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回転寿司屋のラーメンがちょうどいい。|パリッコの「つつまし酒」#157
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回転寿司屋のラーメンがちょうどいい。|パリッコの「つつまし酒」#157

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その手があったか

 以前、家族で「スシロー」に行った時のこと。当然のことながらまずは寿司を数貫つまんだ後、妻が、思いもよらぬ発言をしたのです。「私、ラーメン食べちゃおうかな〜」。
 え! 寿司屋でラーメン!? と一瞬驚いたものの、考えてみれば目の前の娘が嬉しそうに食べているのは、フライドポテト、からあげ、チョコケーキなど。むしろ、「ここは寿司屋だから、食うのは寿司」という固定観念にとらわれていたのは、僕だけだったようです。
 その時妻は、限定販売されていた「煮干しラーメン」的なものを頼み、僕もひと口分けてもらったところ、これが予想以上に美味しい! 専門店にも負けないくらい濃厚に煮干しが効いたスープに、食べごたえ抜群の太麺。また、あくまでサイドメニューという扱いだからでしょう。一般的なラーメン屋のそれと比べてサイズが小ぶりなのもいい。
 この連載が書籍化された際のタイトルにもなった『あのころ、父と食べた「銀将」のラーメン』の回で書きましたが、最近の僕は、それまでさほど興味がなかったラーメンがぐんぐん好きになってきています。「今日のお昼は絶対ラーメン!」なんて気分の日も多い。ただ、専門店にしろチェーン店にしろ、近年めっきり食の細くなってきた僕にとって、一人前はちょっと多いんですよね。事前調整が必要になる。そこへいくと、一般的なものと比べて1/2〜2/3くらいのサイズで、しかも値段もお手頃な回転寿司ラーメンって、もしかして、自分にとって最高に“ちょうどいい”のでは!?
 と、がぜん興味が湧いて来た回転寿司ラーメン。あれこれ食べてみることにしましょう。

ラーメンでもあり、あさりバターでもある

 まずやって来たのは、僕にとってはおなじみの「はま寿司」。
 席に案内されるなり、寿司メニューには目もくれず、サイドメニューのラーメンコーナーめがけて一直線。お、あったぞあったぞ。期間限定「“海の恵みのラーメン”シリーズ」。すべて税込みで、「貝節醤油ラーメン」(418円)、「あさりバター醤油ラーメン」(506円)、「だし香る辛旨醤油ラーメン」(506円)の3種類。そうそう、最近の回転寿司のラーメンって、醤油、みそ、塩、みたいなありふれた感じじゃなくて、たいていこんなふうに、ものすごく凝ったラインナップになってるんですよね。企業努力〜。
 今回は、なかでもいちばんお酒のつまみになりそうな「あさりバター醤油ラーメン」、いってみましょう。

「あさりバター醤油ラーメン」

 おおおおお! これはもう、届いた瞬間にうまい。見ただけでわかる。醤油ベースのスープに浸った、たっぷりのあさり。とろりと溶けて丼全体に星空のごとき輝きをまき散らす、黄色いバター。それらが一体となった香りが、強烈に食欲を刺激してきます。
 さっそく、シンプルな中細ストレート麺を勢いよくすすりこんでみると、あらま〜! 濃厚な貝の旨味がバター醤油味でブーストされ、これはもはや「ラーメン」であると同時に「あさりバター」でもある。「主食」であると同時に「つまみ」でもある。しかも、スープの最後の一滴までもが。こいつでやるキンキンの生ビール、こたえられません!

この素直な麺がまたいい
「生ビール 小ジョッキ」(275円)とともに

 さて楽しくなって来たぞ。といったところでひとつ、いたずら心がむくむくと湧いてきました。
「今日はもう、寿司頼まないで帰ってやろうかな……」
 そう。せっかくやって来た回転寿司屋において、寿司を一貫も頼まないという暴挙。僕はこの類の行動を「冒涜のグルメ」と呼んでいるのですが、無心にラーメンをすすっていたら、なんだかそんな日があってもいい気がしてきた。お会計時、店長に裏の小部屋に呼ばれ、「なぜ当店に来て、お寿司をお召しあがりにならなかったんでしょうか?」と詰問された場合、正直に「すみません……つい出来心で……」と謝罪することにしよう。誠意を持って謝れば、きっとおまわりさんまでは呼ばれないだろう。そう決意し、えいやっと注文ボタンを押したのは、まさかの「ひとくちチーズ餃子〈メープルソース〉」!

「ひとくちチーズ餃子〈メープルソース〉」(220円)

 こちら、カリカリに揚げられた餃子の皮のなかにとろとろのチーズが包みこまれ、メープルシロップ風味のソースがかかっているという攻めた一品。こんなもんがビールに合わないはずもなく、「今日は様子見で」なんて小サイズを頼んだ生ビールでしたが、けっきょくもう1杯おかわりしちゃいましたよ。まったくもう、はま寿司さんったら。やらかしてくれるんだから。

各店それぞれのアプローチが楽しい

 続いてやって来たのは、寿司皿5枚で挑戦でき、運が良ければ景品が当たる「ビッくらポン!」でおなじみ「くら寿司」。ここのラーメンも攻めてますね〜。すべて税込み450円で、「牛だし白湯らーめん」「胡麻香る坦々麺」「追い鰹醤油らーめん」「濃厚味噌らーめん」の4種類。回転寿司ラーメンにはどちらかといえば魚介系が多いイメージなので、ここはあえての濃厚味噌、いってみますか。
 それからそれから、くら寿司にはなんと、通常の生ビールに加えて「ペールエール」があるじゃないですか! これはおもしろいぞと注文。

