「100歳で食事作り」は宝くじの当たりみたいな人――憧れと現実|『長寿期リスク』春日キスヨ
「100歳でも食事づくり」に感じる憧れと安心
女性が家事役割を担うのが当然、どんなに高齢であっても女性は料理をする力を持ち、喜んでそれを行うものだ、という考えは、社会に満ち満ちている。
テレビ番組などでは、著名人でもない、一般の元気な長寿期女性高齢者が登場する場合、その人の料理能力が「元気さ」を支える原動力であるとして、毎日の献立などとともに紹介されることが多い。
それはたとえば、「○○おばあちゃんのおいしい長生きレシピ」という具合に。
そして、その食材の買い物は他の人に頼んでいる事実や、ときどき、鍋を焦がしたり、味付けがうまくいかないことがあることなどは、語られることはない。
このことに関連して、ケアマネージャーとして地域の高齢者を支援する立場の男性、SHさん、TKさんに、次のように質問したことがある。
すると、即座に2人から、次のような答えが返ってきた。
長寿化が進んだとはいえ、実態は、そこに行くまでに「ヨタヨタ、ヨロヨロ。倒れる人の方が多い」という。
しかし、情報の受け手として想定されるのが、60~70代の高齢者だから、願いを達成できた「大当たり」の長寿期高齢者は取り上げられるが、「はずれ」の方の普通の長寿期高齢者の暮らしの大変さなどは、報道されることは少ないという。
「そうだろうな」と私も納得した。
しかし、長寿期になると、多くの人が体力も気力も落ち、誰かの世話にならざるをえなくなる事実を、本当は目にし、知識としては知っているはずである。
にもかかわらず、暮らしのなかでは、「見ていても、見ない」関係がつくられることの方が多い。
長寿期高齢者の食事づくりに対して、その労をねぎらうどころか、その負担を見ないようにする方向で、「生きがい」や「喜び」「元気」をもたらすものとして、何歳になっても食事づくり能力を発揮し続けることが期待される。
「自分ごと」としては、食事づくりの負担の重さを訴えても、それが「他人ごと」となると、そうなってしまうようなのだ。
・・・・・・・・・・・・・・・
以上、光文社新書『長寿期リスク――「元気高齢者」の未来』(春日キスヨ著)の第2章「増える長寿期夫婦二人暮らし」より抜粋してお届けしました。
長年にわたる聞き取りを元に、長寿期在宅高齢者に起こっている問題を丁寧に描きます。
・・・・・・・・・・・・・・
著者プロフィール
・・・・・・・・・・・・・・・・・
「はじめに」と目次はこちらから↓↓↓
バックナンバーはこちら
・・・・・・・・・・・・・・・・・
光文社新書『長寿期リスク――「元気高齢者」の未来』(春日キスヨ著)は、全国の書店、オンライン書店にて好評発売中です。電子版もあります。