた

 ところがその器がこれまた、勝手にぱりっぱりのチーズせんべい状になっておりまして、うまい! そいつをつまみにワインを飲み干した時の達成感たるや……。

最後まで美味しかった

 あらためて考えてみると今日やったことって、いつものホットプレート焼肉に、ただぽんとカマンベールチーズをのせただけなんですよね。それでここまで感動できるって、まじ、革命だわこりゃ……。
 と思って今、ふと「カマンベールチーズ フォンデュ」というワードでWEB検索してみたら、出るわ出るわ、同様のレシピ。
 な〜んだ、みんな、やってたならもっと早く教えてよ〜!

パリッコ(ぱりっこ)
1978年、東京生まれ。酒場ライター、DJ/トラックメイカー、漫画家/イラストレーター。2000年代後半より、お酒、飲酒、酒場関係の執筆活動をスタートし、雑誌、ウェブなどさまざまな媒体で活躍している。フリーライターのスズキナオとともに飲酒ユニット「酒の穴」を結成し、「チェアリング」という概念を提唱。2021年8月には、新刊『つつまし酒 あのころ、父と食べた「銀将」のラーメン』を上梓! また、『ノスタルジーはスーパーマーケットの2階にある』(スタンド・ブックス)『晩酌わくわく! アイデアレシピ』 (ele-king books)、『天国酒場』(柏書房)、『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』(光文社新書)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)、『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、漫画『ほろ酔い! 物産館ツアーズ』(少年画報社)、など多数の著書がある。
Twitter @paricco

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