「ペールエール」(660円)

 まずもって、グラスが最高にかわいい。家に欲しい。こいつをごくりとやると、日本で主流のラガータイプとは一味違うホップの華やかな香りが鼻に抜け、「ここ、本当に回転寿司屋?」ってな気分になります。
 これに合わせるのが、濃厚味噌ラーメン。

「濃厚味噌らーめん」

 大きめのチャーシュー、半熟玉子、ねぎ、それから、うどんと言われてもおかしくないくらいの極太麺。これまた本気を感じさせるビジュアルですね〜。
 おもむろにスープをひと口。うわ! こりゃまじで濃厚だ! コク深いみそ味をベースに、塩気も甘みもしっかり強め。脳がじわーんとしびれるうまさ。このくらいのスープじゃないと、きっとこの麺には対抗できないんだろうな。いや、おもしろいです。回転寿司ラーメンの世界。

極太麺のすすり心地が気持ちいい!

 さて、くら寿司で注文した“寿司以外”メニューは、なんと1皿110円の「海鮮ユッケ」。お寿司に使ういろんな魚の、お刺身のはしっこなのかな。それがたっぷり。その上に半熟玉子と刻みねぎ。それから、ユッケ風の甘辛ダレ。値段からは信じられない贅沢な美味しさで、これ、個人的にくら寿司のマストメニューになりそうです。同じく110円のねぎとろ巻かなんかを頼んで、その上にこいつを豪快にぶっかけちゃったら、相当な幸せを手に入れられるんじゃないですかね? なんて、勝手に次回への妄想を膨らませつつ。

「海鮮ユッケ」

 今回のラストは、僕に回転寿司ラーメンの存在を初めてしっかりと認識させてくれた「スシロー」。ラーメンは、各363円というかなりお得な価格で、「新・コク旨まぐろ醤油ラーメン」「新・鯛だし塩ラーメン」「新・濃厚えび味噌ワンタンメン」の3種。う〜ん、どれもそそられるな〜。が、ここは、具材の「まぐろカツ」がインパクト絶大な、コク旨まぐろかな。
 お酒は、今日はハイボールな気分。それから、どーんとフェアが展開されているらしい「肉山」とのコラボメニューのなかから、あまりにもぶっ飛んだコンセプトが気になった「禁断の肉バーガー」も注文。

「禁断の肉バーガー」(330円)と「角ハイボール」(385円)

 ラーメンよりも先に届いた肉バーガーとハイボールを前にし、あらためて思いましたよね。「ここ、何屋?」って。一般に肉バーガーと聞けば、「それは普通のハンバーガーでは?」と思ってしまいますが、さにあらず。こちらは肉厚のハンバーグを半分にカットし、そこにシャリを挟みこんだ一品なんですね。

見たことのない食べもの

 いや〜笑える。はい、こういうの大好物です。が、ふと思う。これ、どうやって食べるんだろう? しばらく考えた末に理解しました。下に敷いてあるバーガーチェーン風の紙の意味を。あ、そういうことかと。つまりこれは、その名のとおり、バーガーだったんだと。

こういうことだ

 包み紙で具材とシャリを挟み両手で持ってかぶりつくという、とても寿司屋にいるとは思えない状況に混乱してきますが、この肉々しさとハイボールが合わないわけはない。いぇ〜い! た〜のし〜! なんてやっていると、いよいよラーメンも到着。

「新・コク旨まぐろ醤油ラーメン」

 これまた攻めの姿勢を感じる一杯ですね〜。ラーメンの上に2種のねぎと、まぐろカツがたっぷり。スープは一見オーソドックスに見えますが、これがなんと、まぐろとサバと牛のトリプルスープなんだそうです。
 まずはそのスープを飲んでみると、これまでのなかでいちばん正統派。刺激は強すぎず、じんわりと魚介や牛の旨みが広がるていねいな仕上がり。これは、しみじみとうまいな……。
 続いて気になるまぐろカツ。魚と肉の中間のような味わいで、またまたうまい。カットのしかた、食感、それから、スープの牛だしの影響もあるのかな。どこか「レバーフライ」を思わせるようでもあり、ハイボールがすすむこと。

完成度の高い一杯

 ぷりぷりとした食感が心地いいストレート太麺もスープとの相性ばっちりで、今や回転寿司チェーンのなかでも盤石の人気を誇るスシローの、王者たる風格を感じるような一杯でした。
 以上、安い! うまい! 適量! の三拍子揃った回転寿司のラーメン。常にアグレッシブな新商品が登場しているらしいのもおもしろく、今後もそのシーンを追っていきたい世界だなと思いました。

パリッコ(ぱりっこ)
1978年、東京生まれ。酒場ライター、DJ/トラックメイカー、漫画家/イラストレーター。2000年代後半より、お酒、飲酒、酒場関係の執筆活動をスタートし、雑誌、ウェブなどさまざまな媒体で活躍している。フリーライターのスズキナオとともに飲酒ユニット「酒の穴」を結成し、「チェアリング」という概念を提唱。2021年8月には、新刊『つつまし酒 あのころ、父と食べた「銀将」のラーメン』を上梓! また、『ノスタルジーはスーパーマーケットの2階にある』(スタンド・ブックス)『晩酌わくわく! アイデアレシピ』 (ele-king books)、『天国酒場』(柏書房)、『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』(光文社新書)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)、『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、漫画『ほろ酔い! 物産館ツアーズ』(少年画報社)、など多数の著書がある。
Twitter @paricco

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