南極からの情報発信「南極授業と南極教室と南極中継って、何が違うの?」【新刊公開】
皆さんこんにちは!元光文社新書の藤です。
話題の7月新刊『南極で心臓の音は聞こえるか』(山田恭平・著)より一部を公開!『南極で心臓の音は聞こえるか』ってなに?という方はこちらの記事を…。
今回は南極からの情報発信についてです。南極観測隊員は現地で観測活動に従事する傍ら、日本や各国と中継をつなぎ、南極の様子を紹介する活動も行っています。『南極観測隊員と中継でお話しよう!』的なお子さん向けイベントを見聞きした方も多いのではないでしょうか? あれって、3種類あるそうなのです。それぞれの違いってなんなんでしょうか?
南極授業と南極教室と南極中継
5月5日といえば子どもの日である。精神的にはともかくとして、年齢的には昭和基地には子どもはいないが、子どもと話す機会はないではない。
南極授業は夏隊の派遣教員隊員によって行われる学生を対象とした中継で、派遣教員が勤める学校と通信を行う。夏隊の行動なので、もちろん期間は夏だ。
南極教室も同じく学校と通信を行うが、越冬隊員によって行われるという点が違う。また、夏と違って越冬期間中の厳寒期に行われるため、「南極らしい」南極を見せられるのが特徴だ。
この2つの中継は肩に担ぐタイプのビデオカメラなどの本格的な機材を用いての中継を行い、MCのほか、ディレクターやタイムキーパー、AD、照明係などを割り当てて実行する。また、日本では決められた時間に学生が集まって中継を見るので、時間に合わせられるようにきちんとした台本がある、きちんとした中継である。たいていは担当MCの母校と通信をし、管理棟連内部をひととおり歩き回ってから食堂へ行き、日本からの質問を受けてこれまでにない真面目な顔で隊員が答えたり、南極での活動を動画やスライドで解説したりする。
無駄に朝から風呂に入る隊員、目的不明の謎の観測をする隊員、台本があるだけあって、仕込みも上々だ。日頃は仲が悪い隊員ですら仲睦まじくしているのは世のため子どもたちのためである。
中継用の実験、「凍ったインスタントラーメン」
一方で南極中継はというと、こちらはタブレットなどを用いた簡易的な中継で、大型機材を使わず、授業でもないので最低限の人数で可能となっている。また、台本がない場合があり、MCの裁量が大きい。対象が学校ではなく科学館やサークル会場などなので、時間にも比較的自由が利くせいだろう。
中継のほうはものすごくいいかげんにやっているように見えるが、最低限の人数で簡易的な装置を使うということは動きが軽く、コードという物理的な制約のあるビデオカメラでは行けない場所、たとえば外の19広場から中継を行うこともできるという利点がある。
また、前述したように台本がなくMCの裁量が大きいため、時間の使い方も中継先の状況や実際の進行に従って決めることができ、内容もそれぞれの開催場所に合わせて決定することができる。南極教室はある程度の大枠が決まっているため、南極教室のために各地の小学校を転々としているプロ小学生のように何度も見る人がいたら途中で飽きられてしまうだろう。そういうわけで、個人的には南極中継のほうが好ましく感じる。楽だし。
これらの情報発信は59次隊では40回を超えて行われた。その中には国連パレスチナ難民救済事業機関ガザ事務所やヨルダン日本語学校との通信もあった。
子どもたちの質問は「南極で家族と離れて寂しくないですか」「どうやって過ごしていますか」などと甘ちゃんである。コンプライアンスを遵守しているので、「おじさんは奥さんが怖いから南極でのびのび暮らしているよ」などと答える者はいない。家族関係についてどう感じるかは人それぞれで、たとえば59次越冬隊では南極に行っている間に、日本に残してきた奥さんが出産したという事例が2例あり、その隊員たちは日本を懐かしんでいる。衛星経由で通信をしているため、大容量通信には規制があるものの、インターネットや電話は可能で、いつでも連絡は取れる。一方で娑婆では酒が飲めないため、自由に酒が飲める南極を楽しんでいるという山賊もいる。
昭和基地敷地内・発電棟近くの地形。夏の間は雪の少なかった基地周辺だが季節が移れば景色も一変する。幾度もブリザードが積み重なり、時には巨大な地形に発展することも
『南極で心臓の音は聞こえるか』本文公開 記事一覧
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