南極なのに…?昭和基地は「建設現場か砂漠の基地か」雪で覆われていなかった【本文先行公開】
皆さんこんにちは!元光文社新書の藤です。
話題の7月新刊『南極で心臓の音は聞こえるか』(山田恭平・著)の一部を先行公開します!
『南極で心臓の音は聞こえるか』ってなに?という方はこちらの記事を…。
今回は日本の南極観測の拠点・昭和基地がある東オングル島に初めて降り立った時の様子を先行公開。
ところで皆さん! 昭和基地って南極大陸にないって知ってましたか?! 昭和基地は南極大陸のすぐそばにある離島・東オングル島にあります。建てたのは第1次南極地域観測隊の皆さんです。南極観測活動は戦後日本の再起をかけた国家プロジェクトでした(詳細はこちらの記事に)。以来60年近く、日本は東オングル島を拠点に南極大陸に渡り、活動を続けています。
著者・山田さんが昭和基地に抱いた印象は「建設現場か、砂漠の基地か」――。なぜなら足元が土&岩、茶色い…。「氷に閉ざされた静謐な場所」のイメージは早々に覆されたようです。
建設現場か砂漠の基地か
S17観測拠点が今回の目的地だが、その前に昭和基地に寄って人員や工具をピックアップしなければならない。飛び立ったCHヘリはまずは昭和基地へと向かった。
昭和基地がどのような場所かは、実際に降り立ってみればわかる。風景を目の当たりにし、こう思うだろう。「建設現場のようだ」あるいは「基地のようだ」と。もっと言えば「砂漠の基地のようだ」と。
まず、足元が氷ではない。土か岩が見えている。
残り雪がある場所もあるが、真夏の12月(南半球なので季節が日本とは逆転している)、気温は0℃前後であり、照りつける日光は岩と砂を焼き雪氷を融かしていく。コンテナやドラム缶がそこら中に積まれ、いすゞ自動車のトラックが走り回り、鉄管で組み立てられた台ではコンクリートが練られている。
プレハブを横に広くしたような建物が立ち並び、人々はいずれもヘルメットを被って作業している。夏の昭和基地の写真を見せられて「この場所は採掘場か砂漠の基地、ど~っちだ?」と女子高生に可愛く訊かれて「いや……南極でしょ?」と即答できる人間は多くはないだろう。「雪と氷で覆われた静謐な空間」というイメージは、一瞬にして砕かれる。基地はまさしく「基地」だった。
夏の昭和基地、Aヘリポートから。写真奥に見えている建物は「二夏(になつ)」と呼ばれる夏期用の観測隊員の宿舎。足元が見事に茶色いです。
呆然としている余裕はない。ヘリコプターで降り立ったからだ。
ヘリを利用するのは自分たちだけではないため、すぐに飛び立ってしまう。ヘリが飛び立つ際の下方への風(ダウンウォッシュ)は凄まじく、ヘリポートの物陰に隠れないと砂埃が服のあらゆる場所から入り込み、露出した皮膚を探し出して陰湿に叩く。
ヘリが去ってから、行動開始だ。
このとき一緒に行動していたのは、同じ大気関係を担当している隊員(以下、大気隊員)である。自分の監スーパーバイザー督者のようなものであり、同じ国立極地研究所に所属している研究者である。今回のプロジェクトのうち、大気関係のものは彼が主導している。情けないかな、自分は研究者であるが、主導している研究があるわけではない。今回の南極観測への参加も、大気隊員のおこぼれにあずかったようなものである。実績があるわけではない。能力があるわけでもない。が、それでも観測隊は観測隊である。観測、研究することはあるのだ。
CHヘリは押し込めば20人以上搭乗できるであろう大型ヘリであり、大人数の輸送や物資貨物には向くが、少人数の行程に回せるほど台数があるわけではない。基本的に「しらせ」に搭載されているCHヘリは3台あるのだが、59次隊では折悪く、訓練時に1台が破損してしまっているため、2台しか稼働可能なものがない。
そういうわけで、小回りが利くのは観測隊ヘリであるユーロコプターエキュレイユAS350(以下、ASヘリ)である。こちらはほっそりとした小型のヘリコプターで、最大搭乗人数もパイロットを含めてわずかに6人だが、取り付けられた籠でいくらかの荷物は運べるうえ、窓も大きいので遊覧飛行には最適だ。今回は日帰りのミッションなので荷物も少なく、ASで十分なのだ。
大気隊員とともに、先に昭和基地に入っていた車両隊員と電気隊員、58
次設営隊員、そしてヘリパイロット隊員と合流し、総勢6人でASヘリに乗り込んだ。
昭和基地付近の風景より、「動物注意」のペンギン看板。
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