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「100歳で食事作り」は宝くじの当たりみたいな人――憧れと現実|『長寿期リスク』春日キスヨ


「100歳でも食事づくり」に感じる憧れと安心


女性が家事役割を担うのが当然、どんなに高齢であっても女性は料理をする力を持ち、喜んでそれを行うものだ、という考えは、社会に満ち満ちている。

テレビ番組などでは、著名人でもない、一般の元気な長寿期女性高齢者が登場する場合、その人の料理能力が「元気さ」を支える原動力であるとして、毎日の献立などとともに紹介されることが多い。

それはたとえば、「○○おばあちゃんのおいしい長生きレシピ」という具合に。

そして、その食材の買い物は他の人に頼んでいる事実や、ときどき、鍋を焦がしたり、味付けがうまくいかないことがあることなどは、語られることはない。

このことに関連して、ケアマネージャーとして地域の高齢者を支援する立場の男性、SHさん、TKさんに、次のように質問したことがある。

春日「地域で暮らす長寿期女性高齢者が、テレビなどで紹介される場合、自分で食事をつくり、その人の毎日の献立まで紹介するようなものが多いのは、なぜだと思われますか。80歳を過ぎ、90代になっても自分で食事づくりをしている人の多くは、やっとの思いでしている方も多いと思うんですが」

すると、即座に2人から、次のような答えが返ってきた。

SHさん「まあ、90歳を過ぎ、100歳になっても食事づくりをする人なんて、宝くじの当たりみたいな人ですよ。だから、みんな憧れる。特に60代、70代の人は、それを見て、『歳をとっても大丈夫だ』と安心する。
でも、宝くじははずれの人の方が多いでしょ。それと同じですよ。ほとんどの人は、そこにいくまでに、ヨタヨタ、ヨロヨロ。倒れる人の方が多い」

TKさん「そうそう。宝くじも1000人に1人当たればいいほう。それと同じですよ。みんな誰かの世話になる。でも、元気で100歳まで、と思いたいんです。80代半ばを過ぎて、自分で食事をつくり続けるというのは大変だと思いますよ」

長寿化が進んだとはいえ、実態は、そこに行くまでに「ヨタヨタ、ヨロヨロ。倒れる人の方が多い」という。

しかし、情報の受け手として想定されるのが、60~70代の高齢者だから、願いを達成できた「大当たり」の長寿期高齢者は取り上げられるが、「はずれ」の方の普通の長寿期高齢者の暮らしの大変さなどは、報道されることは少ないという。

「そうだろうな」と私も納得した。

しかし、長寿期になると、多くの人が体力も気力も落ち、誰かの世話にならざるをえなくなる事実を、本当は目にし、知識としては知っているはずである。

にもかかわらず、暮らしのなかでは、「見ていても、見ない」関係がつくられることの方が多い。

長寿期高齢者の食事づくりに対して、その労をねぎらうどころか、その負担を見ないようにする方向で、「生きがい」や「喜び」「元気」をもたらすものとして、何歳になっても食事づくり能力を発揮し続けることが期待される。

「自分ごと」としては、食事づくりの負担の重さを訴えても、それが「他人ごと」となると、そうなってしまうようなのだ。

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以上、光文社新書『長寿期リスク――「元気高齢者」の未来(春日キスヨ著)の第2章「増える長寿期夫婦二人暮らし」より抜粋してお届けしました。

長年にわたる聞き取りを元に、長寿期在宅高齢者に起こっている問題を丁寧に描きます。



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著者プロフィール


春日キスヨ(かすがきすよ)

1943年熊本県生まれ。九州大学教育学部卒業、同大学大学院教育学研究科博士課程中途退学。京都精華大学教授、安田女子大学教授などを経て、2012年まで松山大学人文学部社会学科教授。専門は社会学(家族社会学、福祉社会学)。父子家庭、不登校、ひきこもり、障害者・高齢者介護の問題などについて、一貫して現場の支援者たちと協働するかたちで研究を続けてきた。著書に百まで生きる覚悟――超長寿時代の「身じまい」の作法』(光文社新書)、『介護とジェンダー――男が看とる 女が看とる』(家族社、1998年度山川菊栄賞受賞)、『介護問題の社会学』『家族の条件――豊かさのなかの孤独』(以上、岩波書店)、『父子家庭を生きる――男と親の間』(勁草書房)、『介護にんげん模様――少子高齢社会の「家族」を生きる』(朝日新聞社)、『変わる家族と介護』(講談社現代新書)など多数。

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