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「共感」は国際商取引における基軸通貨のようなもの――エンタメ小説家の失敗学40【最終回】 by平山瑞穂
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第7章 “共感”というクセモノを侮ってはならない Ⅴ一人称視点の作品
なお、「共感」ついでに、もうひとつ別の作品についても軽く触れておきたいと思う。二〇一三年三月に小学館から刊行された『ルドヴィカがいる』である。刊行順としては、前回の『僕の心の埋まらない空洞』の次に出た本だが、こちらは文芸誌『きらら』での連載を経て単行本化されたものだ。
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「小説を読めば、なんらかの共感が得られるはず」という当然の前提――エンタメ小説家の失敗学39 by平山瑞穂
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第7章 “共感”というクセモノを侮ってはならない Ⅳ「共感できない」は「つまらない」?
だから、発売後、「共感できなかった」という感想が続出したとしても、そのこと自体は問題ではないはずだった。そもそも、共感されることを期待していたわけではないのだから。しかし先に述べたように、一般読者にあっては、「共感できない」は実にしばしば、イコール「つまらな
共感を得ようとはまったく思っていなかった――エンタメ小説家の失敗学38 by平山瑞穂
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第7章 “共感”というクセモノを侮ってはならない Ⅲ納得できないタイトル
なお、この小説の原稿には当初、『グリッター』というタイトルがつけられていた。グリッター(本来は「輝き」の意味)とは、琥珀の標本の内部にときどき見られる、白く輝く亀裂のようなもののことを指している。樹液が地中で化石化する際、もともと樹液に含まれていた気泡が地熱で膨張し、周囲
「エロい! ――平山さん、それすごくエロいですよ!」――エンタメ小説家の失敗学37 by平山瑞穂
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第7章 “共感”というクセモノを侮ってはならない Ⅱ
不意に湧いてきたイメージ
思いのほか混み合っていた店内で、アイデアは順調に迸り出てきた。
「ストーカー殺人の容疑者が、対象である女性に執着する心理を、本人視点で赤裸々に綴る」という、僕が開陳した腹案を叩き台にしながら、設定は着々と膨らんでいった。その容疑者は妻帯者であり、執着していた女性と
期待されたのは『ラッシュライフ』型の作品――エンタメ小説家の失敗学35 by平山瑞穂
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第6章 オチのない物語にしてはならない Ⅴ映画との比較だけでなく……
自作を紹介するたびにこうして同じ文章をくりかえすのはせつないものがあるのだが、この本(『バタフライ』。文庫化の際に『午前四時の殺意』に改題)もまた、売れなかった。
ネット上の感想では、「展開が地味で期待外れだった」といった意味合いのものが目立った。おそらくそうした人々の一
タイトルについての不用意な失策――エンタメ小説家の失敗学34 by平山瑞穂
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第6章 オチのない物語にしてはならない Ⅳ同じ失敗
もうひとつ、似たような意味合いで「オチの欠如」とみなされたものが問題になったケースを挙げておこう。二〇一五年一二月に幻冬舎から書き下ろしとして刊行された、二三作目の小説『バタフライ』(二〇一八年一〇月に文庫化される際、『午前四時の殺意』に改題)だ。作家デビューして一〇年以上を経てなお、懲りずに
「伏線回収」という問題――エンタメ小説家の失敗学33 by平山瑞穂
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第6章 オチのない物語にしてはならない Ⅲ「結局、何が言いたいのか」
僕はおおよそそのような信念(「美学」と言い換えてもいい)のもとに、この作品(『桃の向こう』)をこのような形に仕上げ、自分としてはそれで何ひとつ疑問を抱いていなかったのだが、おおかたの一般読者の反応は、僕自身の狙いとは乖離したところにあった。
「煌子は結局、どうなったのか」「
そう出来の悪い小説ではなかったが……――エンタメ小説家の失敗学32 by平山瑞穂
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第6章 オチのない物語にしてはならない Ⅱ『桃の向こう』
結果として『野性時代』に掲載された短篇小説『桃の向こう』は、こういう内容である。
――大学生・来栖(くるす)幸宏は、同じ講義を受講していた女子学生・仁科煌子(あきこ)に惹かれ、親しくなっていくが、デートを重ね、キスを交わす間柄にまでなっていながら、彼氏・彼女として相手を束縛しながらつ
禍の種は最初から――エンタメ小説家の失敗学31 by平山瑞穂
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第6章 オチのない物語にしてはならない Ⅰアマチュア時代に書いた作品の再利用
エンタメ文芸の場合、「明瞭な起承転結」が求められるということは、すでにくりかえし述べてきた。もう少し詳しく言うとそれは、物語にメリハリのついた起伏がなければならず、はっきりそれと見て取れる物語上の終着点がなければならないということだ。つまり、オチらしいオチが必要なのだ
納得できないことは、ちゃんと言葉にして伝えたほうがいい――エンタメ小説家の失敗学30 by平山瑞穂
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〈コラム〉配慮と我執のあいだ 前章で取り上げた『プロトコル』については、今でも猛烈に悔やんでいることがひとつある。作品の内容についてではない。できあがった本の装幀をめぐる問題だ。
単行本のときはよかった。白地を背景に、コルクのついたなにかのキャップ状のものをつまんで持ち上げる女性の手を接写した写真が主要なモチーフとなっている、とてもしゃれた装
編集者の視点や受けとめ方は、世間一般と必ずしも一致しない――エンタメ小説家の失敗学29 by平山瑞穂
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第5章 「編集者受け」を盲信してはならない Ⅵ――『夜明け前と彼女は知らない』(『大人になりきれない』より改題)をめぐって致命的な欠陥
新潮社のGさんのもとでこの作品を構想した段階では、なんなら直木賞も射程に入れるくらいの勇み足な心構えだったが、版元が文芸大手ではないPHP研究所になった時点で、当初のその目標はだいぶ遠ざかってしまっていた。しか
ネットのレビューに打ちのめされる――エンタメ小説家の失敗学28 by平山瑞穂
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第5章 「編集者受け」を盲信してはならない Ⅴ――漂流する原稿巨大な壁
さしあたっての問題は、大見栄を切って新潮社から引き上げてしまった『ネオテニーたちの夜明け』の引き取り先をどうするかだった。とりあえず、『プロトコル』を出してもらった実業之日本社の担当編集者にメールで率直に経緯を明かし、かけあってみたところ、担当者本人は驚くほどの好反応で、「
どうしてこんな寝覚めの悪い結末になったのか――エンタメ小説家の失敗学27 by平山瑞穂
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第5章 「編集者受け」を盲信してはならない Ⅳ――『ネオテニーたちの夜明け』執筆をめぐって「黒いランチ」
自己啓発本にハマり、「デキる女オーラ」を撒き散らしているが、実際には仕事の要領が異様に悪く、無駄な残業ばかりしている三二歳の既婚女性、冴えない見かけながらカラオケのスキルだけは秀でており、社内の複数の若手女子が「サシカラ」の誘いに応じること